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【ニャンニャトリガー・カツブシ】


 日本首都の中心部たるネコサイタマ公園には、野放図なライブビューイングと現地主義がはびこり、花壇や噴水、ベンチ等には所狭しとライブ看板が配置され、極彩蛍光色で地方公演を宣伝する。公園を根城とする無数の猫達は、空を横切るサンマツェッペリンを見上げては、ガシャの広告に夢を見ていた。

 しかし中心から外れたここ、ナムコ地区側では、派手な色彩はやや抑えられている。この区画は園でも有数のお花見スポットであり、広大な園内に整然と植えられた桜がそびえ、春先になれば一斉に開花するよう調整されている。桜は今まさに見頃を迎えており、連日花見の客が後を絶たない。

 そんな公園の傍に『空猫珈琲店』は存在する。長い冬の閑古鳥は飛び去り、店は賑わいを取り戻し店員が慌ただしく駆け回る音が聞こえる。軒先には1匹の猫が丸まっていた。彼女の名はシッポ。ニャンニャである。ニャンニャとは、平安時代から日本の猫社会をニャラテで支配してきた闇の野良猫たちであった。

 そこへ静かに忍び寄る影があった。喫茶店の店員のフタバである。彼女は転寝をするシッポに近づき「ナオーッ!」かっと目を見開いたシッポが弾ける!両前脚を構えて伸び上がり、不埒者の顔面を肉球殴打!ニャンコノケン!「ンアーッ!?」強烈打撃を受けたフタバはもんどりうって店先に転がる!悶える店員を侮蔑的に見下ろし、シッポはしめやかに公園へと歩いていく。爪を出すほどの相手でもない。所詮人類など猫に仕える奉仕種族にすぎないのだ。

「このバカ猫ーッ!」

 響く罵声などどこ吹く風。ニャンニャはそのような下級生物に振り回されはしない。シッポはクール系美ニャンコだった。

 ネコサイタマ公園の桜は実際素晴らしい。特に深夜の夜桜は、月と風と静謐なアトモスフィアが神秘的な景色を生み出すが、日中はそうもいかない。騒々しい花見客に高尚な趣はなく、騒ぎながらアルコールを振りまく弱小存在は、ニャンニャにとっては格好の獲物であった。

「アッ、猫だよ!」

 酔った花見客が、チョッチョッと謎の鳴き声を上げながら手巻きする。シッポは擦り寄り、一度だけ頭を撫でることを許し、そのまま通り抜けた。残念そうな花見客の声を後ろに頭を掻くと、ゴウランニャ、彼女の口にはサシミが3枚咥えられていた。先程の客が広げる重箱から掠め取ったのだ。ニャンニャにとって、この花見会場はよい狩場なのだ。普段喫茶店で与えられるカリカリよりも美味な食事に、なにより狩猟本能が満たされる。あたりに気を配れば、シッポの他にもニャンニャが気配が。

「シ、シッポ=ニャン……」
「ドーモ、アカネチャン=ニャン」

 ガサガサと茂みを揺らして現れたのは赤毛のニャンニャだ。アカネチャンである。彼女とは以前、調子に乗ったアカネチャンが違法マタタビネコプリン製造を流行らせ、地元のギャング団に目をつけられ公園の噴水に沈められそうになっていたところを助けてからの縁だ。以来、彼女の来訪は即ち面倒事の種であったが……

「たすけてぇ……」

 弱々しく鳴き声を上げてアカネチャンが倒れる。その全身には、ニャムサン! 数えきれないほどの刺々しい物体が付着していた!非猫道兵器オナモミである! 「酷い、誰がこんなことを!」シッポは次々とオナモミを取り払っていく。そこへ!

「ナオーッ!」

 シッポは素早い猫パンチを繰り出す! ビシッ! 地面にオナモミが転がる。「ニャニ奴!」鋭い誰何の声に、2匹のニャンニャが答えた。

「「ンッフッフ~」」

 現れたのは双子めいた黄色のニャンニャだった。

「やるねぇお嬢さん、アタイらのニャンブッシュを防ぐとは」
「このまま三味線にするのが惜しいってヤツよ」
「シッポ=ニャン……」
「ドーモ、アミニャです」
「ドーモ、マミニャです」

