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#002 なぜ『HeART』を作ろうと思ったのか
心を動かし続ける5つの理由
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下:2006-2007年のSTADIUM ARCADIUMツアーのペダルボードを再現、本HeARTより。
ギター、アンプ、エフェクターを17年間蒐集
何をやっても続かなかった私は、12歳に初めてギターStratocasterを手に入れました。ギター鳴らした衝撃から「ギターという楽器に面白さ」を見出すことができ、なんとか今まで続けられているのはジョン・フルシアンテさんのおかげです。
私は2003年頃から2020年の間、John Fruscianteがレコーディングやライブで使用した同じギター*、アンプ、エフェクターを17年間蒐集し、Johnのギターサウンドを研究してきました。「いつかこの研究を集約して世界のJFファンとシェアしたい」「仲間同士で意見交換を行いながら、理解を深めていきたい」と考えてきました。これまで好きなギタリストいたのですが「音楽という広い側面」でJohn Fruscianteほど影響されるミュージシャンはいませんでした。頭の中が彼のことばかりになって、だんだん他の事に面白さが感じられなくなるほど「中毒症状」だったと同時に「彼の音楽が生きる為の栄養になっていきました」私は無意識に近い形で彼のギターサウンドを研究するようになりました。バリエーション豊かな彼のギターサウンドには私を「アディクト」させる「5つの理由」がありました。
※ギターに関してはヴィンテージではなく、Fender Custom Shopのマスタービルダーシリーズなど現在でも入手できるギターで研究を行いました。
1. 変化するギターサウンドの探求が楽しい
ジョンのギターサウンドはスタジオアルバムごと、ライブごとに新しいサウンドがアップデートされて、彩りが増す傾向があります。ライブでは過去の曲から最新の曲まで演奏されるので、ステージで用意されるギター、アンプ、エフェクターに変更や追加があります。私のようなギターファンはいくつかのヒントを頼りにその音の考察を始めますが、私の場合Johnが「どのような考えを持ってこの楽器を選んだのか」に興味があり、その考えを少しでも理解したい、自身にフィードバックさせて向上したという想いが湧き出てきます。彼が作曲するコード進行、ギターフレーズやサウンド、そしてBASSのFleaとのアンサンブル、バンドサウンドには学びや新しい発見、気づきを与えてくれるます。そしてJohnはいつだって新しい試みや挑戦する努力を忘れません。ギターソロをとっても同じフレーズは弾かず、インプロヴァイズな即興フレーズが多いのも彼の得意技で、John曰く「Spontaneous=自然発生的:スポーツのアスリートのような感覚」を大事にしているとSTADIUM ARCADIUMのインタビューで話していました。でも「うまくいかない時もある」と素直に発言してくれる部分もジョンの飾らない人間性に親近感が湧いてしまうのは私だけでしょうか。ギターは通常右手で弦をピッキングした瞬間から音が発せられるので、ギター、アンプ、エフェクターよりも重要なのがピッキングという人も多いのではないでしょうか。
2. ピッキングの探求が奥が深く楽しい
音楽制作・ミキシング用語で『トランジェント』という言葉があります。ギターにおいては、ピックが弦に当たる『瞬間の音』のことを指しているのですがJohn は様々なピッキングのタッチにより『音の輪郭』を使い分け、バリエーション豊かな音色を作り出していると思います。
例えば有名な曲のイントロを用いて例に挙げると、
『Around The World 』ピックの先端だけを高速で当てたピッキング。
『Scar Tissue』気だるいメランコリックなトーンを醸し出すピッキング。『Californication』程よい力で曲の雰囲気を作り出すアルペジオ。
『Can't Stop』大ぶりなストロークの単音カッティングと卓越した左手ミュート。
『Snow (Hey Oh)』スネア位置にアクセントをつけたオルタネイトピッキング。『Give It Away サビ』=Johnny Ramoneのようなダウンピッキング。
ピックが当たる角度なども含んだらもっと沢山あると思います。
ギターは音の強弱=ダイナミクスが非常に広い楽器のため、弱く弾いた時と、強く弾いた時で音色が異なり、それが「ギターらしさ」の一つと筆者は考えています。そして、ピッキングのダイナミクスに反応してくれるのが真空管アンプなのですが、どの位の強さで弾くとクランチサウンドになるのか、どの位、過大入力するとアンプが沸点に達して飽和し、ドライブするのかを熟知していると思います。アンプをどう鳴らすかまで理解した上でピッキングの強弱を計算していると思います。
ギターを弾くという行為は、腕のストロークの速さと手のスナップ、ピッキングに加え、弦を押さえる指のミュートと弦を弾く方の手のミュートなどの要素が絡み合って様々なサウンドが表現できる楽器なので『本人の手グセ』がモロに出る楽器で当たり前のことですがそれが『John Fruscianteの音』を作り出しているのは一つの事実だと思います。本当に彼の音が出したければJohn Fruscianteのピッキングによって作られた『トランジェント』を学ぶことが、彼のギターサウンドの真髄かもしれません。
