ろう石(22thの配信スクリプトより)
小さかった頃にチョークのように地面に絵を書ける「蝋石」というものがあった
画用紙には収まりきれない大きな絵を描くことができた
書いた線が強い雨に流されてしまっても
心にはその線がはっきりと残っていた
ズボンのポケットにはいつも蝋石の粉が少しだけ残っていた
雑草の葉で靴を緑色に染めてしまうほど走ることはもうないかもしれない
泥に汚れたシャツを着て、夕陽の中ひいていく汗を感じる夏の日は
もうないかもしれない
もうポケットの中に蝋石はない
遠い日にどこかに置き去りにしたまま
今、ポケットの中に手を入れてみると
指につくほんの少しの蝋石の粉がある
画用紙には収まりきれない夢をアスファルトに、地球の表面に書いていた
そのエネルギーは、今も心の中で静かに光を放っている
KABUTO