新月 【シロクマ文芸部】
「月の色はどんな色?」
「月の色?そうだねー…」
チカは窓の外を見つめて私に聞いてきた。急に問われて私は必死に月の姿を思い浮かべた。
今夜は新月だ。月の姿を見ることは出来ない。それでもチカは外に月が出ているかの様に、窓を開けて空を仰いでいた。時折靡く風は冷たく、ようやく真夏の猛烈な暑さを連れ去ってくれた。
「時々、色は変わって見えるよ。例えば白かったり、紅く見えることだってある。想像出来る?」
「…よくわからない」私の答えにチカは首を傾げた。困ったな、なんて言えばいいんだろう。
チカは眼が見えないのだ。
「それじゃあ…月がどんな形をしているか、想像出来る?」
「かたち…」チカはそう呟きながら私の手を取り、自分の思い描く月の姿を表していった。
「素敵ね。これがチカの月なのね?」私の言葉に嬉しそうに笑う妹。そしてチカはその手を私の頬に押し当て、
「月と同じ色?」とまた聞いてきた。
「そうね。それなら、チカも同じ。月は私たちのほっぺたと同じ色をしてるね」
私はチカの手を取って彼女の頬をそっと包み込んだ。
🌱🌱🌱
シロクマ文芸部さんの企画に参加しています🌱