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本は疑似体験できるツール

先日読んだこの本。

精神科医 伊良部シリーズの著者で
「空中ブランコ」などで有名な奥田英朗さんが書いた
「ガール」という短編集。

そのタイトルからもわかるように
収められている短編は全て女性が主人公である。

色んな境遇に置かれた女性の心の動きを
描いた作品で、どの話もとても読後感がさっぱりする
気持ちのいい作品ばかり。

特に本のタイトルになっている「ガール」という作品は
30代前半という年齢で自分が「ガール」を続けていくことに
疑問を持つ主人公が描かれており、
何だか自分にとってわからない世界を覗いたような
面白い感覚を味わうことができる作品であった。

女性が主人公の作品はその心理の動きが
男性とは少し違うのが面白いポイントの一つだと
私は思っている。

この小説も自分にはない女性的な視点が沢山含まれており、
全体的にとても面白かった。

だが、ここでふと一つの疑問が浮かんだ。

この小説の作者は奥田英朗さんで男性なのに
なぜこんなにも女性の心理描写ができるのであろうか。

もしかすると奥田英朗さんはペンネームで
実は女性だったりするのだろうか。

などと思い、Googleで調べてみると
まぎれもなく男性であった。

では、これはどういうことなのだろうか。
小説を書くときに頭の中で女性の主人公を作り
その心理を想像しながら書いているのだろうか。

だとすれば、女性の読者からすれば
どこか違和感のある描写が生まれるのではないだろうか。

もちろん、このような小説は筆者が書いた原稿に対し
色んな意見を出す人がいるものなので、
修正を加えられているのかもしれないが、
それにしてもあくまで描くのは奥田さんである。

そう考えると、奥田さんの頭の中には
極めてリアルな女性が存在していることになる。

これはとてもすごいことではないだろうか。

あまり人に話したことはないのだが、
私は子供の頃に一時女性になりたいと
思っていた時期があった。

なぜそう思っていたのかは
今となってはハッキリとは覚えていないが、
当時好きだった女の子を見ていると
何だか女性がとてもキラキラしているように見えて、
自分もそうなりたいと思ったからである。

当時の私は自分でもこの感覚が少し変わっているなと
思っていたので、家族にも話したことはなかった。

今の時代でいう性的マイノリティの部類なのかと
自分でも心配をしたこともあったが、
まぎれもなく自分の恋愛対象は女性だったので
”自分の中にある奇妙な感覚”として
心の奥底にしまい込むことにした。

それ以降特に何かこの感覚が顔を出すことは
なかったので
私自身もこんなことを忘れていたが、
今回この小説を読んで男性の筆者が
ここまでリアルに女性の視点を描いているを見ると
女性を疑似体験できているようで面白いなと思った。

ある意味、小説を通じて私は子供の頃に
感じていた女性願望をかなえているのである。

本は筆者の人生を疑似体験できるツール。

誰の書いた本であったかは忘れたが、
このような言葉に出会ったことがある。

まさに本ならば子供の頃に憧れた
どんな存在も疑似体験ができてしまうのだ。

改めて小説は面白いなと感じさせられる
そんな一冊であった。

ぜひ女性の方にもこの小説を読んでもらい
違和感がないのか教えて欲しいと思う。



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