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プロローグ

甲子園・・・それは春と夏に行われるもはや説明不要の全国高校野球選手権の舞台であり、全高校球児が高校3年間をかけて挑む高い高い頂である

だがその聖地甲子園の土を踏むことが出来る高校は50にも満たないことでも有名であり、かなり高く狭いことで有名である・・・

今回はそんな高校三年をかけて挑んだ男たちの戦いのその後の物語である・・・




カキィーーーン!!!

ワァアアアアアアアアア!!!!



20XX年 夏   愛知県内某球場にて

9回表 ツーアウト ランナー1塁

 蒼院学園高 3-6 中商大附属高

「よっしゃあああ!!!ナイスバッティング!!!!」

「繋げよ和将!!!!」

ツーアウトから三番バッターがヒットを打ち、青色を基調としたユニフォームと帽子がトレードマークの「蒼院学園高校」のスタンドとベンチが湧き上がる

『くぅ~甘く入ったスライダーを打たれてしまった・・・』

『大丈夫、何てたって次のバッターは・・・』

蒼院学園高校のスタンドが湧き上がる中、伝統の白色を基調としたユニフォームに身を包んだ甲子園県内最多の出場回数を誇る強豪「中部商業大学付属高校」のバッテリーはマウンドでそう囁き、右打席の横で素振りを行っているバッターを見ながらほくそ笑む

「打つ・・・打つ・・・」

『・・・大丈夫だ。この試合3三振に抑えている。慌てずに自分の投球をしていこう』

この試合3打席3三振と当たっていない4番、「白銀 和将」が何かをつぶやきながら素振りをしている姿を見て得体のしれない”何か”を感じた中商大附属の捕手だったが、投手を不安にさせないように励ましてキャッチャーズボックスに戻る

『プレイ!!!』

白銀が右打席に入ったのを確認し、球審がプレイ再開のコールをする

『・・・前の3打席と雰囲気が違いすぎる・・・不気味だ』

前の3打席、白銀は『よっしゃあ、来い!』と一つ大きな声を出して喜々とした表情で打席に立っていたが、この打席は声も発さずかなり集中している状態だった

1回、2回・・・ゆっくりとバットを回した後にピッチャーとバットを平行にして一点集中をした後にバットを体の右側に寄せて構えに入った・・・前の3打席では無かったルーティンである

『コイツ・・・全然違うじゃねぇか・・・とりあえず様子見で一個外そう』

今までの攻めではだめだ・・・そう判断した捕手、「藤倉 優弥」は一つ外すことを要求した

投手は頷き、投球モーションに入ってから一球目を投げた

ボールは藤倉の要求通りベースからボール一個分外れる

『ボール!!!』

乾いたミットの音を鳴らしながら捕ったボールに白銀はそれを振らなかった為、審判はボールのコールをした

『やっぱり違う・・・今まではコース関係なくフルスイングしていたのに・・・白銀ってこんな奴だっか???』

今までと違い迷いなく見逃した白銀に藤倉は今まで対戦した記憶を呼び起こしながら思考を張り巡らす・・・

白銀とは高2の秋から公式戦で何度も対戦しているが、いつもの白銀は明るく溌溂としており、練習試合でもどの球でもフルスイングする事を貫いている男である・・・だが今の白銀からは程遠すぎるのである

