8_もうひとつの例) 物質分析 ニーズと技術間のギャップ
不整合(ギャップ)を原理・技術・現実で解析
物質分析に関するテキスト情報その他情報が増え、今や、誰もが技術にアクセスできるようになった。
物質分析の、物質自体にも、技術にも、明るくなくとも、多岐にわたるニーズが、技術を求めている。
7_で挙げた井戸水の例は極端だが、
https://note.com/embed/notes/nde5a2d18ece5
類例事案は、実は少なくない。
もう一つの例*********************
「生化学研究の延長上で、製品として販売することになった核酸サプリメントがあるのだが、実際に、このサプリメントの主成分が核酸であることを分析してほしい」
というニーズ。
物質分析の技術者としては、「原理的」「技術的」に最適ルートは見えている。△△分析法という方法が定法で、目的にフィットするし「現実的」でもある。
しかし、依頼者は、そのルートを希望しない。
「(△△分析法とは別の)〇〇分析法で分析してほしい。
〇〇は分析法の中でも高精度だ(という)し、あなたの専門の技術でしょう。」(**無料公開の概論内では、極力、具体技術名を排したく、〇や△で代用します。)
「〇〇分析法は、たしかに、核酸の検出で使われてはいますが、
試料の中で、核酸が主成分かどうかは示せません。
別の△△分析法ならできますよ。」
それに対して、
「いや、◼️◼️(ある外国の大学)の共同研究者は、(自分が指示した通り)〇〇分析法でやってくれたよ。」
と反対意見で押し気味になられた。
「〇〇分析法を使って(?!)、主成分が核酸であることは、示されたのですか?」
と尋ねた。
(ニーズか解決されていたのならば、私が相談を受けることはないのだが)
「いやそれがね、頼んだ◼️◼️の共同研究者は、ぐちゃぐちゃのデータしか出せなかった。だから、何が何だかわからなかった。そこで、あなたにもう一回お願いしているの。」
背景追加説明;
・この核酸サプリメントの分析依頼者は、某大学の生物物理系名誉教授。
・当方の当時の立場は、いち物質分析技術者で、依頼者との職位、雇用、師弟関係はない。ただの知り合い。
・ただの知り合いが分析で困っている、というので雑談レベルで話を聞いた。
・ごく単純なニーズなら、実働分析しても問題はない程度の朝飯前の話。
・〇〇分析法という物質分析法は、コモディティのなかでは、価格もパワーも上位の機器分析ということだけが、多岐の分野にコンセンサスとして広がっている。
・△△分析法という物質分析法は、〇〇に比べ、従来から存在する一般汎用機である。しかし、物質によっては〇〇ができない分析目的をカバーするうえ、〇〇劣らないパワーを持つ。
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ここで、ニーズ側と技術側の間に生じている不整合を「原理的」「技術的」「現実的」観点から解く:
「原理的」
・サプリメントに含まれる(鮭由来)核酸という物質は、質量が小さなものから大きなものまでのランダムな多分散重合体の混合物
・〇〇分析法は成分の全体像を得ないので、検出成分が主成分か非主成分かを知ることはできない。
・〇〇分析法は、特定の分子質量に基づき、物質を検出するため、物質が質量で定義できないものは検出に向かない。
・△△分析法は、〇〇分析法とは異なり、一定量試料中に存在する核酸の量に比例した信号を捉える。
「技術的」
・〇〇分析法での核酸の分析報告は多数存在する。
・△△分析法での核酸の分析報告は多数存在する。
つまり両技術ともコモディティとしてある。
「現実的」
・何を以って主成分(90%? 99%? 99.999%?)とするのか、依頼者が定めていない。
・◼️◼️(ある外国の大学)で、適用が不適切であるにもかかわらず、〇〇がすでに試された。しかし、◼️◼️で実施した〇〇で、分析の目的が達せられなかった原因を、解明、理解できていない。(依頼者は、分析者のウデの問題と思っている)
・〇〇法は不適切的であるにもかかわらず、◼️◼️で〇〇分析法が実施されたのは、技術者に依頼者のリクエストを断れない関係があったのか?
