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古戦場:(D&D Replay チダマ):II
時は遡る。まだマリネの話してないっすけど。
*まだ侍祭の見習でしかないウェ-ラ-ローシュ。13歳。
*博識で勉強熱心、頑健なハワード(名は伏せる)怒らせるな。
*やたら美人の姉がいるお調子者のアトル(姓は伏せる)。
後北条の王の家臣の寺領の次期村長とやらに呼ばれて出掛けた。
その日はあと三人いたはず。計六人だった。
「地下牢のドラゴンを殺せ」これが依頼。
博識のハワードが直ぐに噛み付く。
「地下牢だ廃城だ洞窟に巨体のドラゴンが入り込む事は出来んだろう。何故に龍が巣と成した。自らこのような枯れた地に侵入したのではないのだろう?悪くない奴と戦う気はないね。」
※なお、13歳の発言である。
「待って待って。卵のうちに閉じ込めたら大きくなったのかもよ。お館様、報酬次第だね。うちら宇宙戦艦とモビルスーツ新調したいし、最近はモーターヘッドってのがいい感じなんだってね。」
アトルはこんな感じだ。いや分かる。俺もモラーバーか、せめてスコタコを買いたい。生身で戦うのは怖いんだ。尚、新調どころかそもそも持っていないのだが。
「やった証拠にドラゴンの首、心臓、爪、羽、尾を持ち帰れ」
村長はこれを利して何か企んでいる。
落ちこぼれ気味の学生の俺でも分かる。
まぁでもやるさ。決定権、というか責任を取るのが俺の役目だ。
ダンジョン(地下牢)はとても狭く、廊下を並んで歩けない。
空気も汚れているし病原菌だらけだ。
名前忘れた三人が脱落した。勿論責めない。普通やらんわな。
一応RPGっぽく武装を紹介する。
日本では〝鉢〟と云われる兜の部位(飾り無しのヘルメット)を
顎紐で固定したら、白布を巻き巻きして更に固定して、鼻も口も隠す。気休めだがたっぷり水で濡らして、毒気に備える。
気分だけは武蔵坊弁慶だ。
鎧なんぞ逃げる時の邪魔。今回は飛道具相手じゃない。羅馬の布一枚で出来たアレか着流しがいい。草鞋はしっかり造り、金持は革のサンダルを履く。靴下は必須、御御足荒れます。靴底には必ず鉄鋲を打つ。
でもハワードは、キルトを腰に巻くだけだ。プロレスラーかよ。
祭司見習の俺何か極彩色の仮面してるし人のこた言えないのだが。
小手は先頭の担当だけが付ける。指なくなる訳にいかん。これだけは贅沢な造りだ。ハワードの腕は見た目、超合金だ。ロケットパンチなんかされたらたまらんからやるなよ「カッコいいだろ」とかやるなよ。頭良いから何やり出すかわかんね〜んだよ。でもハワードは、学級で落ちこぼれの俺をバカにしない。奴に欠点はない。
俺とアトルは、所謂小人種だ。蔑視の対象だ。ハワードは文武両道偉丈夫なのに、何でいつも俺らの先鋒を買ってくれるんだろう。
あ、アトルのお姉さん狙ってんのか?お姉さんは背が高くてすっぴんでも美人だからな。
武器?ダンジョンは雑居ビルの非常階段や小学校の廊下より狭いんだぜ。
先頭のハワードはエストック
真ん中のアトルはショーテル
最後尾の俺はメイス
飛び道具は石の礫。
盾なんかないぜ。
ハワード「ラッシュ。後ろ見てるか」
ラッシュ「松明無しで見えねぇ」
アトル「聞こえてるって素直に言いなよ」
蛇かナメクジならこんな大きな音しない。太縄が引き摺られるような音がする。灯は付けて居ないから、五感の、視覚以外でしか判断出来ない。
かつて根の国からの三勇士は、女神の神殿に乗り込む際、視覚、聴覚、味覚を失ったという。無くしたものは、他で補えという教えだ。
アトル「あー分かった!」
ハワード「
ゴツゥア!
