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手や手首の痛みを予防・軽減したい方へ

これまで、産後女性の手や手首の痛みについて調査してきました。その成果を共有させていただきます。


1.なぜ産後のけんしょう炎に注目したのか

今から約20年前ころから、育児期の母親の変調に気づきました。抱っこがうまくできない、その理由の一つに手や手首の痛みがありました。友人の調査に、産後の手の痛みの項目を入れていただき、パイロット調査をしてもらうと、なんと入院中、産後早期から、手の痛みを訴える人が2割近くあることがわかりました。それから、産後の手や手首の痛みの実態と育児との関連を調べ始めました。

2.産後の手や手首の痛みに関する調査

1)横断調査では 産後女性の手や手首の痛みと関連要因
35.2%の女性が産後に手や手首の痛みを保有し、妊娠期後期から産後7か月までの間に新たな痛みを発症し,発症のピークは産後1か月から2か月となっていました。一般に痛みは、利き手側に多いのですが、産後では痛みの訴えは両側性が多くみられました。赤ちゃんの世話は両手で行うことが多いためでしょう。痛みを訴える部位は橈骨茎状突起,橈骨手根関節,尺骨茎状突起,母指中手指節関節,母指手根中手関節の順に多くみられました。年齢,初産婦,手と手首の痛みの既往が痛みに関連していましたが,母乳育児,産後の月経再開,モバイル機器の使用時間との関連はありませんでした。
2)縦断調査では、産後の女性の手と手首の痛みについて、産後早期から9か月まで、Hand20(一般社団法人手外科学会で医療関係者向けに公開されている信頼性が検証されている患者立脚型機能評価質問表の一つです)を用いて自己評価してもらいました。手と手首の痛みは、生活の質の低下に関連していました。主観的および自己誘発性の痛みを報告することは、上肢機能障害の診断に役立ち、けんしょう炎等の障害を予防し、母親の生活の質を向上させる可能性があることを報告しました。
Tamami Satoh, Lourdes R Herrera Cadillo, Kazutomo Ohashi, Tetsuro Onishi.Self-assessed hand and wrist pain and quality of life for postpartum mothers in Japan.British Journal of Midwifery.30(8).

3.母親の負担を減らしたいという思いと教材開発

1)新生児沐浴のための学習教材
 新生児の沐浴のための教材(日本語版、英語版)を開発し、無料で公開しています。内容は学生がナビゲーターとなって学習を進めていきます。内容ははじめて沐浴をする親御さんの疑問に答えるものを網羅しています。
 現在では、シャワー浴が広がっていますが、赤ちゃんをお風呂に入れるための基礎的知識・技術を学ぶことができます。
 開発過程については、「実践報告 新生児沐浴技術の教育課題に対応したe-learningの開発」で報告しています。
2)けんしょう炎予防プログラム
 けんしょう炎予防プログラム(日本語版、中国語版、スペイン語版)も無料公開しています。
 産後けんしょう炎予防の8か条(日本語版、中国語版、スペイン語版)の啓発用チラシ、予防ガイドをアップロードしました。ご自由にお使いください。

3)産後腱鞘炎予防ハンドブック~支援者用~
 産後の母親の支援に関わる人向けの産後腱鞘炎予防ためのハンドブックを開発しています。4分割し、ファイルをアップしていますので、ご活用ください。


4.母親の負担を減らしたいという思いと商品開発 

1)授乳補助クッション開発 
 授乳補助クッションの開発にあたり、「授乳枕の使用条件の違いが上肢の筋活動に及ぼす影響 : 新生児人形を用いた横抱きでの準実験研究」について検討しました(母性衛生 60 (4), 644-652, 2020)。その結果、授乳枕とサポート用具の併用で授乳時の上肢の筋負担を軽減する可能性が示唆され、授乳時に通常のクッションに加え、母親の上肢をしっかり支えることの重要性が示されました。 これにより、[
から「授楽」を販売し、第10回キッズデザイン賞をいただきました。とてもシンプルなつくりのため、こんなものでと思われるかもしれませんが、サポート力があるだけでなく、支えたい部位にあわせて様々な使い方ができるのが特徴です。授乳以外の抱っこの際にも使うのと使わないのでは、楽さが違います。
2)スワドルおくるみの開発 
 首や腰が不安でで、ぐにゃぐにゃした赤ちゃんを抱くことは、初めての親にとっては難しいものです。赤ちゃんを落とさないために、頭とお尻だけを持った結果、けんしょう炎や手根管症候群を起している人がいました。このような方々に安心して赤ちゃんを抱っこしてほしい、早く抱っこに慣れてほしいと、「スワドルおくるみ」を開発しました。この際、おくるみでは、いくつかの問題(股関節脱臼など)が指摘されており、設計において整形外科医に意見を伺いながら開発しました。商品を販売する企業では、絶対に事故(乳幼児突然死症候群)を起こしてはいけないという条件もあり、使用期間を寝返りをする前までに限定しました。他に、うつ熱予防やおむつのチェックをしやすいような工夫もしています。この商品に関しては、小さく生まれた赤ちゃんたちの検査時の固定にも使われているそうです。赤ちゃんの城スワドルおくるみ
3)手首ガードサポーターの開発 
 佐賀大学の社会連携部門の担当者から、育児で解決すべき課題を尋ねられ、「家事や育児を邪魔しないけれど、親指と手首をしっかりサポートするサポーターが欲しい」とお願いしたことで、商品開発が始まりました。佐賀県のイイダ靴下(株)と佐賀県の助成金を受け、「手首ガードサポーターi-Ⅱ」が生まれました。最終的に外部で検証試験を実施していただき発売に至りました。イイダ靴下(株)には、家事や育児を邪魔しないだけでなく、両手兼用であること、洗いやすく乾きやすいなど、いくつもの難題をクリアしていただき、何年もかけて作っていただきました。最終的には、手外科の専門医の先生にテーピング効果などの助言をいただき、良いものができたと思っています。MとLサイズがありますが、手は個人差が大きく、Sサイズ、LLサイズを必要とする人もあり、現在検討していただいているところです。手首サポーターは、家事や育児をする人だけでなく、パソコンなどを多用する人にも有用です。

5.抱っこの姿勢判定アプリ開発

 佐賀大学理工学部、西九州大学と共同で、「母親の抱っこ時の身体不調を予防するための遠隔姿勢評価・支援システムの開発」をしています。現在、縦抱き用のアプリを開発し、これから横抱き用の作成に入っていきます。
 佐賀県内で子育てキャラバン隊に参加し、アプリの実証を進めている様子を読売新聞に掲載していただきました。「抱っこ」改善 アプリが助言 姿勢を撮影、バランスなど点数化 負担軽減へ佐賀大院生開発
 今後の計画については、改めて紹介させていただきます。


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