街を身につけるワークショップ (33/40)
今年も、遠州横須賀街道ちっちゃな文化展(静岡県掛川市)に出展することができた。
去年は、体感型インスタレーション「日常採集標本箱」を展示。
暗闇のなかに街の標本を展示し、ライトで照らしながら見つけていくというスタイルで、会場全体をおおきな標本箱に見立てた。そして、巨大な標本箱に入りこんでいく体験をするというコンセプトだった。
おなじ標本箱を鑑賞しても、人それぞれ見つけるものや気になるものはちがう。何気なく通り過ぎている日常のおもしろさの発見や、ちがいをたのしむことができたらと思っての企画だった。
そして今年は、展示はせずにワークショップを企画。
「何気なく通り過ぎている日常のおもしろさの発見」や「ちがいをたのしむ」というテーマはおなじだけど、おもいきってスタイルをかえてみた。
用意された展示を鑑賞するのではなく、じぶんの足で街を歩き、じぶんの目で街を見つめ、じぶんの心で街を感じて、街のいいな♪ を切り取り作品にするという内容を考えた。コンセプトは、「街を身につける」と決めた。
会場は、伝統的な遠州横須賀祭り足袋を製作・販売されている「わたや」さん。三熊野神社大祭の資料も展示されていて、それだけでも見ごたえのある空間をご提供いただいた。(会場主のご主人は、ちっちゃな文化展を主催されている遠州横須賀倶楽部の代表もされており、奥様にもほんとうにお世話になりました!)
「日常採集標本箱」から「日常採集標本バッジ」へ、手抜きだけど、去年の看板を書き換えて設置。ワークショップ参加者の半数くらいの方が、去年の展示を鑑賞されてたリピーターの方だったのがうれしかった。
そしてリピーターの方には、「去年は展示している標本をみつけてもらったけど、今年は自分で街の中からみつけてきてくださいね」と言うだけで、ワークショップの意図するところをわかっていただけることに感動した。
そんなワークショップの様子を、写真をまじえながらふりかえってみたい。
まずはじめは、ワークショップの全体像について。こんな説明をフライヤー裏面に掲載した。
ちなみに、折り込みフライヤーの中面には、去年展示した日常採集標本の一覧を掲載。
ワークショップに参加する人もそうでない人も、ちっちゃな文化展をちょっぴり違った視点でたのしんでいただく材料になればと思って掲載することにした。
前置きが長くなってしまったけど、街を身につけるワークショップ「日常採集標本バッジ」のふりかえりをはじめようと思う。はじめからおわりまで、順を追ってみていきたい。
❶日常採集
日常採集とは、「自分の身の回りの気に入ったものを撮影する」こと。
ワークショップ参加者がはじめにすることは、カメラ片手にちっちゃな文化展を歩いて、わたしのいいな♪ の採集です。
カメラは、「だれでもカメラ部」の活動もされている一般社団法人ヴァリアスコネクションズよりお借りしました。
さあ、「日常採集中」の名札をぶらさげて、出発です。
家族で、
ともだちと、
足元には、
見上げると、
日常どこにでもあるような、あたりまえの風景から、わたしのいいな♪が集まっていきます。
❷プラ板にプリント
なかには、たくさん日常採集してきて、どの写真にしようか悩む人も。
戻って来たら、どの写真を日常採集標本(バッジ)にしたいか、確認します。
*iPhoneで撮影された人からは、AirDropでデータをいただきました。
写真が決まれば、パソコンを使ってトリミング。
どんなバッジに仕上げたいのか、念入りにお尋ねさせていただきます。
プラ板を焼くと色も濃くなるので、仕上がりをイメージした調整が必要です。
出てくるのが、待ち遠しいよね。
❸プラ板を切り抜く
日常採集(自分の身の回りの気に入ったものを撮影する)は、このワークショップに限らず、多くの方がされていることだと思います。
だけど、採集した日常を標本にする「日常採集標本」にするところまでは、なかなか経験ないんじゃないでしょうか?
そう。ここからが、「日常採集標本バッジ」づくりの本番です!
プリントアウトされたプラ板は、インクがなかなか乾かないので要注意。
なので、はしっこを持って、
ていねいに、ときに大胆に、
カッターも使ったり、
標本にしたい対象を切り抜きます。
この切り抜きが、日常採集標本バッジの仕上がりをおおきく左右します。
おなじ被写体でも、どう切り抜くかはその人次第。
街をどう切り取るのかは、人の数だけあるんだなぁと感じる場面です。
❹プラ板を焼く
ついに、このワークショップのいちばんの見どころがやってきました。
切り抜いたプラ板は、トースターへ。
温度が高すぎると焦げてしまうので、調整がむずかしい‥‥。
見ている方は、ドキドキ。
あっ! まるまっちゃた!
でも、大丈夫。
仕上げは、図鑑ではさめばOK。
ちなみに、こちらの日常採集標本は、ちっちゃな文化展で購入した髪留めでした。
プラ板を焼くトースターの前は、いつも人だかり。
わぁぁ。
じいぃぃっ。
すごぉぉい。
焼く前と後のおおきさを比べてみると、
だいたい1/3くらいに。
ちゃんと焼けるかな?