 縋りつくアカネチャンを退かせ、シッポはアイサツした。

「ドーモ、ニャンニャトリガーです」

 その怒りを押し殺したアイサツに、双子ニャンニャは顔を見合わせた。「ニャンニャトリガーって……」遠い東の国立公園の伝説に、6匹のニャンニャあり。

 かつて大きなイクサがあった。公園を荒らすカラス軍団を相手に猫達は群れで闘い、激闘の末に平和を勝ち取った。その時にトップに立ったニャンニャこそ、六英猫と呼ばれる存在であった。彼らはイクサの後、全国行脚に出かけたとも、どこかで猫死にしたとも、飼い猫になったともいわれている。もはや形をなくした伝説であるが、今でも猫達は実しやかに言い伝えを語り継いでいる。その六英猫のうちに、ニャンニャトリガーの名がある……!

「いやいや、それはないっしょ」
「まさかねー……」

 アミニャとマミニャは不安げに顔を見合わせた。噂が真実であるならばニャラテの差は歴然!

「いやいやホントだって。やめた方がいいからね」

 満身創痍のアカネチャンは、後方でサシミを齧りながら観戦ムードで口を出した。「実際強いよその子」ニャンニャトリガーは舌打ちをした。最後に堪能しようと思っていたマグロを持っていかれたのだ。怒りの矛先は双子に向かう。

「う……」

 憤怒の猫オーラに押されアミニャが一歩下がる。「なんてこったァ、コイツはタダモノじゃねえぜ!」「そうだなアミニャ。ヤバイ匂いがプンプンすらァ!」だが双子は決断的にアイコンタクトを交わすと、軽やかな身のこなしで飛び掛かった!

「ここで退いたらオヒメチンに合わせる顔がにゃい!」
「そっちのが怖いもんねー!」

 双子のニャンニャはシンクロめいた動きで茂みに紛れ、木々を蹴ってシッポを翻弄する。サシミを食べ終えたアカネチャンが叫んだ。「気をつけて! その双子猫法に手も足も出なかったんだよ!」見回すシッポの周りを黄色い残像が渦巻く。

『バターになれ~~~!』
「……ナオーッ!」

 左右から飛び出したアミニャとマミニャの額に、何かが弾けた。「「フギャーッ!?」」2匹は空中でバランスを崩し、互いに衝突して地に転がった。そこへ漆黒の影が閃く!「ナオーッ!」「フギャーッ!」「ナオーッ!」「フギャーッ!」一瞬のうちに勝負は決した。「ワザマエ!」

 アカネチャンは転がってきた大豆を齧り、カリカリと噛み砕いた。これが双子を撃ち抜いたものの正体である。暗黒武道ピストルニャラテが奥義、豆鉄砲。ニャンニャトリガーの名の由来でもある。かつてのイクサで群がるカラスを撃ち落としに落とした彼女のワザマエを知るものは、いまや少ない。

「「サヨニャラ!」」

 双子の猫は腹出し降参!

「うう、このままボスが黙ってると思うなよ……」
「例え我らがやられても、最強の第三女が貴様らをジゴクの果てまで追い掛けるだろう……」
「そんなのいたっけ?」
「うっそぴょーん」

 アミニャとマミニャは尻尾を巻いて逃げ出した。だが!

「ナオーッ!」
「フギャーッ!?」

 しかしシッポは逃走を許さない! 素早いジャンプでマミニャを踏み倒し、アミニャの後ろ首を掴んで詰問する!

「勝手に喧嘩売って帰らないでくれる?」
「フギャーッ! この子お約束ってものをわかってないよ!」
「助けて!」
「あなた達、ネコサイタマ公園の猫じゃないでしょ。何しに来たの?」
「まあまあ、それはこのアカネチャンが説明しましょう」

 ゲップをしながら悠々とアカネチャンが立ち上がった。「この子達はキョートギオン公園から来たんだよ。それだけじゃないでしょ」「そう、我らは四条家のオヒメサマ、タカニャ=ニャンの一の子分」「そうそう、チョーメーモンなんだかんね」「その名門猫が何の用よ」「フ、このアミニャ、ここで口を割るほど惰弱な猫じゃニャイエエエ!?」「何でもお尋ねください!サー!」「何しに来たの」「この辺りの喫茶店に運び込まれる、伝説のカツブシを奪いにきましたです!サー!」「伝説のカツブシ?」「スキアリ!」アミニャが猫煙玉を投擲!