しかしながら、物理的に「◯◯◯のエフェクター」が無いと「あの音」は出ないというのも事実。よって機材を揃えて「形から入る」というもあながち間違えでは無いと思ってます。筆者も「そういうロマン」や少しでも「Johnを感じたい」という一心で機材買ってしまうこともしばしばです。しかしそのロマンは次のような結果につながる場合があります。
3. 実機を体験し発見し理解する楽しさ
例えば、RED HOT CHILI PEPPERSのライブのステージでJohnの楽器たちを弾かせてもらったとして「同じ様な音が出せなかった」とします。それは「演奏する人が本人では無いから」という簡単な結論ですが「同じ様な音が出た」場合は「ピッキングのタッチ本人と近しい」という結論になると考えています。その考え方で進めていくと、ヴィンテージギターは揃えるのが難しいとしても、同じアンプ、同じエフェクターを揃えて音を出すと、「なるほど!こういうことなのか!だからアンプのTREBLEは0で良いんだ」「アンプを2台同時に鳴らすのはこういう意味があるのか」と深い理解につながることがしばしばです。しかしながら、そもそものテクニック面の問題、センスの問題という問題に直面し、ことごとく気付かされるばかりですが、自分的に「同じ様な音」が出せた時の喜びと快感は、何か特別な感情が浮き上がると同時に「もっともっとやってみたい」という欲が溢れてきます。次に「なぜ同じ様な音が出したいのか?」ついて考えてみたいと思います。
4. 大きなアート作品を見た時のような感動をくれる
なぜJohn Fruscianteのギターサウンドに、ここまで感情揺さぶられるのか、本当の意味でのなぜ?は一生、言葉で表現することは不可能だと思ってます。John の母は「シンガー」、父は「元ピアニストであり弁護士」というDNAを引き継いでおり、生まれた時から音楽の感性や音楽理論を理解する能力が高い人間だと推測しています。そして私はJohnのことをこんな風に思っています。
「人生経験を音に変換・比喩できる音楽家」で「相当な努力家」だと思います。
たくさんの音楽を聴いて、様々なジャンルの音楽を創作し続ける彼のギターソロをは「どこか懐かしく、切なくて、危険を感じ、そしてそのバランスが美しい」また「時に極端に甘くて優しい音、ホラー映画のように激しい叫ぶ音」が聞こえたり「穏やかな日差しから晴天、しっとりとした雨から豪雨、雷雨が降り注ぎ、まるで天国と地獄」を感じさせられる。この落差の対比が相まって心の奥底で鳴り響いて感情が揺さぶられ「大きなアート作品」を観て感動した気持ちになる。私の場合、ただ単純に自分が体験したその感動を他の誰かに伝えたいから「同じ音が出したい」のかもしれない。どこかで聞いたことがある様なフレーズなのに、彼のフィルターに通すことよって「新食感」にリファインされ、そして毎回違う即興のギターソロも「クセになる味」。あえての不協和音な音には「ギリギリだったあの時のダークヒーローJohn Frusciante」を感じては勝手に『人生経験を音にしている人』と感じてしまいます。
2009年にシンセサイザーメーカーMOOGのスタッフが手掛けた『Heart is a Drum Machine』に出演したJohn のインタビューでは「車の走る音や鳥の鳴き音それ自体が音楽のように聴こえるかもしれない」と発言している。このことから「日常の体験や経験を比喩して音や音楽に変換できる人」なんだろうなと考えてしまいます。例えば私がRED HOT CHILI PEPPERSの曲でそれを感じたことがあるのは、スタジオバージョン『Scartissue』のギターソロはスライドギターで演奏していますが、それは歌詞の世界観「With the birds I'll share this lonely view」に合わせて「まどろんで、とろける情景」をスライドギターで表現しているではと思いました。『Venice Queen』はアンソニー・キーディスがガンで亡くなったカウンセラーのグロリアについて歌った曲ですが、イントロのヴァイオリン奏法は「魂の浮遊のような、霊の存在」をどこか音で表現しているように感じています。そして『Throw Away Your Television』の間奏のギターソロは「テレビの砂嵐の様なノイズ」を表現しているのではと感じてしまいます。RED HOT CHILI PEPPERSは基本的にJAMで曲を作るということで知られていますが、ギター、ベース、ドラムで作った曲をアンソニーに聞かせて気に入れば歌のメロディが出来上がり『曲』になるとのことですが、アンソニーの歌詞が完成した時にギターのフレーズのアップデートもしくは、その曲のギターフレーズを聴いてアンソニーが歌詞を考えているのでは?と個人的に思ってしまうほど気になる部分です。
5. 尋常じゃないクリエイティビティ
John Fruscianteは『By The Way Tour』が終わったバンドの休暇中にソロアルバムのレコーディングを行い、2004年1年間で6枚のソロアルバムをリリース。長いワールドツアー中にアイディアを書き留めてたはいえ、当時の私は人智を超えた理解し難い感覚に陥りました。業種は全く異なりますがクリエイターのはしくれとしてもJohnの枯れることのない音楽への創作意欲に今でも感動し続けています。
この5つの理由をお伝えすることで「なぜ『HeART』を作ろうと思ったのか」ご理解いただけたのではと思います。Johnの魅力を言語化でき、個人的な原体験も振り返れて楽しかったです。
次回は『HeART』のコンセプトや具体的な内容について書いていきます。