【ニンジャ二次創作】「インヴィジブル・ハンド・アンド・ストリングス」(3)
※今回は前回に続きセクション2です。セクション2前半はこちらから。サカモ等主要人物を確認したい方はこちらから。
【Hitotext Projects】
「パッション重点!パッション重点!」17:3ヨタモノは口ずさみながら中古バンの運転席で「お客様」を探している。そもそも17:3ヨタモノが言い出したこともあってかかなり熱心な目つきであるが、その目つきの原因がZBRのせいであることもまた否定できない。ほかの二人も同様にややエキサイトした目つきでこの「連続誘拐ロール・プレイ」に興じていた。
「あのブッダパンクス二人組のやや後ろを歩いてるベイブ、実際『お客様』めいた雰囲気じゃないか?」後部座席のボンズ崩れが不意に提案する。「お客様」を探し始めて20分ほど経っただろうか。ダブルモヒカンは2枚目のZBRガムを噛みながら「実際豊満な!セバクワ=サン、前のカノジョああいう子じゃなかったっけ?」と運転手の17:3ヨタモノことセバクワに訊く。セバクワも以前付き合っていた女性を想起したのか、やや前のめりになってその女性を観察し、そのまま緩やかにブレーキをかけクルマを減速させた。
「セバクワ=サン?」「『お客様』はあのベイブで決まりだ、よく見つけたよゼオべ=サン」とセバクワはボンズ崩れを褒める。「それじゃあ仕事開始といきますか」「シュンデ=サン、あくまで奥ゆかしさを重点だからな、奥ゆかしさを」ダブルモヒカンに釘を刺すような発言をしながらもセバクワは口元の緩みを抑えられなかった。「さて、『お仕事』の時間だ!前後イェー!」「「前後イェー!」」
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ワカノデ・コミトはそのときIRC端末での会話に夢中だった。このことは確かに彼女自身のインガオホーであったかもしれない。彼女は接近する薄汚れた「繕修菅道水」中古バンにも、そのバンから降りてきた不自然に泥で汚れたツナギの三人組にも全く気付いていなかったのだ。「ドーモスミマセン、わたくしこのあたりで水道管の点検を行っているものですが」ボンズめいた頭の男にアイサツされ、ワカノデはなんとなく返した。「あ、ドーモ。うちのアパートは一括で業者と契約してたはずなので大丈夫です。スミマセン」「次年度から私どもの方で市の委託を受けて一斉点検の方を始めさせていただくことになっておりまして」「ちょっと今急いでいるのでこのへ……ンアーッ……」背後からダブルモヒカンの男が民生用スタン・ジュッテを持って近づいたことにワカノデは全く気づかなかった。ボンズめいた頭の男がゆがんだ笑みを浮かべていることに気づいた時には既に手遅れだった。
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「顧客獲得ヤッター!」シュンデと二人掛かりで失神したワカノデを運び込んだセバクワはやや小さな声で快哉した。「しかしシュンデ=サン、民生用スタン・ジュッテなんてどこから」「いつでも持ってるよ、『役に立つ』と思ってな」「ヨイデワナイカ・パッション重点用にか?備えがいいな」後部座席のゼオべもさすがに軽口を叩く。ここまで安易にことが運ぶとは思ってもみなかったからだ。
「しかしどうするよ?仕事場所は」シュンデが思い出したように言う。「大学に運び込んじゃっていいと思うけどな」セバクワはミラーに移るワカノデの顔を見ながら返した。「怪しまれるだろ、さすがに」「心配するなゼオべ=サン、誰も気づきやしないって」
シュンデはすっかりこの後の『仕事』の事を考えて返した。久しぶりに前後ワゴンのような真似をしたのだ。それも集団で、こんなにも簡単に。ハイスクール時代に誤って『乗客』を黙らせてしまって以来長らく控えていたが、やはりこのエキサイトメントを忘れることはできない。