「オボエテロ!」
「ヘンタイ!」

 煙幕の向こうに去り行く声にシッポは豆を放ちかけ、やめた。「シッポ=ニャン?」恐る恐る顔色を窺うアカネチャンの顔面にソフト・猫パンチを見舞うシッポの横顔は、奇妙なアトモスフィアに満ちていた。

「……タカニャ=ニャン」

風に乗って、呟く声が聞こえた。




 日が沈みかけ、ネコサイタマ公園も黄昏色に包まれていく。人も猫も各々の寝床に帰っていくなか、シッポは空猫珈琲店へと歩を進めた。既に閉店しておりカーテンも閉まっているが、ニャンニャ聴覚は店内の人気を感じ取っていた。幹下でカリカリを食べていた猫が顔を上げた。

「ドーモ、シッポ=ニャン~」
「ドーモ」

 彼女はミャオ。共に喫茶店で厄介になっているニャンニャである。「先にいただいていますよ~」ミャオの隣には黒い猫皿があり、カリカリが盛られている。シッポは匂いを嗅いでからミャオに尋ねた。

「最近、フタバの様子はどう?」
「フタバ=サンですか~。そういえばお祝いですな~」
「お祝い?」
「なんでも、全日本饂飩職人最強決定戦中学生の部で優勝したらしいですよ~」
「……そう」
「確か、副賞として高級お出しセットが届くそうですよ~。楽しみですな~」
「……そう」

 そういうことか。シッポは確信した。厄介な物を。「なんだかみんな楽しそうでいいですね~。春ですからね~」「そうね」「シッポ=ニャンも楽しいですか~?」「私は……」

 シッポは賑やかな店内を窺った。「ミャオ、サナに今夜は外に出るなって伝えて」「……?はい、わかりました~」ちょうど次女がドアを開けて出てきた。トラック宅配業者が段ボール箱を手渡す。ニャンニャトリガーの目が鋭く光った。




 夜のネコサイタマ公園は、遠く響くサイレンや喧騒を他所に、隔絶された地であるかのような錯覚を覚える。咲き誇る桜がノイズをシャットダウンするのか、今日に限っては夜桜を臨む酔っ払いの姿もない。シッポは公園のベンチでダンゴ・メディテーションしていた。ふと、木々のざわめきが止んだ。

 桜が舞い散る歩道を雅に進むニャンニャあり。その猫は両手に双子猫を侍らせ、音もなく現れた。しなやかな体。まるで月の光を編んだような美しい銀毛、澄んだ瞳は超常的ですらあった。

「ドーモ、久しいですね。シッポ=ニャン」
「ドーモ、タカニャ=ニャン」
「昼間はこの者らが迷惑をかけましたね」

 陽気なアミニャとマミニャは先と違い、緊張に身を強張らせている。「六英猫の名を聞いても退かぬとは……しかし、これは私の教育の不行き届きのせい。責めてやらないでくださいまし」「その様子だと、今は隠居生活を堪能しているようね」「ええ、もうあのような血生臭いイクサはこりごりでして」

「え……」

 何かを悟ったマミニャが、タカニャの顔を見、上品に微笑む主の目と逢った。フ、と歪んだ笑み。「ニャイエエエ!?」突然マミニャは垂直ジャンプ!さらに腹出し降参!「サヨニャラ!」「マミニャ!?」痙攣するマミニャを慌てて介抱するアミニャを尻目に、タカニャは大きく背を伸ばした。

「今の私は、カラスを叩き落とすことよりも遥かに高尚な趣味を見つけたのです。その邪魔はさせません。例えあなたでも」
「趣味……?」
「らぁめんです」
「らぁめん……!」
「そう、イクサの傷を癒すため故郷に帰った私は、実家でこの世で最高の美味に出会ったのです。素晴らしきらぁめんに……!」

 シッポはかつての記憶に想いを馳せた。タカニャの最大の脅威は、尋常ならざる感知力で発見した敵軍の兵糧を食い尽くす、底知れぬ食欲。その様はまるで嵐が花を散らすが如くと恐れられ、ネコサイタマに名を轟かせた。そう、彼女は救国の六英猫の1匹である!

「そこを退きなさい。シッポ=ニャン」
「……」
「その先の喫茶店に、伝説のカツブシが届いたことは存じております。私はそれを拝借し、最高のらぁめんを作るのです!」

 なんたる悪魔的計画!予期していたとはいえシッポは眩暈を覚えた。タカニャは並外れた食欲を満たすまで止まることはない。だが、それを承知で彼女を待ち構えたのだ!

