Mosler, W. [2012], Soft Currency Economics II: What Everyone Thinks That They Know About Monetary Policy Is Wrong その1

現代貨幣理論(Modern Monetary Theory またはModern Money Theory)の,短く言えばMMTの重要な創始者(の一人)といえるウォーレン・モズラー(Warren Mosler)の著作の一つ,Soft Currency Economics II: What Everyone Thinks That They Know About Monetary Policy Is Wrong(2012)について少しばかり書いてみる。(書いてみるというよりはメモ書きを残すと言った方がより正確ではあるのだが…。そして,これらのメモについてこの記事の書き手が何か補足説明をすることは,おそらくないのであるが…。)
邦訳はすべてこの記事の執筆者による試訳であることを断っておく。

1 目次(全体の目次)

まずは英語(原語)のものを書き写す:

Preface
Twenty Years Ago - An Italian Epiphany
Soft Currency Economics(ここにある詳細目次は後述する)
Mosler Speech - Rome Debt Management
Conference October 26, 2012
Other Recommended Books
Appendix for Soft Currency Economics
Bibliography for Soft Currency Economics
About the Author

次にここまでの邦訳を記す:

序文
20年前 - イタリアのエピファネイア(ひらめき)
ソフト・カレンシー・エコノミクス
モスラー演説-ローマ債務管理
カンファレンス 2012年10月26日
その他のおすすめ書籍
ソフト・カレンシー・エコノミクスの付録
ソフト・カレンシー・エコノミクスの書誌情報
著者について

2 Soft Currency Economicsの詳細目次

まずは英語(原語)のものを書き写す:

Statement of Purpose
Fiat Money
The Myth of the Money Multiplier
The Myth of Debt Monetization
How Fed Funds Targeting fits into Overall Monetary Policy
Mechanics of Federal Spending
Federal Government Spending, Borrowing and Debt
Interest Rate Maintenance Account (IRMA)
Fiscal Policy Options
The Gold System as a Basis for Reserves
Reserve Requirements, History, Rationale & Current Practice
The Discount: History & Operation
Failure to Meet Reserve Requirements
The Fed Funds Market
The Repurchase Agreements Market (Repos)
Matched Sales Purchases
The Fed in the Repo Market
Controlling the Fed Funds Rate
Further Discussion of Inelasticity
Lead Accounting
More on Why Lead Accounting is Unworkable - Inelasticity for Loan Demand
What if No One Buys the Debt
How the Government Spends and Borrows as Much as it Does Without Causing Hyperinflation
Full Employment and Price Stability
Taxation
Foreign Trade
Inflation vs. Price Increase
Conclusion

次にここまでの邦訳を記す:

趣旨説明
命令貨幣
貨幣乗数の神話
債務の貨幣化という神話
フェドファンズ・ターゲティングは金融政策全体の中でどのように位置づけられるか
連邦政府の支出の仕組み
連邦政府の支出,借入金,国債
金利維持口座(IRMA)
財政政策の選択肢
準備金の根拠としてのゴールドシステム
準備金要件,歴史,合理性そして現在の慣行
割引窓口:歴史と運用
準備金の不足
フェドファンズ市場
現先市場(レポ)とは
買戻条件付き売却
レポ市場におけるFRB
FRB金利をコントロールする
非弾力性のさらなる考察
リード会計
リード会計が機能しない理由の詳細 - 融資需要の非弾力性
誰も国債を買わなかったらどうする
ハイパーインフレを引き起こすことなく,政府はいかに多くの支出や借金をするのか
完全雇用と価格安定
税制について
外国貿易
インフレ vs. 価格上昇
結論

3 重要である(と思われる)諸記述の抜粋

モズラーはこの著作の一部において,太文字で書いていたり,太文字で書いた上で四角で囲っていたりする(正確には,上に書いた項目も太字になっているのであるが,それは項目を示すための太字であると思われる)。今回の記事では,その一部を抜き出した上で邦訳してみることとする。

まずは英語(原語)のものを書き写す:

