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「接客体験のDX」がもたらす新しい顧客コミュニケーション

生活者の購買行動が大きく変化しています。何を、どこで、どのような方法で買うか──。その選択肢が多様化している現在、商品やサービスを販売する側も新しい接客の方法を考えなければならなくなっています。その新しい接客方法の一つが「チャットコマース」の活用です。チャットアプリなどを使って生活者の接客体験を創出するチャットコマース。そのトップベンダーであり、博報堂DYベンチャーズの出資先でもあるZeals(ジールス)のCOO・遠藤竜太さんと、博報堂DXプロデュース局の田口圭太に、「接客体験のDX」について話を聞きました。聞き手:漆山乃介(博報堂DYベンチャーズ パートナー)


デジタルにおける「接客体験」をどうつくっていくか

漆山
博報堂DYベンチャーズはこの4月に、チャットコマースのトッププレーヤーであるジールスに出資をさせていただきました。まずは、ジールス がどういう会社であるか、COOの遠藤さんにご説明いただきたいと思います。
遠藤
ジールスは2014年に設立されたスタートアップで、チャットコマースを中核事業とする国内初の企業です。チャットボットをマーケティングに活用するチャットコマース「ジールス」を、これまで400社以上の企業にご提供してきました。
チャットボットには、大きくカスタマーサポートとマーケティングの2種類の用途がありますが、ジールス の機能はマーケティングに特化しています。商品やサービスの案内から購買・予約までのアクションをチャットアプリの中で完結させるモデルです。

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(写真 遠藤竜太氏 Zeals COO)

博報堂とは昨年の12月頃からアライアンスを組ませていただいていて、さまざまなクライアントの課題を「接客体験」を通じて解決するための提案とサービス開発を共同で進めています。

漆山
ブランドと生活者の接点を博報堂DYグループは「生活者インターフェース」と呼んでいます。生活者インターフェースがオールデジタルになりつつある中で、接客の形はどのように変わってきているのでしょうか。
田口
生活者目線で見ると、SNSで商品のトレンドや価格を調べ、ECで購買し、必要がなくなったものはオンラインフリーマーケットで売る──。そんな行動が一般的になっています。購買行動のほとんどがデジタルで完結するというのは、5年くらい前までには見られなかった行動です。
一方、企業目線で見ると、デジタルの世界でブランドと生活者の結びつきをどうつくっていくかが大きな課題になっています。その中で注目されているのが、「接客体験」をチャットで提供するチャットコマースです。これまでリアル店舗では、きめ細やかな接客がごく普通に行われてきました。その接客のスタイルをオンラインで実現するサービスと言ってもいいと思います。

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(写真右:田口圭太 博報堂 DXプロデュース局
 写真左:漆山乃介 博報堂DYベンチャーズ パートナー)

「接客コミュニケーションをデザインする」という思想
漆山
広義のデジタルマーケティング領域には多様なツールが存在していますが、チャットコマースにはどのような特徴があるのでしょうか。
田口
一番の特徴は、ユーザー個々とのインタラクティブなコミュニケーションが可能である点です。通常の広告コミュニケーションとは異なり、チャットを介して生活者のニーズをヒアリングし、最適なリコメンドができるあたりかと思います。これまでもカスタマーサポート領域でのWEBチャット活用などはあったのですが、マーケティング領域においてユーザーごとに最適化した接客対応をすることはできませんでした。これは、プラットフォーマーの出現によりユーザーIDの取得が可能になったこととAI技術の進歩、それらを駆使するジールスのような企業の登場により実現されています。
遠藤
購買行動がデジタル化すると、膨大な情報の中から自分が必要とする情報を見つけて、欲しいものを手に入れるためのネットリテラシーが求められるようになります。その点チャットコマースは、その人がどういう人で、どういう要望があるかをコミュニケーションの中で明らかにし、それに対して最適な商品をリコメンドしていく仕組みです。すべての人に開かれたオンラインサービスと言っていいと思います。
田口
この体験はオフラインでの接客にかなり近いですよね。サイト来訪が「来店」だとした場合に、ポップアップによるチャット誘引が「店員からのお声がけ」、そこからのチャットのやりとりが「店員による接客」になっていて納得した状態で購買に至る。そんなオフラインさながらの購買体験を提供ができるのもチャットコマースならではだと思います。

