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【雑記】大雪渓にもメキシコはある

こんにちは。ヒトシです。
以前「イントゥ・ザ・ストーム」を見た際(記事はこちら)に実は「もう一択」として用意した作品がありました。その時は視聴時間の影響で選べませんでしたが今日はどうやら時間がある。……ならば、見るしかない。
というわけで今回の作品は

「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車(2014・ノルウェー/スウェーデン/フィンランド)」

です。

タイトルとポスターを見る限りでは「怒り狂ったおじさんが愛車の巨大除雪車を武器に街の悪党を除去し尽くす!」といった感じなのですがそんなハイじゃない。そんなにFury Roadしない。

ではこの映画はなんなのか。恐らく最も適切なのは「乾いた復讐劇」だと思われます。
長年に渡る除雪作業で市民賞を貰うに至ったニルス。しかし彼の息子がヤクの売人の濡れ衣を着せられて殺害される。ふつふつと怒りを滾らせたニルスおじさんは復讐のために1人、また1人とマフィア達の命を狙っていく。しかし、ニルスの戦いはさらなる嵐を呼び寄せていた……!

大まかなあらすじはざっとこんな感じです。いわゆる「なめてた奴が本当は危なかった」というプロットなのですがこの映画は大変な事に暴力が生々しい。機嫌のいいBGMもない、派手な爆発もない。待ち伏せ、殴りつけ、聞き出し、だてにして返すかと思いきやこの世から消し去る。だがニルスもおじさんなので相手をマウントパンチした直後に疲れ果てたりする。そのまま除雪車に背中を預け、殴った相手と目を見合わせてひと笑いした直後、至近距離で撃ってはならないタイプの銃で盛大に相手のドタマをかち割る。疲労と暴力がシームレスに繋がる。こういうあたりが生々しくて、「加工品の暴力」や「生の暴力」というより「産地直送の暴力」という感じを覚える。

そしてこの映画、とにかく人が死ぬ(しかも死ぬとその人の宗派に合わせたアイコンと名前が出される「追悼画面」が入る)のに画面と音楽がひたすら美しい。どこまでも続く大雪渓を走る除雪車、吹き上がる雪、鉛色の空。モノトーンに限りなく近い風景をぶち壊さない凝った音楽。シナリオにも画面にも噛み合う、乾いた復讐劇を淡く彩る画面と音楽は一線級と言ってもいいでしょう。

そしてもう1つの見どころはニルスおじさんに狙われるマフィア達。「伯爵」を筆頭に弁護できかねる悪行を積むマフィア達ではあるけれど、離婚調停中の「伯爵」を筆頭に背景がちゃんと用意されている。そしてニルスおじさんに容赦なく潰されたり、「第三勢力」の手で消されたり、「伯爵」本人の手で見せしめに葬られる。弁護はできないがかと言って全否定もできない、そんな集団です。

真の男ではない、バターコーヒー啜ってる連中から順に死んでいき、最後には白と鉛に赤を混ぜた北欧のメキシコに真の男のみが生き残る。「除雪車乗り」でしかないニルスおじさんは果たして真の男なのか、それとも……。

【評価】
暴力:4.0/5.0(ここまでやるのか、と言っていいレベルの暴力。生産者の顔が見える産地直送の暴力)
映像美:3.8/5.0(そこを売りにした映画ではない、と分かってはいるが大雪渓や夜景がいちいち美しい。そこで目を止めてしまう)
人間ドラマ:3.7/5.0(「伯爵」側にもきちんと用意されたドラマがあり、出て数分で死ぬ人にも相応のドラマがある)

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