
想像と想像と想像 #20
「見通し」
見通しが甘い。
これは社会で生きていく上で圧倒的に不利になる要素の一つである。
ものすごく大事な物事を進める場合、僕はまず自分の立ち位置の認識と達成までの計画を立てる。
この能力を大事な場面で発揮できる自分を、少し誇らしく思う時もある。
しかし、僕が見通しを立てるのは年に2回程度である。
基本的に、僕は見通しを立てない。
世の中なんとかなることだらけだからである。
ただ、この見通しの甘さを呪うことも多い。
先日パスポートを取りに行った時に、このことを嫌というほど痛感させられた。
僕が事前に調べたのは、パスポートセンターの場所と必要な書類だけであった。
地元から住所を移していないことから、戸籍謄本と住民票のコピーが必要であったが、これはコンビニで印刷できるので全く問題なかった。
さらに、実習のために撮った証明写真も持っている。
いつもの僕にしては、準備万端であったかに思われた。
立川のパスポートセンターには、大学終わりに直行した。
パスポートセンターは、ルミネの9階にある。
エスカレーターを乗り継ぎながら、意気揚々とパスポートセンターの前に辿り着いた。
そこで僕は異変を感じた。
シャッターが降りているのである。
立川じゃなくて新宿しかやってないのかな?などと考えながら、この時点でようやくパスポートセンターについて調べた。
すると、営業時間が9:00-17:00となっている。
現在の時刻は17:30。
こんなに早く役所が閉まるものかと腹が立った。
しかしこれは、事前に調べておけばわかったことである。
翌日。
昨日の反省を活かして、10:00にパスポートセンターに到着した。
この日は見通しを持つために、混雑しにくい時間まで調べておいたのだ。
「やればできるやつだな僕は。」
そう思いながら、30分ほど受付に並び、必要書類を確認してもらう。
確認してもらいながら、後ろにできていた長蛇の列を見た。
およそ2時間待ちといったところであろうか。
見通しを持たずに訪れてきた人の末路を横目で見ながら、彼らの愚かさをほくそ笑んでいた。
すると、衝撃の一言が僕に襲いかかってきた。
「履歴書の写真のサイズですと、パスポートの写真にはご利用できませんよ。」
聞いたところ、パスポートの写真のサイズは他の証明写真のサイズとは異なっているらしいのだ。
撮り直して、もう一度並び直しである。
僕は悔しさのあまり、気がつくと手に血が滲むほど拳を握っていた。
証明写真を撮り直し、再度受付の列へと並ぼうとすると、3時間待ちと書かれていた。
もはやソアリンの待ち時間である。
ソアリンに乗るまでの3時間は、談笑したり、アトラクションに思いを馳せたりと楽しむことができる。
ただ、パスポートセンターは違う。
びっくりするほど退屈なのである。
また、並んでいる間に受付の人から話しかけられるため、ゆっくり映画を視聴することもできない。
自分の見通しの甘さに呆れながら、僕はなんとか受付と申請まで辿り着いた。
2週間後、発行されたパスポートを受け取りに向かった。
受け取りには時間がかからないため、お金を払って一瞬で受け取ることができた。
これで一安心と一息ついていると、受付のおばさんが少し気まずそうに話しかけてきた。
「お写真がだいぶ右寄りになってるんですけど大丈夫ですかね?」
そこには、重力が右寄りにかかってしまっている世界線で取られた、希少なパスポートが出来上がっていた。