ドキドキ、ハラハラ。
みなさんのまなざしが忘れられません。
❺日常採集標本バッジが完成
焼けたら、終わりじゃありません。
瞬間接着剤でピンをくっつけます。
あかあさんにつけてもらって、
なんだか、ほこらしげでしょ。
WE LOVE OSUKA と刻印されているマンホールのバッジ!
こんなに幼い子が、井戸のつるべの滑車を!
おねえさま方は、境内にあった金の擬宝珠(左)と手水舎の龍(右)を!
なつかしい郵便ポスト。
ポストはポストでも‥‥、あいてる口がポストの投函口を表現(笑)
思いおもいに、街を身につけて、ふたたびちっちゃな文化展へ戻って行かれます。
バッジたち、今頃どうしてるかなぁ?
❻日常採集標本箱へ
実は、バッジが完成したら終わりじゃないんです。
今回のワークショップは、もうひとつおなじ標本をコレクションさせていただくお約束をしています。
キャプションに、「採集者」と「採集日」を書いていただきます。
書けたら、標本箱のお好きな場所に。
どんどん、
どんどん、どんどんあつまって、
4つの日常採集標本箱(採集地:遠州横須賀街道ちっちゃな文化展)が完成しました。
ちっちゃな文化展で販売されていた食べ物や、展示されていた作品も、
踊っていたひょっとこからお辞儀をしている福助まで、
目の前にいたともだちや集合写真、虹の景色も、
足元にあるものから、建物の全景も‥‥
あつまった日常採集標本は、ぜんぶで103体!!
ひとつひとつの標本にドラマがあって、説明したいんだけど、それはまたいつか。
おもしろく、なかよく、ごきげんに。
ここまで、ワークショップのはじめからおわりまでをふりかえってきた。
そもそものテーマは、「何気なく通り過ぎている日常のおもしろさの発見」や「ちがいをたのしむ」だった。
日常を採集して標本にしたり、じぶんとは全然ちがう標本バッジを見ている参加者のみなさんの表情を見ていると、テーマを感じながらたのしまれていることが伝わってくるようだった。
ワークショップをしているときに、「どうして、こんなことやってるんですか?」「これは、仕事ですか? 趣味ですか?」といろんな人から質問をいただいたけど、うまく答えることができなかった。
日常採集標本箱の企画を思いついたきっかけについては、パンダ事変に書いたとおりだ。
その根っこには、なんとなく日常がつまらないと思っている部分があって、どうしたらもっと「おもしろく、なかよく、ごきげんに」暮らすことができるのか、ずっと考えつづけていたことに対するひとつの答えなんだと思う。
むかしなにかの本で、「おもしろい日常や、つまらない日常はない。あるのはおもしろかったりつまらないと感じる視点だけなんだ」みたいなことを読んだことがある。とても納得したことだけは覚えていて、おなじ日常を暮らすんだったら、おもしろい視点を身につけたいと思っていた。日常を採集して標本にすることは、日常を「おもしろく」する。そんな視点をいつも持っていたいという願いがある。
「なかよく」は、ワークショップに参加した人同士がなかよくなるのはもちろんなんだけど、街やモノともなかよくなれたらおもしろいのにと思っている。採集される標本たちは、ほんとうにさまざまある。標本になれば、横ならびに標本箱におさめられる。だけど、標本になる前は、実はいろんな価値(立派かどうか、歴史があるかどうか、綺麗か汚いか、値段が高いか安いか、作品かどうか、有名な人がつくったか無名な人がつくったか、ここにしかないのかどこにでもあるのか‥‥)がつけられている。そんな上も下も、良いも悪いも、貴賎もない標本を見ていると、人や街やモノとも分け隔てなく「なかよく」なれたような気がしてくる。そんなバッジは「なかよし」の称号なのかもしれない。
じぶんが「おもしろく」、じぶん以外と「なかよく」なれば、しぜんと「ごきげん」になる。そして、「ごきげん」は伝染する。どういう状態が「ごきげん」なのか説明するのはむずかしいけど、不機嫌な人が近くにいることを想像してほしい。そんな人の近くにはいたくないし、こちらまで不愉快なきもちになってきて、そこから離れたいと思うだろう。不機嫌の反対を想像すると、わかりやすいかもしれない。「ごきげん」は、なんだか愉快なきもちになってきて、その場にいたいと思えるような状態なんだと思う。どうせなら、まいにち「ごきげんに」過ごしたいし、「ごきげんな」時間や空間や人でありたいと思う。
「どうして、こんなことやってるんですか?」「仕事ですか? 趣味ですか?」という質問については、今ならこう答えられると思う。
まいにちを「おもしろく、なかよく、ごきげんに」暮らしたいなぁと思っているからやっていて、わたしのライフワークでもあります、と。
ご来場いただいたみなさん、遠州横須賀倶楽部のみなさん、「わたや」さん、わざわざ京都から来てくれたともだち、ありがとうございました。
ご縁があれば来年も再来年も、今回できた日常採集標本箱を持ち込んで、街を身につけるワークショップ「日常採集標本バッジ」をつづけていきたいと思う。