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9_技術人材不足の深刻さ

サイテックハブは、分析技術者の技術向上、と
物質分析におけるニーズと技術の整合に向けた、
情報提供プラットホームを目指している。

6_ニーズと技術のミスマッチ サイテックハブ創設の動機
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でも述べたが、
かつて、20世紀までは、物質分析の「ニーズ」と「技術」の距離が近く、
それによってシームレスな協業は容易で、不整合は起きにくかった。
不整合を生じたのは、産業、研究の専門細分化であって、これは不可逆不可避ともいえる。

一方、今回述べるのは、「技術」内、あるいは「ニーズ」内の問題である。
本来、起きなくてよかった問題が、社会施策の失敗によって、起きた。

当方が属する「技術」内での技術や経験、知識の世代継承ギャップは深刻だ。
これは、多少なりとも、産業、アカデミック領域に遍く通じる問題であるかもしれず、同様に「ニーズ」側の問題でもあり得る。

21世紀初頭、ほぼ時を同じくして、
長期的な経験や知識の蓄積を必要とする業種にとって、破滅的政策が日本で施行された。

産業界

1999年から2000年代初頭にかけ、法改正や制度変更による規制緩和のもと、
非正規雇用が大幅拡大した。
非正規雇用割合は、1990年の約20%から、2019年には約37.9%となった。
この過程で、企業の人件費削減方針のもと、
産業界で一定数の若い人材が定期供給され、比較的長期間業務を経て
「物質分析」技術者が育成される仕組みが、途絶えた。
技術は、短期契約雇用、アウトソーシング、による短期的ジョブ型雇用へとシフトした。

アカデミア

1996年に策定された第1期科学技術基本計画において、「ポストドクター等1万人支援計画」が打ち出された。
これは、1990年代初頭から始まった「大学院重点化政策」による、大学院の定員増加に伴い急増した博士号取得者の受け皿としての、ポスドク制度である。

これにより、博士取得後若い研究者が、3年から5年程度の時限任期付きの職からキャリアスタートするのが通例となった。

短期的成果の有無に関わらず、長期的に技術経験を積む機会は、通常の研究活動からは失われた。
ごく限られた枠の、化学・工学系の分析技術者の定員枠は、1または2人、であり、前任の離職や定年退職がなければ、基本的に採用はない。

独り立ちできるだけの技術経験を積むには最低10年

中長期的に技術者を育成する過程(10年以上を指す)が消滅した。
従来の育成過程では、
若手が失敗を重ねようとも、インストラクター役の上級技術者のサポートのもと、業務自体に悪影響はない。
若手は、新たな分析に臆するよりも、積極的に挑戦し、
失敗の成果として、リカバーの仕方や、対応を学んでいく期間だ。
おおよそ10年程度で、若手はインストラクターを必要としない程度に育ち、
次代の若手にとってのインストラクターを担える様になる。
技術とともに、社会資本となる、人間関係も蓄積されていく。

ところが、上述の通り、その流れが、途絶えた。
21世紀に入っても、しばらくは、
40代半ば中堅層から60代のベテランが分析技術者の現役として、
産業自体は支えられていたため、その影響が見えにくかった。

しかし、現在、21世紀初頭に若手技術者育成の機会が失われた影響は、
深刻な技術、人材不足をもたらしている。

これは、「物質分析」技術者にとどまらない。他の領域でも似たことは起きている。
そして、これが、「日本において」起きていることである。
世界からは、取り残されている。

2025現況

「物質分析」の技術者、求人ベースでは、正社員、契約社員、派遣社員など、さまざまな雇用形態が存在する。

ここ数年(から今後)の人手不足により、
「物質分析」の有用な技術人材は、
たとえ採用時に有期雇用契約であっても、正社員転換されるケースは多い。

同時に、一旦引退した、企業や大学の人材(高齢者)を嘱託契約で雇用するところも少なくない。

技術人材の供給はおろか、労働力の絶対数が不足している。

産業基盤を支える「物質分析」技術者の育成の重要性を理解していた一部の企業は、失われた三十年の間も、若手を積極採用し、自社で長期技術育成することをやめなかった。

その金の卵から育った技術者を、
中途で別の企業が引き抜くには、莫大な人件費がかかるだろう。

今、若手を採用して技術を育てようにも、教育者もいなければ、
教育の場も失われている。

イノベーションが変えられるもの 変えられないもの

「物質分析」技術紹介をさせていただいた、ある高校生から、質問を受けた。

「10年もの修行が必要な技術というものは、あるのか?」

工芸職人でもあるまいし、
というご意見だ。
たしかに、不必要な人手はデジタル技術革新によって、
自動化、ペーパーレス化、で解消されつつある。

「技術」も、従来と比べハイスループット化は目覚ましい。
note最初に記した、RNAシーケンサーのような技術革新は、
「修行」にも似た、分析技術のある種の手技を不要にした。

しかし、ここまでに説明で述べたとおり、

「物質分析」における諸問題は、「原理的」「技術的」「現実的」の複合要因で生じており、単なる技術革新によっては解決は難しい。
「原理的」「技術的」をカバーするには、時間が必要で、
「現実的」実現性を検討するにも、経験が必要だ。

実際、現在の技術を以てしても、ニーズと技術の不整合、
という問題が解決していない。
それどころか、問題はより複雑、多岐に渡ってきている。

「物質分析」における卓越熟練技術者が、これから将来、大量に必要なのか、
と問われれば、
より優先度高く、人材が必要な領域はいくらでもある。
「物質分析」技術者が闇雲に増えればいいというものではない。

だが、今、「物質分析」に従事している世代にとって、
イノベーションを待っている時間はなく、
イノベーションを起こすには、まず、技術力なくしては無理だ。

現在、物質分析に従事している空白の30年間世代と未来の技術者のために

2000年前後に社会に出た、冒頭図の空白の30年間世代。

十分に、失敗を重ねる技術経験をさせてはもらえない状況にあったかもしれない。
短期間に成果を求められるあまり、その重圧に耐えられなかったかもしれない。
分析経験を、見守ってくれる、インストラクターがいなかったかもしれない。
見様見真似で、なんとか我流で物質分析をこなしつつ、
任期雇用を渡り歩きながら、生き延びてきたのかもしれない。

継承されなかった技術が途絶えてしまった今、
物質分析の技術者を目指す、若者がいるかもしれない。

彼らに必要な情報があるとしたら、
そこに十分な育成環境が無かろうとも、
サイテックハブを通じて、求める技術者に提供できる様、努めていく。
今日のテクノロジーでカバーできるのは、情報のシェアだ。

物質分析におけるニーズと技術の整合において、
異分野協業になった場合、物質分析を成功させる責任は技術者にある。

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