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夏の宮島

宮島に行ったのはこの時が2度目だった。

一番最初に行ったのは、高校2年生の時。当時から旅の同好会に入っていた私は、その同好会の仲間と先生2人と一緒に広島に行った。

宮島は本当におまけのような感じで滞在時間は2時間程度で、ご飯を食べてすぐに終わってしまった記憶しかない。

それでも一瞬だけ見た嚴島神社がどうしても忘れられなくて、約6年ぶりぐらいで再び宮島を訪ねてきた。

6年前の記憶をたどりながら、広島駅から宮島口に行きフェリーに乗った。

たまに鹿が海を渡っている事があるんですよ。

そんなアナウンスが流れてきて、思わずあたりを見渡す。

そうしているうちに、懐かしい景色が見えてきた。

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今はすっかり満ち潮で水面に朱色が映っていた。

フェリーを降りると、お宿の送迎が私の事を待ちわびていた。

お宿にチェックインすると

本日のご予定はお決まりですか?

とはたちそこらの小娘にベテラン風のおばさんは親切に尋ねてくれる。

まだ決まってないです。

でしたら、弥山に登ってみてはいかがですか?ロープウェイもありますし、眺めもとてもいいですよ。
厳島神社は早朝の方が人も少ないですしおすすめです。

プロが言うのだからその通りにしよう。もともと予定といえば厳島神社に行くぐらいしかなかったのだから。

そうしてロープウェイに乗って弥山の山頂を目指した。

お宿のおばさんの話だと、ちょっとしたハイキングぐらいのテンションだったけど、いざ登ってみると結構な登山だった。

特にワンピースのマキシ丈スカートでサンダルの私にとってはかなり重労働だった。

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それでも、楽しそうにはしゃぐ海外からの旅人に混ざって息をぜぇぜぇ、汗をだらだらとかきどうにか山頂に上った。

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確かに景色は文句なしに美しくて、たまにそよぐ涼しい風がため息が出るほど気持ちよかった。

きっとこの気持ちよさがいけなかったんだろう。

気をよくした私は無謀にもロープウェイを使わずに山を下る事にした。

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最初はいけしゃあしゃあと山を下って行ったが、だんだんと雲行きが怪しくなってきてとうとう雨がぽつりを降り出した。

普段だったらこのぐらいの雨まったく気にならないのだけど、問題は山の中を一人で歩いているということだ。

周りには人っ子一人いない割に、立派な川が流れている。

そのうちに山もごぉごぉを唸りだした。

さっきまではあんなに気持ちよかった風がまるで私を脅かしてやろうとしている用に前から後ろからちょっかいを出してくる。

2時間ぐらい歩いただろうか。膝が笑うという言葉を身をもって体験したのはこの時が初めてだった。

山を下ったころには、すっかり空も期限を直して晴れ間も見えるほどで少し私はむっとした。あからさまに旅人の新参者をからかっているように見えた。

ふらふらとする足にどうにか喝を入れて表参道へ遅めの昼食を取りに行った。

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心配性な私は事前にお店もたっぷり調べていたが、実はこれが初めての国内一人旅。海外に行くより不安はあった。

なぜなら日本で23歳の女性が一人で旅している所なんてなかなかみなくて、散々好奇の目にさらされるからだ。

だからどうしてもこの日はレストランに入る勇気がなくて、揚げ紅葉と焼きカキを露店で買って景色を眺めながら食べた。

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翌朝は5時には起きて、すっかり準備を済ませ、厳島神社の開門と同時に6時半に6年間も恋焦がれていた場所にやっと足を踏み入れた。

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水はすっかり引いている。

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人も私以外に1、2組程度しかいない。おばちゃんの言っていた事は正しかった。

朝の目に染みるような陽ざしが、静かに厳かな境内に光を注いでいく。

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それが目がくらむくらい美しくて、背筋が伸びるぐらい息を吸い込む。

6年越しの片思いは、やっと成就した。

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それからは大聖院でゆっくりと流れる時間をのんびり過ごした。

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緑がたくさんあって、焼けるほどに照り付ける太陽からも逃れる事ができた。

何より、クーラーもないお寺なのに風が私の熱をどんどんと冷ましてくれたからいつまででもこののどかな景色の中で佇んでいた。

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お寺からは、昨日半べそで下った山も見えた。

何もないのに、何よりも心が満たされるのは、きっとこの島が持つ穏やかな時間なんだろうと思う。

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今は嚴島神社の鳥居は工事中らしい。2020年の8月ぐらいには終わるそうだから、新しい鳥居をまた見に行こう。

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