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49.思い出図書⑧ (壜詰めの恋/阿刀田高)
作家∶阿刀田高を知ったのは、留学時代、たまたま入った、UCバークレー大学近くの古本屋になります。
当時、日本語に飢えていた私は、日本語の小説は手当たり次第に買っており、その中の1つに、阿刀田高の短編小説【壜詰めの恋】がありました。
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その後、氏の奇妙な味わいの短編集を集め、好んで読んでおりました。また、氏は古典を簡単で楽しく要約した書籍も出しております。
新約聖書を知っていますか?
ギリシャ神話を知っていますか?
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書店とかでは、こちらのシリーズの方が、良く見かけますね。
また、初めてロンドンに旅行に行った際、ガイドブックよりも先に、イギリスに関連する【シェークスピアを楽しむために】【あなたの知らないガリバー旅行記】を飛行機内で読んだのは、懐かしい思い出です。
ところで、氏の小説やエッセイを数多く(200以上)読みましたが、私自身、最初に読んだ【壜詰めの恋】が、アイデア、ストーリーの結末含め秀逸に感じ、最も強く心に残っております。
【あらすじ∶壜詰めの恋】
男は、旅行先の砂丘でめぐり会った美女、夕美子と一夜を共にした。しかし、翌朝、彼女は忽然と姿を消しおり、枕元には、彼女が使っていた香水(ノワール·ノワール)の壜だけが残っていた。
男は、彼女の事が忘れれず、部屋でノワール·ノワールの香水を振りまくと、その度に、暗闇の中に彼女があらわれて···
'匂い·香りの記憶'、'香りに紐づく思い出'、これをアイデアに作られた小説、結末に捻りもあり、とても面白い小説です。また、この'香りの記憶'には、私も想い出があり、より印象に残ったのかも知れません。
留学時代に知り合った、少し大人びた雰囲気を持つ彼女は、いつも同じ、甘い香りのパフューム(香水)を身にまとっていました。
私は香水(パフューム)を着ける習慣が無かったので、時折、フッと鼻腔に残る甘い香りは、とても新鮮で、刺激的でした。そして、隣を歩く恋人の横顔、時折香るパフューム、視覚と嗅覚を通して、彼女を強く認識していたと思います。
彼女から、Poison(ポイズン)って書いて、プアゾンと呼ぶ、Diorの香水という事は、後に知りました。
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彼女が帰国後も、アメリカと日本、その後は、神戸と横浜での遠距離交際は長らく続きました。
今でも、プアゾンの香りをデパート等で触れた時、かつて隣を歩いてくれた、彼女の横顔を思い出します。