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遠藤
ジールス に関して言うと、LINEやMessengerなどのチャットプラットフォームの上で動く仕組みである点も大きな特徴です。企業がチャットコマースアプリを新たにつくろうとすると、お金も時間もかかります。また、アプリの競合環境は年々激化しているので、つくったけれど使われないというケースも少なくありません。
しかし、LINEのようにすでに普及しているメガアプリを活用したサービスであれば、多くの生活者に日常的に使ってもらうことが可能です。生活者にとって最も身近なプラットフォームを活用した、最も身近なチャットコマースであると考えています。

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田口
LINEユーザーは8800万人に達していて、ほとんど社会インフラになっていると言っても過言ではありません。いわば、オフラインと同じ規模でコミュニケーションがとれる唯一のプラットフォームがLINEです。そこでチャットコマースを展開することの意味は非常に大きいと思います。
遠藤
もう一つ、ジールスならではの独自性といえば、「接客コミュニケーションをデザインする」というコンセプトを明確にしているところです。AIなどのテクノロジーの力だけに頼るのではなく、社内に50人以上いるコミュニケーションデザイナーが対話のシナリオを緻密に設計し、接客コミュニケーションにいわば命を吹き込む取り組みを行っています。僕たち自身は自社のサービスを「血の通ったチャットボット」と呼んでいます。
田口
これは非常に重要なポイントで、テクノロジーと人の力を組み合わせて、より人間的な接客体験をつくり上げているわけですよね。コミュニケーションのデザインは、チャットコマースを利用するクライアントによっても異なるし、どのような生活者をターゲットにするかによっても変わってきます。僕たちはクライアントのマーケティング課題に基づいた戦略設計を行いますが、そこに紐づくオンラインでの接客体験設計を行う際に、ジールスのコミュニケーションデザイナーがサポートしてくれることに、いつも心強さを感じています。

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DXの第一歩をライトに踏み出せるサービス
漆山
博報堂DYグループとジールスが協業することの意味はどのような点にあるのでしょうか。
田口
ジールスはトップクラスのチャットコマースベンダーですが、クライアントやブランドのマーケティング課題を俯瞰してみる立ち位置というわけではありません。一方、博報堂はクライアントやブランドのマーケティング課題を総合的に把握し、その解決法を提案する立場にありますが、特定のテクノロジーに特化した企業ではありません。マーケティングに強い博報堂と、チャットボットの技術やコミュニケーションデザインの力をもつジールス。その両者が力を合わせることによって、これまでにない接客体験のDXが実現する。そう考えています。

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漆山
チャットコマースの活用は「敷居の低いDX(デジタルトランスフォーメーション)」である──。そんな説明をクライアントにはしているそうですね。
田口
DXは非常に広い概念であり、その曖昧さから本腰を入れてDXに取り組むのはものすごく大変という印象をもっているクライアントは少なくありません。しかし、必ずしも大規模な取り組みである必要はなくて、デジタルテクノロジーを使って、クライアントと生活者の両方に価値がもたらされれば、それはすなわちDXである。そんなふうに僕は考えています。
ジールスは、LINEを活用したソリューションのため、LINE公式アカウントさえ立てればすぐに始められます。そのため、DXにありがちな大規模なシステム開発を必要とせずにオンラインでの接客DXにすばやく取り組むことができます。そういった意味で、僕はこの取り組みを「敷居が低いDX」というように解釈しています。

遠藤
DXの第一歩をライトに踏み出せるという点に、まさしくジールス を活用していただく意義があると思います。加えるならば、そのDXによって確実に成果を出すことにも僕たちはこだわっています。
ジールスのビジネスモデルは成果報酬型で、結果に対してフィーをいただく仕組みになっています。それによって、クライアントサイドにはサービス導入の意思決定がしやすいというメリットが生まれますし、僕たちとしては結果を出すために必死に努力をするので、より大きな価値をクライアントに提供できることになります。

