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シェーンブルン宮殿とヨーロッパ旅のはじまり

この景色を見るために、私は今日まで頑張ってきたんだ。

旅の中でそんな風に思う瞬間が私は一番好き。

ゾワーっと鳥肌が立って、瞬きも忘れて、呼吸が深くなる。

日常の中にだって幸せはいくらでも落ちてるけど、どうしたってわざわざ立ち止まって

幸せだ!このために私は頑張ってるんだ!

って思うほど毎日丁寧には生きられない。

だけど、旅をしているときは同じ24時間であっても立ち止まって心を奪われることが何度もある。これがとても不思議で、すごく好き。

もちろんどこの国に行ったって、日本では味わえないような心が動く景色が溢れていてその景色を自分の目に焼き付けるたびに遠路はるばる飛行機に乗って旅に来た意味があると心から感じる。

ただし、私がそんな風に旅を味わえるようになったのは20歳を超えてからの話だ。

私はたしか小学生の時ぐらいから両親に連れられて海外に旅に出ていた。多分初めて行った海外はハワイだ。

それでもスパムおにぎりを食べた事ぐらいしか覚えていない。

学生時代も、ニューヨークやロンドン、ミラノやローマ、フィレンツェを廻った。ただしどれもガイドさん付きの修学旅行だ。だからニューヨークでは特盛のパスタを食べて、ロンドンではフィッシュアンドチップスを食べてイタリアではピザの耳だけ残して食べたぐらいの記憶が大半だ。

それから社会に出て、初めてひとり旅でバリ島に行ったけど目に映るものすべてが衝撃過ぎて景色をじっくり味わうというほどの余裕はなかった。

私は自然の景色ももちろん好きだけど、人工物の建築やアートも大好き。特にヨーロッパの美術館・博物館、教会は何時間いたって飽きないぐらい。

だから、初めてひとりでウィーンのシェーンブルン宮殿に行った時のあの感覚は今でも忘れられない。

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「美しい泉」という意味のシェーンブルン宮殿は17世紀末に夏の離宮として作られた。18世紀にマリア・テレジアによって現在のかわいらしい姿になったらしい。

テレジア・イエローと呼ばれる黄色い壁面が印象的だが、私が最も心を奪われたのは豪華絢爛な庭園でも、ヨーロッパ最大の温室でもない。

今にもお姫様が優雅に表れるのではないかと息を飲むほど美しいロココ調の内装とそこに飾られた絵画の数々だ。

本当にここで人が暮らしていたのかと信じられないぐらい煌びやかで、繊細な装飾がいたるところに施されている。特にゆったりと天井からゲストを見下ろすいくつものシャンデリアは圧巻だった。

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次に向かいたいと思いながらも、この部屋から出てしまうのが、どうしても惜しくてあと1分、あと10秒…と脳みそが体に正しく伝達できていない感覚を覚えた。

こんな景色が今の世界に存在するなんて事を知らなかったし、人が作り出したモノ、それも何百年も前に生きていた人が作ったモノに、ここまで心が捕らわれるとも思ってなかった。

あぁ。私この景色を見るために今まで頑張ってきたんだ。

体の中からそんな言葉が溢れてきた。感動という言葉で済ませてしまうにはもったいないような感情だった。

だからかもしれしれない。ヨーロッパ周遊の旅の初めで出会ってしまったウィーンのシェーンブルン宮殿を皮切りに、その後のイタリア・フランスとさんざん美術感や博物館に入り浸った。

ヨーロッパには、東南アジアや南米のようなカオス感はないけど日本にいたら出会えない繊細で美しい華やかな景色がある。それも何百年前に作られたものが脈々と受け継がれてきているのだからその歴史の重さに思わず足が前に進まなくなるのだ。

テレビなんかでもヨーロッパの美しい景色はよく目にするけれど、やっぱり自分がその景色の一部になってみないとあの感覚は味わえない。

だから私は、どんなにテレビで見た景色であろうと写真で眺めた景色であろうと遠い遠いヨーロッパまでわざわざ飛んでいくんだ。



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