『こんなに変わる事ってあるか・・・参ったな・・・こんな状態の白銀は見たことが無いからデータが無い・・・・・』

2年から強豪校の正捕手を務めており、U-18日本代表の候補にも名が挙がっている藤倉だが不慮の事態に軽くパニックになってしまっていた・・・



『タイム!!!』

藤倉が2球目に投げる球を迷い、かなりの間が流れた為中商大附属の投手が間を嫌いタイムをかけた

『・・・藤倉が迷っているのは珍しいな・・・まぁ明らかに白銀君の様子がおかしいのはあるけども・・・』

タイムをかけた投手もまた白銀の様子が違うことに気づくが、平静を装いロジンバッグに手をかけて滑り止めを施す

『・・・あいつが冷静でいてくれているーーならここは・・・』

そんな投手の姿を見た藤倉は次に投げる球を決めたのであった・・・

『プレイ!』

投手がマウンドに入ったのを確認した審判がプレイ再開のコールをする

以前ルーティンを行う白銀を見ながら藤倉は・・・インコースのストレートを要求した

『強気の投球が持ち味・・・なら攻めていかないといけないだろ!!!』

未知の打者にも臆さず攻める・・・強気のリードで藤倉は正捕手になり上がったのだ

インコースに構えた藤倉を見て投手は頷き、一度制止した後に投球動作に入り渾身の一球をインコースに投げた

『よし来た!!これでっ・・・・!?!?!?!』

最高の一球がインコースに来たので喜ぶ藤倉・・・だが目の前を鋭い速さで動く物体が見えた


・・・・・白銀のバットだった


カァアアアン!!!!

奇麗な金属音を鳴らしながら打球はレフト方向へと伸びていった・・・・・打球を見た白銀は確信したかのようにバットを放り投げた

白銀が打った球は場外へと消えていった・・・・

奇麗な回転で回ったバットが地面に落ちた瞬間と同時に蒼院学園のスタンドとベンチの歓声が球場に響いたのであった・・・・・・・・







「・・・・・・・・」

試合後、球場のフリースペースみたいな所で白銀は一人タオルを頭にかぶりながら体育座りで座っていた

白銀のみならず、他の選手も同じような態勢を取っており、涙を流す選手もいた・・・





・・・白銀のツーランホームランで1点差に迫った蒼院学園だったが、反撃が遅かった

ツーランホームラン打たれた後も引きずることの無かった藤倉の巧みなリードと相手投手の制球力に最後のワンアウトも難なく取られ、蒼院学園は惜しくも敗れてしまったのだった・・・


「・・・・何のための4番だよ俺は・・・くそっ・・・・」

最終回、土壇場で豪快な場外ホームランを放った白銀だったが、前の3打席は同じ攻め方で3三振・・・チームの打線の足を引っ張ってしまっていた状態であったことに白銀は悔やんでいた・・・


「カズ・・・・」

そんな白銀に茶髪まじりの端麗な容姿の少年が声をかけた

白銀の前、3番バッターに入っていた「鳴沢 翔太」である・・・白銀を見る鳴沢の顔は涙を流したせいか目の周りが赤くなっていた・・・

小学校時代から白銀とプレーしている鳴沢は蒼院学園の主将としてこの試合4打数3安打と大暴れしたが、チームは敗れてしまった・・・主将としてチームを勝利に導けなかった悔しさを持っており、4番として勝利に導けなかった白銀の気持ちが痛いほど分かるのだった・・・

「・・・・・ごめん翔ちゃん・・・」

「・・・ははっ、謝るなカズ。チームのムードメーカーでもあるお前がそんなんでどうする!ほれ、監督とチームメイトが待ってる・・・立とうぜ」

鳴沢が来てもなお顔を上げないが、一言謝った白銀に鳴沢は軽く笑い白銀に立つよう促す

「でもっ・・・「野球は高校で終わりじゃない」・・・あ・・」

漸く顔をあげた白銀の顔は鳴沢よりも目の周りを真っ赤に染めていた・・・だがそんな白銀の話を遮って鳴沢は女の子をイチコロにするといわれる穏やかな笑顔で白銀に諭した

「まだこれから大学・社会人・独立リーグ・・・そしてプロ野球が待っている・・・まだまだ全国大会に行くチャンスはいくらでもある」

「翔ちゃん・・・」

敗退を受け止め、次のステージに向けて前を向き始めている鳴沢を見て白銀の涙も止まっていた

「カズもまだ諦めてないだろ??」

「・・・ふふっ、当たり前でしょ!!!翔ちゃんと昔約束したんだから・・・次のステージで奪う!!!」

そう言い立ち上がる白銀の顔は先ほどとは違い、最高の笑顔であった・・・・






高校では頂点を掴めなかった敗者・・・しかしまだ野球はこの先も続く


次のステージに向けて男たちは歩き始めたばかりだ・・・・




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