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親の覚悟

石川県の石垣です。
前回は《子どもの巣立ち、その時私は…》で息子が塾に通い始めた時のことを書きました。今日は後日談で、自分に対する気づきと試してみたことを綴りたいと思います。

小6の息子が、市営バスで30分程の所にある塾へ通うことにも随分慣れたある日。バスの時間が迫っている中、2階の部屋に行ったきり降りてこない息子。今回のバスを逃すと、次のバスがギリギリ塾の開始に間に合う最終便。食事の支度をしながら私はソワソワしていました。

もう間に合わないのでは?と思ったその時、バタバタと2階から降りてきて、水筒に飲み物を入れたり教材を準備する慌ただしい息子。〈もう行かないと間に合わないよ。急いで!〉と心の中で叫びながらヒヤヒヤする私。残り数分のところで家を飛び出していった彼の後ろ姿を、ヤレヤレと見送りました。

それから10分ほどして、ガチャっと玄関のドアが開く音がしたかと思うと、「かーさん、送っていって!」と半べそをかきながら息子が帰ってきました。初めて塾に間に合う最終バスに乗り遅れたのです。
息子はプチパニックを起こし、私に不安や困惑した気持ちをぶつけてきました。まだ大丈夫だろうとたかをくくって、ギリギリまでのんびりしていた息子でしたが、最終バスを乗り過ごして初めて事の重大さが分かったようです。「どうしたらいいの!」「分からん!」「車で送って!」と、これまでにない程の大騒ぎでした。

あまりに感情的になって騒ぐ姿を見て、これまでもバスに乗り遅れたことはあるのに、こんなに騒ぐなんて…と思いました。今までとの違いは『次のバスでは間に合わない』ということ。完全に遅刻だと悟った息子は、怒ったことのない先生を怒らせるかもしれないと怖くなったようでした。

私は初めから、マイペースな息子がバスに乗り遅れるリスクを見込んでいたので、意識せずとも安全策を講じて一本早いバスに乗るように促していました。だから、これまでは最初のバスに乗り遅れることはあっても、次のバスに乗れば間に合っていたのです。今までの経験では、自分の力で対処することを学べていなかったのだと思いました。

その時の私は、後から用事があったもののなんとかすれば塾まで送れないことはない状況だったので、息子の要求を受け入れるか迷いました。 遅刻させるのは可哀想だし、塾にも迷惑をかけてしまう。それに、私に車で送る時間があるのに送らずに遅刻させるのは、母親の役目を果たしていないようで罪悪感が湧いてきます。
でも、自分で対処できることを学んでもらういい機会。それに、今回は用事があることを自分への言い訳にして、送ることを断ってもいいかもしれない。そう迷う自分を説得して、最後まで息子に任せきる覚悟をしたのです。

私は「用事があるから送れないんだ。遅刻しちゃうけど仕方ないね。電話で伝えてね。」と言いました。息子はまた大声でわめきましたが、任せきる覚悟をした私はもう動じません。
少し経って、息子が静かになったな〜と思ったら、そっと受話器を手に取って電話をかけ始めました。弱々しい声でしたが、自分で遅れることを伝えた息子は、ホッとした表情を見せながら「気をつけて来てね、って言われた。」と言いました。そして、「いってきます。」ともう一度家を後にする息子を見送った私の心は、落ち着いていました。

リスクを見越して安全策を張っていたこれまでは、息子にとって良くない結果になっても「◯◯すればなんとかなる」という状況でした。そんな状況下にいた私は、息子の問題を親という役割を理由に自分の問題のように感じて、切り離しきることができずにいました。そんな私の心は心配と不安からくるイライラに支配されるのでした。

でも、今回は息子に任せきる覚悟をしたことで、私と息子の問題を切り離すことができたと感じています。そして、その覚悟を後押ししたのは、大人への階段を昇っている息子に対する私の願い。それは、彼の身にこれから起こる様々なことを自分で受け止めて対処したり、時には人に助けを求めたりしながら、自分の足で人生を歩けるようになってほしいという願いでした。
任せきる覚悟をして「自立へのサポート」というゴールが定まった私には、「遅刻させるのは可哀想」とか 「母親の役目を果たしていないような罪悪感」はもうありませんでした。

次に塾へ向かった日、「今日は早めに行こ〜っと!」と言って息子は出かけて行きました。そんな息子は、自分の行動からくる不本意な結果を受け入れざるを得ないことや、次にどう活かすかを身をもって学んだようです。
「子育ては親育て」とよく言いますが、これから息子が巣立つまでの間、私も一緒に成長していきたいと思います。

2024年10月7日
石川県/石垣 恵美 
NPO法人ハートフルコミュニケーション認定ハートフルコーチ


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