「ニャラテを構えなさい。タカニャ=ニャン」
「そうですか、残念です。シッポ=ニャン。いえ……ドーモ、ニャンニャトリガー=ニャン。カザハニャです」
「ドーモ、カザハニャ=ニャン。ニャンニャトリガーです」

 両者はアイサツした。イクサが始まる!「ナオーッ!」ニャンニャトリガーが動いた! 豆粒弾射出! 弾かれた弾丸は過たずカザハニャの顔面にヒット! 「……懐かしい味ですね」タカニャはバリバリと豆を噛み砕いた。ゴウランニャ! 何たることか!? タカニャは撃ち込まれた豆を口で受け止めたというのか!? 何たるニャンニャ動体視力!

「忘れたのですか? 私にピストルニャラテは通じません」
「ナオーッ!」
「そして……」

 タカニャはシッポのトビゲリをいなし、逆に流れるようにぐるりと体を中心に振り回し、地面へと叩きつけた! 「フギャーッ!?」「……ニャラテは私が上回ります」「うう……」地に伏せるシッポ。強烈な衝撃と共に、古い仲間達との記憶が蘇る。あの頃は……あの頃は……

「ナオーッ!」
「ナオーッ!」

 シッポはリフレインを断ち切り、タカニャの猫パンチ追撃を躱した! 流動的なニャラテが次々と打ち込まれる! 「ナオーッ!」鋭い右猫チョップを避けると、長い尻尾がシッポの顔を打った! 「フギャーッ!?」左ビンタ! 「フギャーッ!?」右ビンタ! 「フギャーッ!?」トドメの右猫アッパー! 「フギャーッ!?」シッポは大きく宙を飛んだ。桜並木、ネコサイタマ公園、空猫珈琲店が見える……イクサの傷を引きずり、半死半生でネコサイタマ公園に辿りついたシッポを見つけたのは、誰であろう、フタバであった。彼女はシッポに温かいミルクとチュルチュルを与えた。

 シッポは知っていた。フタバの趣味が高じ、無理を通して喫茶店のメニューにウドンが乗ってから、彼女は毎日ウドンの味を高めるべく修行をしていた。出来がいいとシッポにも出し汁を舐めさせ、夢中でペロペロする姿を嬉しそうに眺めていた……そのフタバの笑顔を曇らせることは……!

「ナオーッ!」

 シッポは空中で身を捻り、桜の木を蹴ってタカニャに飛び掛かった!

「ナオーッ!」「ナオーッ!」
「ナオーッ!」「ナオーッ!」
「ナオーッ!」「ナオーッ!」

 鋭いニャラテの応酬! タカニャは必死で喰らいつく旧友を称賛した。「腕を上げましたね。流石ネコサイタマの狂猫と呼ばれていただけはあります」「ナオーッ!」シッポは豆弾を撃ち、同時に顔面を狙う猫パンチ! 「ナオーッ!」タカニャは尻尾で豆を払い落とし、パンチを受け止めた。「フシューッ!」「しかし、まだまだです」タカニャの目が冷酷に光る!「四条流……」一瞬のうちに凝縮された超高濃度ニャラテが爆発する……

「……これは」

 タカニャは爪をいっぱいに開き、鋼鉄をも切り裂く右手を止めて、目を細めた。「なんと、面妖な……」シッポは訝しんだ。風向きが変わった。桜の花が散り、花弁がひらひらと舞う。彼女のニャンニャ嗅覚は香りを捉えた。香ばしいカツブシの匂いだ。一瞬早く嗅ぎ取ったタカニャは恍惚としている。

「イイイイイ……」
「はっ!?」

 我に返るがもう遅い!

「ニャアアアーッ!」

 タカニャの顔面に渾身のスクリュー猫パンチが炸裂!