Monetary Policy Sets the Price of Money. (p. 14)
The Money Multiplier Concept Is Backwards. (p. 14)
Debt Monetization Cannot and Does Not Take Place. (p. 14)
The Imperative behind Federal Borrowing Is to Drain Excess Reserves from the banking system, to support the overnight interest rate. (pp. 14-15)
The Federal Debt Is Actually An Interest Rate Maintenance Account (IRMA). (p. 15)
Fiscal Policy Determines the Amount of New Money (p. 15)
Options Over Spending, Taxation, And Borrowing, However, Are Not Limited by the process itself. (p. 15)

次にここまでの邦訳を記す:

金融政策が貨幣の価格を決める(14頁)
貨幣乗数の概念は逆である。(14頁)
債務の貨幣化は行われ得ないし,行われない。(14頁)
連邦政府の借入の背後にある重要なことは,銀行システムから過剰な貯蓄を排出し,オーバーナイト金利をサポートすることである。(14-15頁)
連邦債務は実は金利維持口座(IRMA)である。(14頁)
財政政策が新しい貨幣の量を決める(14頁)
しかしながら,支出,課税,借入に関する選択肢は,その過程自体によって制限されることはない。(14頁)

4 野口旭による「MMT(現代貨幣理論)の批判的検討」における奇妙な点の一つ

野口旭という人物は「MMT(現代貨幣理論)の批判的検討」というタイトルのコラムを複数回に分けて書いている。その中のこのページにおいて,どうも奇妙なことが書かれている点があるのだ。それが,野口によって解釈された「MMTの中核命題」とされているところのもの,である。どうしてこれだけ回りくどい言い方になってしまうのかは,少し後で説明する。

まず,野口によって解釈された「MMTの中核命題」とされているところのものを引用してみる:

「政府の赤字財政支出(税収を超えた支出)は、政策金利を一定の目標水準に保つ目的で行われる中央銀行による金融調節を通じて、すべて広い意味でのソブリン通貨(国債も含む)によって自動的にファイナンスされる。したがって、中央銀行が端末の「キーストローク」操作一つで自由に自国のソブリン通貨を供給できるような現代的な中央銀行制度のもとでは、政府支出のために必要な事前の「財源」は、国債であれ租税であれ、本来まったく必要とはされない。」

ちなみにこの引用は「MMTの出発点であり、かつその不変の中核となっているのは、国債トレーダーであったウオーレン・モズラーによる以下の「発見」である」という野口の記述に続くものである。加えて言えば,野口はMMTを代表する書物として「MMTを代表すると思われるSoft Currency Economics II: MMT - Modern Monetary Theory Book 1(Warren Mosler著、初版は1993年)、Modern Money Theory: A Primer on Macroeconomics for Sovereign Monetary Systems, 2nd Edition (Randall Wray著、2015年)、Macroeconomics(William Mitchell、Randall Wray、Martin Watts著、2019年)という3冊の書物」を挙げている。

だがここで問題が発生するのである。まず上の,野口によって解釈された「MMTの中核命題」とされているところのものについて,その引用のページが定かではないということがある。野口とこの記事の書き手とが見ているモズラーの著作が異なっているという可能性も捨て切れないが。

そしてもっと厄介なのは,この記事の執筆者が見た限り,これに相当する部分がモズラーの著作の中に見つからないのである(この記事の書き手は上の,野口によって解釈された「MMTの中核命題」とされているところのものは,モズラーの著作から野口が「引用」したものだという前提に立っている。引用であるのならば,これの英語に相当する文章がそっくりそのまま存在しているはずであるが,その文章が今のところ見つかっていない。そして野口の解釈が入っているのならば,引用の形式で書くことは慎まれるべきである。もちろん引用ではない可能性もある。引用ではないのならば,紛らわしい書き方をしないでいただきたいものであるが(なお,引用とは一字一句を忠実に再現することであり,翻訳したからと言って原著とのずれが大きくなるのは問題なのである)。)。




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