怖い白さん,めんどうなミヨシ,お人好し犀くん,意外と心が通じ合う朔くん
月に吠えらんねえという漫画が好きなのです.
とても好きなので最初は出会ったきっかけとか魅力とかそんな話をする予定だったんだけど,うわっミヨシくんって面倒くさいな~とふと思ったのでそのあたりから話そうと思う.
初めて見出し使う
ネタバレもする
怖い白さん
「平等は興味の無さの裏返し」を地で行く白さん.
白さんの興味のあるもの,詩作,圧倒的な才能,何かは分からないけど,
取り巻きの女の子も,詩人仲間のプライベートも,おそらく詩はともかく犀くん朔くん個人のことも割とどうでもよくて,
白さんの興味を惹くものを持っていない人達には目もくれない,
白さんガールズが言っていた通り,だから安心で,だからさびしくて,その排他性が怖い.怖くて泣きそう.
朔くんも,何か自分自身を白さんに残したくて,それが安らぎでも一生消えない傷だとしても何かを与えたくて,受け取らせたくて,自分を愛するように白さんを作り替えたのかもしれない.
みんな誰かのファム・ファタルでありたい.
めんどうなミヨシ
こうであるべきという理想とそれを人に押し付ける正義感,この最悪の組み合わせでとっても面倒くさい人,ミヨシくん.
「兄さん(朔くん)の詩を誰より理解し誰よりも愛する…そうあなた自身よりもあなたの詩を理解する僕としては!」(5話)なんて信じられる痛いほどの純粋さ,
兄さんを思ってという建前で駄作と言ってのける身勝手な正義感,
「どんどん兄さんらしさが失われているように思えてなりません」「そういうあなたが僕の愛する朔先生です」(51話)なんて自分が作り上げた「朔先生」を押し付けるところ,
うん,
それがミヨシくんなんだよね.
朔くんが縊死体から守ろうとしてくれたことに気づかずすれ違ってしまったことも (24話),起こるべくして起こったこと.
でも,それが否定されるべきものなのかというと,そうではなくて,
「おれたちは誰かの目に映る誰かに解釈されたおれたちでしかない(中略)
だからそれぞれが今自分の思う人物像を相手に押し付け合えばいいんだよ」
そう言って朔くんはミヨシくんを許してくれる.
そしてミヨシくんの作った理想,その押しつけがましさが,詩人としての朔くんを救うことにもなる.
優しい世界のお話.
面倒くさいけど,言葉に,しぐさに,あらゆるところにミヨシくんそのものが溢れていて,
お人好し犀くん
弱くて,お人好しで,優しい犀くん.
そして兼小説家だから一番論理的な会話ができるであろう犀くん.
戦争の時空を旅して,死にゆく人々を目の当たりにして,「俺たちが間違ってた,俺たちが悪かった,だからもう許してくれ」(59話)なんて言葉が口をついて出るような人.
悲しんでいる人がいれば,利害とか誰のせいでとかそんなことを考える前に一緒に泣いてしまう人.
ちなみにここで「僕は文化人に戦争責任を問うのは…」とか冷静に論じ始めるのがミヨシくん.
親友がいじめられてると早合点して椅子を振り回したとかいうあの人と,確かに同じ人.
意外と心が通じ合う朔くん
頭がファンタスティックで,□街随一の変人朔くん.
でも□街で異変が起こってからは筋の通った行動をしてる.
すごい唐突なんだけど、なんとなく映画のクレヨンしんちゃんを思い出した。
野原しんのすけは,ことあるごとにお尻を出し,あべこべな言葉を使い,母みさえを怒らせるお馬鹿な5歳児.
でも,危機が起こって周囲に頼れない時,つまりは劇場版などでは,驚くほど冷静で頼もしい行動ができる.
しんのすけは,心の底からお馬鹿な5歳児というより,周囲にみさえやひろしといった自分を守ってくれる大人がいる状況ではじめて安心してお馬鹿に振舞えている,ように思う.
朔くんはどうだろう.
情緒不安定で,病的で,変態な朔くん.
白さんが「ほんとうの君は健康体なんだよ」(5話)と語る朔くん.
□街の危機に直面し,ミヨシくん曰く「飲み込みがよくなった」(51話)朔くん.
朔くんも,安心して詩作が出来る状況ではじめて,健全に狂えるのだろうか.
「そうおれは病気なんです,高熱に浮かされてひとりぼっちで震えてるんです」「と煙草ふかして書いてるおれ」「を見てるおれ」「を憎むおれ」「を笑うおれ」(56話)と内省する朔くん.
情緒不安定で病んだおれ,を見てる「おれ」という,ある種冷静で一般的な感覚をもった朔くんがそこにいる,気がする.
史実の萩原朔太郎もなかなかファンタスティックな詩を書くけれど,手品クラブに入れて嬉しかった話とか,娘さんと一緒に楽器を演奏した話とか,素朴なエピソードが沢山残ってる.
神様が夢見る世界では,朔くんは誰かに守られていますか.
終わりに
今無料で読めるらしい.
まだまだ,ぐうるさんの事とか,初期の作風とか,書きたいことが沢山あるので,
月に吠えらんねえの話,これからも続きます.