日記:僕がサンボマスターを好きな理由
ある日、先輩に好きなミュージシャンを聞かれて、僕はサンボマスターが好きですと答えた。するとその先輩はなかなかに物をはっきり言う人で、サンボマスターを気に入らない理由を述べ始めた。
「サンボマスターの曲って鬱の人に聞かせちゃいけないと思うんだ。できっこないをやらなくちゃだっけ。あれとか特にそう。歌詞とか飲み屋で考えてそう。」と言った。
当時、身近に心の病の知人がいた僕は少し考え込んでしまい、会話の上では「そうっすねえ」などと曖昧な返事をしてしまった。だが今は後悔している。好きなものを好きな理由を瞬時に答えられないのは情けないなと今でも思う。
ただその時に言い返せなかったのは、自分の中で一理あると思ってしまったからだ。できっこないをやらなくちゃの歌詞は、先輩が言う通り根拠もなく人を励ますような歌詞が並ぶ。
「あきらめないでどんな時も 君ならできるんだどんなことも」
「君は今逃げたいって言うけどそれが本音なのかい? 僕にはそうは思えないよ」
確かに文字面だけ見ると、「うるせえ!嫌なもんは嫌なんだよ!」と言ってぶん殴りたくなるのも無理はない。
でもやっぱり違う。サンボマスターの唄はそんな薄っぺらい物じゃない。
人間は常に根拠を持って安心したがる。「〇〇っていう偉い先生が言ってたから」「××っていう論文で明らかにされているから」のように。逆にいうと根拠のないことを無意識に嫌って避けている気がする。その根拠が正しいか正しくないかはここでは関係ない。人は何も根拠のないことに戸惑ってしまう。
そんな中、サンボマスターボーカルの山口さんの書く歌詞は根拠のない決めつけばかりだ。「君ならできないことだって できるんだほんとさ嘘じゃないよ」とか。ライブのMCでも「お前らは生きてていいんだよ」「死ぬんじゃねえぞ」という熱い言葉をよく発する。
根拠のないことを忌み嫌う習性が現代人にあったとして、山口さんはその習性に真っ向から戦っている。相当な胆力がないとできない所業だと僕は思うし、その勇気に励まされる。ライブで山口さんの心の奥底から湧き出てくるような言葉たちは、語彙も独特で筋なんか通っちゃいない。でも腹を括ってしゃべっているのは伝わる。おそらく彼自身の無力さ、バンドのやるせなさみたいなのも感じることもあるだろう。それでも力強く歌っている姿が、僕は大好きだ。
いつかこの思いを先輩に話せる日が来るといいな。