マラッカとおっさん達
おっさんは嫌いだ。
面倒くさいし、デリカシーがないし、たまに臭い。
特に私はアジア人のおじさんにいいイメージがない。
こんな事いうと差別だ!なんて批判されそうだけど、あくまでも個人的な意見なのだからたまには愚痴の一つも言わせてもらいたい。
特にマレーシアのマラッカに行ったときは、よりおっさんが嫌いになった。
マレーシアの古都マラッカは世界遺産に登録されている。
18世紀、イギリスの植民地だったマラッカは今でもその面影を残しアジアとは思えないような街並みが美しい。それだけではなく、中華街もあり、東洋と西洋の融合した文化「プラナカン」を感じることができる。
私は古都が大好きで、今回のマレーシアの旅ではマラッカに来るのを一番楽しみにしていた。
旅の2週間前には、クアラルンプールからマラッカへの行き方をばっちり調べて高速バスに乗りバス乗り場からタクシーに乗って市内に出なければいけないという事もしっかり調べていた。
だからマラッカのバスターミナルについたらすぐにタクシーを捕まえた。
いくら?
タクシーの運転手に聞くと
10RM!
町中まで乗せて
そう言ってタクシーに乗り込んだ。
タクシーのおっさんは、熱心に市内観光ツアーを進めてくる。私は散歩をして自由にまわりたかったから何を言われても冷たく
いらない
とスルーした。そのせいがあったかないか知らないが、中心のオランダ広場に行ってほしかったのになぜか別の場所で降ろされた。
ここから先は車で入れないんだよ。
初めての土地で何もわからない私は、歩いてすぐ行けるものだと思っていたが実際は中心地まで歩いて10分程度かかるところで降ろされた。
10RMを差し出すと
30RMだよ!
というおっさん。
いや、10RMって言ってたよ
いや、30RMだよ!
といって駄々をこねるおっさん。せっかくの旅で無駄な時間を使いたくなく30RM渡し私は思い切り扉をたたきつけるようにしめて出て行った。
なんだったら車をけりつけてやろうかと思った。
どう考えても30RMは高すぎる。実際帰りは中心地からタクシーに乗ったのに20RMだった。
あとで考えれば30RMはたかがか900円ぐらい。10RMは300円。たかだかこれだけの金額の為に客の信頼を失ったあのおっさんが不便にも思えた。あーきっとこの人相当生活が苦しいんだろうなって。
今までぼったくられた経験がなかったから、こんなに腹が立つものかと自分でも驚いた。だからおっさんは嫌いだ。
いつまでもイライラしているわけにもいかない。せっかく今回の旅のハイライトであるマラッカだ。
気持ちを切り替えて、かわいらしいフォールアートが書かれた家々が並ぶ川沿いの道を歩き、オランダ広場に到着。
あぁ、ここが見たかったんだよ!
思った通りの美しい景色に、イライラもいつしか消えていく。
さぁ次の目的地はセントポール教会。途中でアンティークな車が置いてあった。どんなに調べこんでいっても、こういう突然の出会いがあるから旅は楽しい。
さらに上っていくと海が見えた。大きな船が何艘も浮かんでいて時が止まったように佇んでいる。
さらに上ると、お目当てのセントポール教会が静かに迎えてくれた。
中に入ると不思議な静けさがある。
東南アジアで最も古い教会で、1521年にポルトガル軍によって建てられた。
実はここ、あの有名な、あのザビエルさんが宣教していた教会。それだけでなんだか親近感を感じてしまう。
少しの間、階段を上ってきて上がった息を整える。ついでに、ガイドブックを見ながら次はどこに行こうか考える。
セントポール教会の中は日陰になっているし、風が通って気持ちがいい。
そうしてのんびりしていると、私の横に誰かがすわった。
おっさんだ。
おい、他も空いてるだろ。と怪訝な顔をしていると、薄笑いを浮かべてカメラを私に見せ自分と私を交互に指さした。
一緒に写れって事?いや、勘弁してくれ。
期待するようにこちらを見つめるおっさんに、せっかくのリラックスタイムを台無しにされて憤りさえ覚え、このどうしようもない気持ちが言葉になって口からこぼれてしまわないうちに私はこの場を立ち去った。
だからおっさんは嫌いだ。人がゆっくり休んでいるところに、しかも見ず知らずの女性の横に座って写真に写れなんてデリカシーがなさすぎる。
今回のマレーシアの旅は本当に快適で、交通機関もしっかりしていたし乗り継ぎもうまくいきすぎていて逆に少しの不安があった。
まさか一番楽しみにしていたマラッカで、こんな散々な目に合うとは思わなかった。
それでも、マラッカの町はそんなおっさん達の嫌な思い出を上書きしてくれるほど素敵な街だった。
プラナカン文化を垣間見れる博物館にも行ったけど、独特の装飾はとてもかわいくて町中を歩いているだけでおとぎ話の世界に迷い込んだようなとても楽しい時間を過ごせた。
またマラッカに行きたいかと聞かれたら間髪入れずに「もちろん!」と答える。
ただしその際は、おっさんのタクシーとカメラをもったおっさんにだけは絶対にかかわらないようにと断固たる決意をしている。