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34.思い出図書①(夢十夜・第一夜)
はじめに:
私自身、最近は本を読む機会は随分と減りましたが、少年時代より多くの書籍に触れてきました。伝記小説の偉人・英雄譚に憧れた少年時代、SFや空想小説に夢想した日々、夜更かしして読んだ推理小説等々、書籍には色々な思い出が詰まっています。その思い出が詰まった書籍を【思い出図書】として、記しております。
第一夜:(Wikipediaより抜粋)
『こんな夢を見た。腕組をして枕元に坐っていると、仰向に寝た女が…』
死ぬ間際の女に「百年待っていて下さい」と自分は頼まれる。女の墓の横で待ち始めた自分は、赤い日が東から昇り、西へ沈むのを何度も見る。そのうちに女に騙されたのではないかと自分は疑い始める。その自分の前に、一輪の真白な百合が伸びてくる。いつの間にか百年が過ぎていた。
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“夢十夜の様な恋が望みです“、大学時代、友人Oから聞かされた言葉だ。大学生の頃なので、もう25年以上前になるが、京都の大学に通う友人Oと、彼の下宿先で酒を飲んでいた時に出た話だ。
学生帽がよく似合う、漫画みたいな顔をした山下達郎似のOは、お世辞にも決して男前とはいえない男だった。しかし、絵の才能と好きなモノを誰よりも雄弁に語る口を持っており、不思議な魅力のある男だった。エアロスミス、ガンズアンドローゼズ等のハードロック、そしてニルバーナやパールジャム等のグランジロックを、粘り強く私に伝導したのもOだった。そして、そんなOは、とにかく女性によくモテた。
たわいもない話で夜が更けていく中、ふとOが付き合っている女性の話になった。私も面識のある女性だったので、Oも少し遠慮し、ある程度酒が回った時に話をしたのだと思う。その彼女は、地元高校ではマドンナ的な存在であり、また京都大学に通う才女でもあった。古い友に対する欲目で見ても、彼女にOが釣り合う様には見えなかった。しかし、話を聞くに、彼女の方がOにゾッコンだったようだ。そこで、出たのが“夢十夜の様な恋が望みです。百年、私だけを待っていて下さい“という彼女の言葉になる。彼女の魅力、肢体の美しさを雄弁に語るOであったが、時々、ただ『愛が重すぎるんだ』と呟く言葉が、とても記憶に残っていた。
しばらくしてOは、彼女と別れることになった。やはりOが言う通り、愛が重かったようだ。愛するというのは難しい。片一方にバランスが偏ると、いつかは傾いてしまうのだろう。
今、歳を取れば、ほどほどの愛で充分満足できる。寧ろそちらの方がありがたい。ただ、若い時は破滅になると分かっていても、恋焦がれる情熱、突き進むのだと思う。