うるせぇ静かにしろ。こっちは真面目にやってんだよ。なぁラッシュ?」
アトル「真面目な話なんだよ〜」
スパイク付金属製ガントレットのパンチは痛かろう。いつもアトルに揶揄われている俺はウフフンな気分。で、殿らしく仕事開始だ。
ラッシュ「想像より大物だが、もう近くにいるという事でもある。不意打ちはない。依頼主の言う相手が1匹だというのが本当ならだが。こっちが気付いても襲ってこねぇ。次の策があるんだろう。後ろはこのまま俺が見てる。ハワード、獲物取り替えよう。アトルはいつも両方に気ィ配ってくれて助かる。いつもの8ビートで行こうぜ。」
ハワードがエストックを投げてきた。刃のない、刺すだけの用途の剣だ。同時にこっちはメイスをハワードに投げる。金属製の棍棒。宗教じみた装飾だらけなのが不満で、矢尻や菜切がビシバシ生えてある。厨二病だからこんなんでいいのだ。
ハワード「おまえの恋人、丸裸にしちまうぞ」
ラッシュ「トゲ抜いてくれるのか。ツルツルになったら返せよ」
アトル「童貞キモ。うちの姉ちゃんなんk‥」
ハワード「Ready」
ラッシュ「Go」
二方向に同時に駆ける。中衛は先鋒に付いた。安心だ。
もうバレてんならよかろう。トーチを灯して床へ放った。
尻尾。後ろから迫っていた。
ドラゴンの尻尾だ。美しい真紅の尾。
尻尾で侵入者探りに来るん?なんて考える暇ない。
自動車で撥ねられるよりも強烈な尻尾の一振り。
当たった所は折れる。だから鎧は不要なんだ。鎧は壊れなくとも内臓がぐちゃぐちゃになっちまう。盾で受ければ腕が折れる。
この狭い場所で、竜巻の様にグルグル回りながら竜の尾が迫って来る。何回巻いてありやがる。何回避けないといけないのか。
何て考えていたら気づいたらあの世だ。
‥
バイトで鰻屋で串刺してたのが役だった。動いてたって、
動きのパターンを読めたら勝ちさ。尾の先端を狙え。
まだ暴れているがもう脅威じゃない、尾を壁に縫い留めた。
もう地下牢(ダンジョン)はグラグラ揺れてる。
他の囚人が、牢や枷を剥がそうと暴れている。
一番大事な仲間助けて、お仕事も済んだらね。心で呟く。
絶対悪い事していないであろう人が、軋んで崩れる石畳に挟まれてグズグズになっていく。
火
廊下の先から炎の壁が迫ってきた。床スレスレにつくばって石畳を滑って進む。誰かの血で滑るお陰で前へ進める。二人はどうしてる?
柵
鉄の柵何か最早ただの紐か穂のようだった。
石と鉄で出来た地下牢が途轍もなく熱い。鉄牢が燃えていた。
でかい
お馬さんとか、牛さん近くで見てびびった事は?
子供の頃、鶏が結構怖いなと思った事は?
鬼蜻蜓や蟷螂の勇しさに慄いた事は?ありますか?
あれがレベル2。
レベル2億のドラゴンが、俺の友を火で舐めていた。
武器も言葉も何もない。辛うじて人の形をした何かがお互い寄り添っていた。
君は何の理由で閉じ込められていたのか、君は誰なのか。
もうどうでもいい。
この感情こそ理不尽な争いの元だと今では分かるが。
焼けたかに見えた友が体を振った。灰が飛び散る。灰じゃない。友の、あの肩を抱き合った友の体だ。
「おっぽ刺してくれて助かったぜ」
あんなに美しかった肉体が、焼けて炭の様に崩れて来る。
わざとか、保持しきれなくなったか、メイスがその手から溢れる。
「AR」
それが彼の最期の言葉だった。