「フギャーッ!?」

 タカニャは吹き飛び、ベンチを破砕して後ろの木に激突! 「サ、サヨニャラ……!」腹出し降参! 勝負はここに決した! 「「オヒメチン!」」双子が駆け寄る。

「ふふ、完敗です。シッポ=ニャン、今のあなたには守るものがあるようですね」
「タカニャ=ニャン」
「わかっています。今日は退きましょう。またいつか、以前のように皆と宴会をしたいものですね」

 そうして月下美猫は立ち去った。まるで月の光にとけるように。

「……まったく、あの食い意地姫は」

 シッポは溜息を吐くように微笑むと、ヨロヨロと歩き出した。もう夜も深いというのに、喫茶店には明かりが灯っていた。「はーあ……」その時、店の中から欠伸をしながらフタバが出てきた。シッポはビクリと身を竦めたが、疲労のために逃げ出すことができなかった。「あ、シッポ!」フタバが気づいた。

「……」
「……」

 両者はじりじりと睨み合った。「フシャー……」「何よ、相変わらず不愛想な猫……そうだ!」フタバは店内に引っ込むと、すぐに飛び出してきた。差し出す小皿には淡い液体が揺蕩っている。香ばしい匂いは、イクサの最中に彼女を救ったものだ。「どう?いい出汁取れたと思うけど」

 シッポはフンフンと嗅ぎ、やがて一口舐めた。「……!」たったそれだけで、全身に温かい滋養が行き渡るのがわかった。イクサで疲れた体が癒されていく。シッポは夢中でペロペロした。フタバは満足そうに眺め、こっそりと猫の背中に手を伸ばし、ビシッと尻尾で叩かれた。

「こいつ……」
「……」

 シッポは出し汁を飲み終えると、ぐぐっと伸びをした。傷は癒えきっていた。これが伝説のカツブシの力か。「どう?夢中で舐めちゃって。美味しかったんでしょ」得意そうにフタバが見下ろす。普段であれば顔面猫パンチを叩き込むところだが、今日だけはそういう気分ではなかった。

「ナーオ」
「ええっ!?」

 黒猫にするりと擦り寄られ、フタバは慌てた。しかしシッポは撫でさせる隙を与えず、また公園へと駆け去っていった。フタバは前代未聞の出来事に放心した。しかし、こんなに桜が綺麗な夜なのだ。何か特別なことがあってもおかしくないだろう。そう納得して、店内へと戻っていった。


【ニャンニャトリガー・カツブシ】終わり






◆それは禁断の関係……◆

◆「ガンドー=サン……」「俺はカラスで、お前さんは猫。いずれこうなることはわかってたろう」「でも……」「カラテを構えな。ニャンニャトリガー=ニャン」◆

◆国立ナムコ公園はアビ・インフェルノ・ジゴクと化していた。猫とカラスのイクサは公園全土を巻き込み、もはや人間すら立ち入れない。「ナオーッ!」「グワーッ!?」銀色の稲妻めいたタカニャが次々とカラスを打ち落としていく。「全部のカラスをヤキトリにしなさい!」イオリの眼光は凄まじい◆

◆「キーッ!そこ!早くトリモチを仕掛けなさい!」「……」センパイの背を見つめるシッポの肉球は、ピストルニャラテの酷使により硬く強張っていた。「ああもう!」指揮をとるイオリが辛抱堪らずイクサ場に突撃すると、シッポは素早く辺りを窺い、森の奥へと消えた。「……ガンドー=サン!」◆

◆そこは彼女と、彼女の師だけが知る秘密の穴場。イクサとは無関係の師に危機を伝えなくては……!「そこで止まれ、小娘」「!?」「流石だガンドー=サン。本当に六英猫が釣れるとはな」「……」「ガンドー=サン……?」「貴様を処分すれば、我らがクロイ・カラス・レンゴウの勝利に一歩近付く」◆

◆「……」「以て、この水瀬家の家宝『ピンクラビットの涙』も私のものとなるのだよ」クロイは輝くダイヤモンドをちらつかせた。「さあ、ガンドー=サン。カラスの誇りにかけて、猫を退治するがいい」「ガンドー=サン……」「……」「どうした?無理だというなら手を貸そうか?」現れる手下達!◆

◆「……イヤーッ!」『グワーッ!?』黒翼一閃!吹き飛ぶカラス達!「ナメるなよ、クロイ=サン。俺ひとりで十分だ」ガンドーが大きく翼を広げる。クロイは老鴉の巨大さに戦いた。「さぁて……レッスン……何だったか。とにかく教えた通りにやれ。シッポ=ニャン」「そんな、私にはできません……」◆

◆「カラテを構えな。ニャンニャトリガー=ニャン」「ウワァーッ!」……シッポがネコサイタマに辿り着く前のエピソード、遂に解禁。彼女を英雄足らしめる伝説の背後には、あるカラスとの絆の物語があった…… 『ニャンニャトリガー・ゼロ』2030年春、全次元同時公開。「……ありがとう、センセイ」◆


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