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虚の大地に立ったとき叫びたくなった。


このエッセイは2014年10月に
書いたものです。


久しぶりに広野に降り立った。


辺り一面何もない。



目の前には東京湾が広がり、

空には羽田空港へ向かう飛行機が、

数分おきに頭上を何機も通過した。


ここは中央防波堤外側埋立処分場、

新海面処分場。


所属する生協主催の見学会があり、

新江東清掃工場と、

埋立処分場に参加した様子を書いた。


都の職員がバスの添乗員となり、

説明を受けた。

この場には見学ツアー客しか立ち入り

できない。


東京の埋立問題は深刻だ。

新海面処分場は

あと50年でいっぱいになり、

その後の候補地は

決まっていないそうだ。


荒川と多摩川の合流する東京湾。

年間六千の船が行き交う。


「もう埋め立てる場所がないのですよ」

都の職員は何度も言った。


大地にはゴミを埋めたのがわかるよう

断面を削って見えるようにしてあった。



ゴミの上に土をかけ、またゴミという

サンドウィッチ状の断層が見えた。


ビニール袋の破片が

いっぱい詰まっている。

「レジ袋が多く残っていますね」

「そうなのです。熱処理しても
 溶けきらないので残ってしまう
 のです」

 職員は話してくれた。


愛知出身だという年配男性は

独特の訛りがあり親しみやすかった。


実際ゴミを埋め立てた場所に立ち、

「匂いや空気を体感して下さい」

そう言われた。


ゴミの匂いはなかったが、

隣接する中間処理された廃棄物を

埋め立てるところに、ブルドーザーが

作業していた。


その周りにはカラスが20羽以上

群がっているのが見えた。



ススキが風に吹かれ、懐かしい

空き地を思い出されたこの埋立地。


本来は海底だった場所である。


ゴミだらけの土地に立っていると

無性に虚しくて、大きな声で

叫びたくなる衝動にかられた。


この地に植樹された柿の木に

実がなり、味見をした職員は

「おいしくなかった」と感想を

述べたそうだ。


この見学会に参加して、

言葉にならない気持ちが残った。

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