漆山
カスタマーサポートではなく接客。定額型ではなく成果報酬型。そういったモデルはどうやって生まれたのですか。
遠藤
僕たちが当初のロボット開発からチャットボット展開に事業の方向性を変えたのは、2016年でした。当初から接客のデジタル化を目指していたので、接客コミュニケーションに注力することに決めました。問い合わせへの対応ではなく、ものを売るためのサービスということです。それによって、カスタマーサポートに力を入れているほかのチャットボットベンダーとの差別化を図ろうと考えました。
しかし、チャットボットによる接客コミュニケーションに「正解」はありません。そこで、コミュニケーションデザイナーを社内で育成し、「接客をデザインする」という方針を明確にしました。そのデザインが正しいものであるかどうかは、ものが売れるかどうかにかかっています。そこまで達成して初めて、プロダクトの価値をクライアントに届けられたことになる。そう僕たちは考えました。その考え方にふさわしいモデルは成功報酬型です。自分たちの力で勝負できる最もピュアなスタイル。そう言ってもいいかもしれません。

グローバル展開での協業の可能性も
漆山

お互いの強みを活かした協業について、今後の見通しをお聞かせください。
田口
博報堂DYグループは、これまでLINEを活用したコミュニケーション設計や販促施策支援などのノウハウを蓄積してきました。その幅広い経験とジールス を組み合わせることによって、これまでになかった生活者インターフェースの形がつくれるのではないかと思っています。

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遠藤
いろいろなシナジーの可能性がありますよね。僕たちとしては、博報堂の力をお借りしてユースケースの幅を広げ、生活者とのあらゆる接点でチャットコマースを使っていだたけるようにしたいと考えています。オンラインだけではなく、オフラインでもチャットボットを活用することで、接客のクオリティを向上させて、クライアントと顧客との結びつきを強める。そんな支援をしていきたいですね。


漆山
アジアを始めとするグローバル展開も視野に入っているとのことですが。
遠藤
ジールス は「日本発世界一」を実現したいと考えているので、海外展開は絶対にやりたいことの一つです。海外にももちろんチャットボットベンダーはたくさんいるのですが、そのほとんどはチャットボットビルダーという管理画面の提供をサービスの柱にしています。それに対して僕たちのビジネスは、コミュニケーションデザインを加えたチャットボットそのものを提供するモデルです。さらに、機能をカスタマーサポートではなく接客体験にフォーカスしているという点でも極めてユニークな立ち位置にあると考えています。アジアでもアメリカでもチャンスは間違いなくあると思います。
田口
LINEはアジアの多くの国に普及しているので、展開はスムーズにいくのではないでしょうか。もっとも、マーケティング課題はそれぞれの国の文化や国民性によっても異なります。その点で、各国に拠点を持つ博報堂DYグループの力が大いに役立つと思います。ぜひ、このコラボレーションを海外にも広げていきましょう。

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プロフィール

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遠藤 竜太
株式会社Zeals COO

大学時代は研究者を志し、人と機械のインタラクティブを学ぶ(受賞歴:HIシンポジウム優秀賞/特許申請など)。テクノロジーの社会応用に目覚め、マーケティングテクノロジーカンパニーに新卒入社。2017年7月より株式会社Zealsにジョイン。2020年2月、「ダイレクトアジェンダ2020」に登壇し優勝。同年10月、認定講師「LINE Frontliner」に認定。
コミュニケーションAIが浸透した日本をつくるため、日々「おもてなし革命」の実現に邁進している。

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田口 圭太
博報堂 DXプロデュース局

2009年に総合印刷会社に入社。営業としてメガバンクを担当し、共同SaaS事業の立ち上げに従事。2016年に博報堂に入社、大手飲料メーカー担当営業を経て、2018年に現部門の前身デジタルビジネス推進局に異動。LINEをメインとしたコミュニケーション設計やシステム開発のディレクション、デジタル販促専門チーム「SP EXPERT'S」での活動を通じてクライアントマーケティング課題の解決に取り組んでいる。

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漆山 乃介
博報堂DYベンチャーズ パートナー

博報堂DYグループにおいて、メディアビジネス開発やベンチャー投資を推進。また、当社グループの社内公募型ビジネス提案・育成制度である「AD+VENTURE」の審査員及びガイドとして複数の新規事業開発・立ち上げを支援。当社グループへの参画以前は、ベンチャーキャピタルにてパートナーとしてベンチャー投資業務に従事。それ以前には、大手人材サービス企業で複数の新規事業・サービス開発を経験。

※本記事は、“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信からの転載です

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