・分析側に、上記「技術的」「原理的」な問題点の理解と、依頼者への解説能力はあったのか。
以上の通り、ニーズと技術の不整合は「原理的」「技術的」「現実的」に整理できる。
ニーズ側と分析側の立場の違い
サイテックハブをご覧いただいている方が、
この無料公開の概論内で、
依頼者(ニーズ)側の立場なのか、当方(技術)側なのか、定まらない。
もし、技術側の方であれば、本件を疎かにしないでほしい。
「あるよね、こういう困った偉い人の、間違った分析依頼。」
では済まないのだ。
本内容を、ちょうど、ある分析化学の講義で紹介した。
その後、
「本エピソードは興味深かった、自分も、依頼者名誉教授と同じように〇〇で主成分分析できると考えていた」
という感想を頂いた。
つまり、これは困ったレアなケーススタディではなく、
高頻度で起こる、ニーズと技術の不整合(ギャップ)なのだ。
技術者の立場で取りうる選択として、
「依頼者が望む通り、依頼通りにやる。その結果がどうであろうと知らぬ、存ぜぬ。」
はある。
本件、黙って指示通り、核酸サプリメントを〇〇分析法で測る。
そうすると、おそらく、◼️◼️においての分析結果と同様、(原理的に)ぐちゃぐちゃのデータしか出ず、何が何だかわからない、だろう。
そこで、実施した、分析技術者は「ほらね」と小気味よく思うのか?
いや、その先を想像してほしい。
依頼者からすると、気の毒な◼️◼️の共同研究者と同様に「技術が劣った者である」と吹聴され、
さらなる他の技術者を探し出して、また同じ依頼をするかもしれない。
または、〇〇分析法は全く役に立たない、という印象を持たれるだろう。
もしも、依頼者をきちんと説明、納得させることができていなければ!!
その時、当方が実際に行なったのは、
指示された〇〇分析法ではなく、定法である△△分析法を使って、
「サプリメント試料の95%以上が核酸である」ことを示す結果を返却した。
依頼者の目的は達成された、だろう。
しかし、依頼者が当初希望した〇〇分析法でやらなかった点、不満を持っただろう。
もし、依頼者が〇〇分析法と△△分析法の「技術」「原理」を理解・納得すれば、適切な△△分析法での分析結果を、不満なく、納得されたかもしれない。
当方から依頼者へ、「技術」「原理」の理解・納得を目指すには、
説明に不足があっただろう。
依頼者が〇〇分析法を望んだ理由の一つに、価格もパワーも上位の機器分析を適用することで、
「分析結果に箔がつく」
という期待が少なからずあった。
技術側からすると、この馬鹿馬鹿しい
「上位機材を使えば ”分析結果に箔がつく”、だから上位機材を使ってほしい」
という理由で分析法を指定するニーズ側のリクエストは、少なくなく!!
これは、不整合が生じる理由の一つにすらなる。
当方は、〇〇分析法ともに△△分析法にもアクセスできる状況にあったため、
依頼者が希望した〇〇分析法ではなく、
物質分析目的上、必要な△△分析法を選択した。
依頼側の満足より、技術者としての満足を優先した。
しかし、もし当方が、〇〇分析法にしかアクセスできず、△△分析法を選択できなければ、
依頼を「断る」以外になかっただろう。
断る以上は、より詳しく「技術」「原理」を説明し、
納得の上諦めてもらえただろうか。
さもなくば、依頼者に不満を残す。
しかし、依頼者に「技術」「原理」の理解・納得を与える説明が可能だろうか。
現実問題、短時間の説明では難しい。
仮に、依頼者が技術に関する知識を興味とともに欲しているならば、
技術者は、いくらでも情報の提供ができる。(できなければ、技術者失格)
しかし、依頼者は通常、物質分析の技術知識に長じたいわけではなく、
「世にいうホットな〇〇分析法で、製品の品質を証明(目的を達したい)」
だけなのだ。