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ハノイのオペラハウス

14時30分
ヒルトン・ハノイ・オペラにチェックインして、荷物を置いてすぐ少し小走りでホテルを後にして向かい側のオペラハウスに駆け込んだ。

もう2年ぶりの海外旅行ですごく緊張していたのを覚えている。今でも初めての場所に旅に出るときはいつだって緊張するけど、最近の私はその緊張も心地よいとさえ思えるようになった。

でも、2年ぶりにひとり旅で初めての東南アジアの国である「ベトナム・ハノイ」に降り立った私はピッカピカに晴れた空とけたたましいクラクションの音とのギャップにすこしナーバスになっていた。

だからオペラハウスについてから誰だってすぐに見つかるぐらいにわかりやすく開かれた受付がなかなか目に入らず5分ぐらいウロウロしていただろう。係りのお姉さんがそんな私を見つけて声を変えてくれた。

8時のチケットを買いたいんです!

吹き込まれた人形のように、声をかけてくれたお姉さんにぶっきらぼうに言葉をぶつけた。

そんな礼儀知らずの日本人の小娘にも、お姉さんはとても快く対応してくれた。あまりに私が緊張してこわばった顔をしていたのだろう、にっこり笑って受付に連れて行ってくれた。

そして再び人形の再生ボタンが押される。

8時のチケットを買いたいんです!

チケットカウンターのお姉さんも、この一言しかしゃべらない人形にもうだいぶ売れてしまった座席表を見せ

コンサートですか?この席が余っていますよ。

と教えてくれた。事前に開園時間も、内容も、席の値段も把握していて、なんだったら席の販売状況だってネットで確認してきていた。2年ぶりのひとり旅だ。念には念を。

ここにします。いくらですか?

値段だってもちろんわかっていた。予め、狙っていた一番良いセンターの席を案内されて内心ほっとした。

60万ドンです。

もちろん支払いに手窓わないように、60万ドンはわかりやすくお財布の中にまとめて入れてあった。だからすぐにチケットは購入できた。

ありがとうございます。

そういってほっと胸をなでおろし、公演が始まるまでの間街の中をぶらぶらしていた。

2年ぶりの海外にベトナムのハノイを選んだのは、ただ直行便があって行きやすいという理由だけではない。そこそこ注目し始められている国で、タイとかバリ島ほどじゃないけど情報が多く事前調査がしやすかったのと、世界遺産のハロン湾の美しさにほれ込んでしまったのと、そして25歳の自分への誕生日プレゼントにオペラを見たいと思ったからだ。

ハノイのオペラは毎日開かれているわけではないが、幸運にも誕生日には開催されていた。チケットは日本からでもインターネットで購入できたけど、現物のチケットを指定の場所に宅配して届けてもらわなければいけないという私には厳しいミッションがあったため、ハノイについてから購入することにした。

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だから、宿泊場所もオペラハウスから徒歩2分のヒルトン・ハノイ・オペラに決めた。

パリにも行ったことがあったし、音楽の都といわれるウィーンにも学生の時に旅した。でも、当時はお金も旅で音楽を楽しむという発想もなかったので、オペラを見に行こうとは一切思わなかった。

だから、オペラを見たいと思ったとき自分でもちょっと大人になった気分がして成長が誇らしく思えた。60万ドンは3千円程度だが、当時の私にとってはちょっといい値段の物を購入した気分になった。

17時半にはホテルに戻りシャワーを浴び身支度を整え、受付開始の19時半のちょっと前にオペラハウスの前に到着した。

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数分もしないうちに扉が開かれ、豪華絢爛な夢のような景色が現れた。

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子供のころよくスクリーンの向こう側で王子様とお姫様がキレイなドレスを着てシャンデリアの光に照らされるまぶしいぐらいの装飾が施された部屋で踊っている所を見た。

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こんなのはアニメーションの世界だけの話だろうと思っていたけど、ウィーンに行ったときはじめてお城を見学して自分がどれだけ狭い世界で生きてきたのかを知った。

鳥肌が立つというのはこういう感覚か。と思った。

前に歩こうと思っているのに、脳みそに上手く伝達できてないみたいにその場を離れられなかった。人はこんなに美しい物を作れるんだと誇らしさすら感じた。

まさかベトナムのハノイでその時の気持ちを思い出せるとは思わなかった。

お金はなくて、でも時間があって1か月ヨーロッパをふらふらと放浪していたフリーターの時、見るものすべてが新鮮でワクワクドキドキする冒険みたいな毎日。

あぁ。やっぱり私は刺激の中で生きているのが幸せなんだ。

そう思い出させてくれたのがハノイのオペラハウスだった。20代後半のひとり旅はここから始まった。

だから今、ベトナムが以前よりも注目されるようになってきて度々この時の景色を思い出す。そのたびにまたハノイに行きたいとため息がもれる。

それでも別の場所を旅先に選ぶのは、知らない土地で味わうあのドキドキワクワクする高揚感が何よりも好きだからだ。

次の旅先でもきっと、いつかの旅の景色を思い出す美しい出会いが待っているんだろう。




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