オリンピックにブレイクダンス
■ まえがき
自分は長年ストリートダンスの世界に身を置いてきだが、その前は野球である。小学校から中学まで野球漬けでかなりの時間を野球につぎ込んだが中学であまりのハードな練習に身体が悲鳴を上げて高校では別の道を選択した。
選択したのは昔から得意だった絵の世界で絵画を専門的に勉強出来る環境を選択した。同時に始めたのはストリートダンスできっかけは文化祭というありきたりの理由だったが自分が高校生の時にディスコからクラブというナイトカルチャーが普及し、ストリートダンスが世の中を席巻した事も始めた理由の1つだ。その当時アメリカでHIPHOPカルチャーが全盛期を迎えて世界中がそのカルチャーに熱狂した。1992年から1994年の事だ。そのストリートダンスのカルチャーが一つの曲がり角に来ている。
■ 本題
オリンピック競技選考にとストリートダンスの一つブレイクダンスが選ばれた。
サーフィン、スケートボード、スポーツクライミング、そしてブレイクダンスである。メディアで早速報じられていたがブレークダンスと表記されており、今のメディアが如何にテキトーなのかを教えてくれる。
そして、野球やソフトボール、空手が落選した。
うーん。オリンピックはスポーツの祭典のはずだけど、スポーツって何?
ブレイクダンスはアート。自己表現の1つでありアクロバットがあろうが何しようがアート。
野球はスポーツ。世界中の競技人口はサッカー等に比べれば俄然少ないですがスポーツ。こちらはオリンピックが正式種目として認める人口に達していないのが理由だろうと思うが仕方ない。
同時に認可されたスケートボードやサーフィンは?スポーツで競技。もちろんそれ以外のカルチャーはあるけど一般人の認知として技を競う事は普通でオリジナリティ等の審査項目があるがスポーツ。
で、考えたんだけど何故に野球が落ちてブレイクダンスが認められたかと言えば答えは1つ。
人口と視聴率。
昨今、オリンピックのビジネスは放映権料が中心で莫大なお金が動いているけど、全てその指標は視聴率によってスポンサーからの出資が決まっている。広告業界で働けばわかるが視聴率はそのまま放映権の価格に反映される。
今回IOCがブレイクダンスの競技を受け入れたのは圧倒的なダンス人口を視野に入れ視聴率を稼ぐ為のターゲットにしたからとしか思えない。
ビジネス的には当たり前で、マーケティングからの視点で言っても最もな選択である。
ただし、自分がそのカルチャーに身を置いている立場として言わなければならない事がある。
■ 疑問
ブレイクダンスはアートであり、スポーツでは無く、そもそものオリンピック憲章でうたっている内容にはアートカルチャーに触れた文言は無く、対象はスポーツと明言しているにも関わらず視聴率を稼ぐためにアートカルチャーを競技化してまでやる必要はどこにあるんですかね?
スポーツ選手達がその恩恵を得るのは良いとしても、スポーツを推進する名目で集められたお金でアートカルチャーが推進されるのには違和感しか無い。
アートカルチャーを推進するイベントでブレイクダンスが出てくるのは分かるし、それが本来の姿。
■ SNSでのオリンピック競技加入に対する支持の拡散
今回の選考にあたって実は数日前から世界中のダンサーにSNSでメッセージ拡散された。以下の内容。
全くもってどのような競技になりどのような参加形式になるか書かれていない。
英文が世界中で拡散されたのだが、その英文も翻訳はついていない。
英文には
"It’s not a replacement of existing establishment of art of Breakin’
という文章があり、アートカルチャーに影響は与えないと書かれているが、日本人向けにはその訳すら書かれていない。
で、どうなったかと言うと見事に世界中で拡散されたのだけど、
「大丈夫?」
っていうのが最初の俺の反応。
実際、競技の審査方法やこの記事を書いたダンサー、関わった人達の記事が後で見つかったので見てみた。本来、こっち拡散しろよっつー話なんだけど、変なSNSマーケティングに感化されたのか大事な部分を切り離して単略化してバズったの。
で、ブレイクダンスの審査方法や大会の進め方などが書かれていたり、関わっている人達が安易にブレイクダンスをオリンピックに推進した訳では無いことが分かる。
その点はホッとしたのが本音。
ただ、そもそも原点の問題であるアートカルチャーに与える悪影響には一切言及してていない。
競技化するとなれば彼らが言う通りオリンピックのブレイクダンスは別物になる。点数が付けられオリジナリティやクリエイティビティを数値化して判断するらしいがそれはアートでは断じて無い。
アートカルチャーに競争はある。コンテストもある。ただ、それは絶対的な評価では無い。例えどんな有名なコンテストであれ入選しなくてもそれはそのアーティストの絶対的な評価にならない。なってはいけないし、アートでは評価は見た人が最終的な判断をするもので外の世界に正解は無い。あると思っている人は大きな勘違いだ。
もちろん、技術や構成等もアートの一部であり切り離す事の出来ない大事な要素はある。この部分で大枠の審査をしているのがアートカルチャーのコンテストだが、だからといってそれは絶対的な評価では無い。
■ 懸念
では何をオリンピックにブレイクダンスが競技として認められたら危惧するかと言えば、一般人はオリンピックを見る人口の方が多く、我々が別物と叫んだところでそのブレイクダンスが一般人にとって表の"ブレイクダンス"であり、結果的に原点のアートであるブレイクダンスが広まるのでは無くむしろ"衰退"するのでは無いかと言う事。
オリンピックは非常な巨大なビジネスプラットフォームであり、影響力を持つ。
ブレイクダンスのカルチャーの人々がコントロール出来るものではないし、視聴者においてはオリンピックの運営サイドすらコントロール出来るものではない。
つまり、見た人々がオリンピックのブレイクダンスをどのように感じるかコントロール出来ない。
なら、悪影響が出ないように未然に防ぐしか方法が無い。というのが俺の中での答え。
■ 願い事
もし、オリンピックにブレイクダンスが組み込まれるとして絶対にオリンピック運営するIOCに要求すべき内容があるとしたら以下の内容。
1.各国のTVで放映されるブレイクダンスの競技でナレーターが最初に説明すべき事
・本来のブレイクダンスは別物という事
・ブレイクダンスのカルチャーを説明する事
・アートカルチャーでのブレイクダンスと競技ブレイクダンスの違い
・スポーツでのブレイクダンスの評価はアートカルチャーでのブレイクダンスの評価にはならないという事。
2.ブレイクダンスをする選手には必ずブレイクダンスのカルチャーの講義をする事。知らない理解しない選手を大会に立たせないこと。
以上の内容をIOCに認めて貰わない限りオリンピックでアートカルチャーのブレイクダンスは組み込まれるべきでは無いと思っている。
■ あとがき
この話を目にして皆さんがどのような感想を持つかわかりませんが、ストリートダンスやアートカルチャーに長年身を置いてきた立場として言わなければならない事だと思い書きました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?