そうして数分ほどクルマを走らせていた3人は、カーステレオに混じって謎の音が聞こえることに気づいた。「ゼオべ=サン、IRCの着信音変えたか?」「いや、まだ『ほとんど違法行為』のリミックスだが」「じゃあシュンデ=サンか?」「いや、俺でもない」「じゃあ何だ、この甲高い音は」「カーステレオじゃないのかセバクワ=サン、こんな古いクルマだしおおかた混線でもしたんだろう」「あの、キツネ・なんたらだかシグレ・なんたらだかってレディオか?」「あの違法レディオか?」「違法レディオならこんなにはっきりと聞こえないだろう」「じゃあ一体」なんなのだ、とセバクワが訊こうとしたとき、背後から拡声器めいたエフェクトの大声が響いた。
「そこの中古バン、直ちに停車せよ!繰り返す、そこの中古バン、実際直ちに停車せよ!我々はNSPDカンノギミ署である!警告を遵守しない場合威嚇射撃を行う!」
「「「アイエエエ!」」」セバクワ達は車内で一斉に叫んだ。まさか自分達のカジュアル非道行為がデッカーに見つかるとは全く考えもしなかったのである。
「どうすんだよセバクワ=サン!」「ここを暫く走れば大通りにぶつかる!そこでまけばなんとか……ゼオべ=サン!どうした!?」「前を見ろ、セバクワ=サン……終わりだ……」「どうしたんだよゼオべ=サン、何が」
「そこの中古バン、直ちに停車せよ!繰り返す、そこの中古バン、実際直ちに停車せよ!我々はNSPDカンノギミ署である!警告を遵守しない場合車両もろとも署まで来ていただくことになる!」
「マグロツェッペリンまで出しやがったあのクサレマッポ共!こうなりゃこの女人質にして立てこもるしかねぇ!」「待てシュンデ=サン!危険だ!」「ダッテメッコラー!まずはあのデッカービークルからスクラップ重点ダッコラー!」シュンデが強引に運転を代わりハンドルを急に切り返す!ナムサン!このままデッカービークルに激突しようというのか!?「このままミンチにしてもろともタマ・リバーに流すぞオラー!」
ガゴン。BLAM!BLAMBLAM!
「グワーッ……?」
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「ドシチ=サン、さすがです」運転席のサカモはデッカービークルを止めつつサカモに言う。ドシチの咄嗟の判断は実際死傷者を出さないものだった。上半身を半ば窓から乗り出したドシチは懐からデッカーガンを抜き、中古バンのタイヤを3度撃った。援護に来たツェッペリンによる車両係留を容易にするためである。間髪入れずにツェッペリンがウインチ付き磁石で中古バンを上から係留し、犯人の確保に成功した。
「いやぁ、まさかツェッペリン寄越してくるとは思わなかったからね……」ドシチは返す。カンノギミのようにやや予算が潤沢な署でもツェッペリンの配備は2機が限界であり、普段ならこのような誘拐犯に出す真似はしない。それほどカンノギミ署全体がこの事件に躍起になっていることを示していた。
「しかしまぁ、こんなに容易に被疑者を押さえられるとは思いませんでしたね」「そこが気になるんだよ、サカモ=サン」「でも今朝目撃された車両とナンバープレートも一致してるんです、さっき本庁に確認取っておきましたが」サカモはウインチで地面に降ろされる中古バンを見ながら返した。
犯人3名は既にツェッペリン内に拘留され、被害者も保護された。車内からはペンキ缶も発見されている。ほかの被害者を発見できれば、おそらく後は取り調べ室の戦いになる。ドシチはそう見ていた。
「ドシチ=サン!これを……」サカモがいつにも増して大きな声を上げたのはその時だった。「どうしたんだいサカモ=サン、急に」「どうして同じクルマの左右でこんなことになってるんですかね、ほら」サカモはまず運転席側の車体を指した。そこには太字の整ったフォントで
繕修管道水 と書かれている。次にサカモは「問題は助手席側です」と言いつつ反対側に回る。その後を追って助手席側を確認したドシチは車体にかなり汚い、やや判読しがたいフォントで 繕修菅道水 と記されていることに気づいた。
「サカモ=サン、これはかなり厄介な案件になってきたよ……」ドシチは頭を抱えた。自分たちが追った男たちは果たして真相に近い位置にいたのか、それとも真相とは無縁の存在なのか。すべての答えは、ブッダにすらいまだ見えない。
(セクション3に続く)