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香港情勢と日本企業の今後について

スポットコンサル大手のビザスク経由で、以前一度だけパーティーで会ったことがある米国人からコンタクトがあった。お互い共通の知り合いがいたことから記憶に残っていた。英国のマーケッティングリサーチ会社の依頼で香港について話を聞きたいという。

香港の社会不安や中国本土との関係、国家安全維持法の施行、香港の国際的なステータス、COVID-19の影響と再開の目途、経済に関する評判と今後の見通しなどについて日本企業の立場での見方に興味を持っているという。

私は以前アジア全体の人事を担当していたので香港は管轄内であったが、中国本土に比べてビジネスプレゼンスが小さく、中国の人事部長が直接やりとりしていたため、あまり事情に詳しくない。このため香港の駐在員に話を訊いてみることとした。

インタビューの結果をまとめると次の通りとなる。

・現在の香港経済不振の影響はあくまでもCOVID-19によるものであり、それが収まれば経済は回復すると考えても良いだろう。8月に入って第三波は収束しつつあり、今後PCR検査を徹底することで9月中に国内感染拡大を収束させ、年末までには渡航制限を解除し、2021年からは経済活動を完全に回復したいというのが政府の計画だ。
・国家安全維持法の施行については市民はまだどこまで厳しく適用するのか様子を見ている段階だ。一部の富裕層はこれまでも海外脱出を模索しており、その動きは加速するかもしれないが、一般市民は海外脱出が決してバラ色では無い、移民では無く難民扱いになることを知っているので香港に留まるだろう。
・米中の経済関係悪化の影響については中国共産党にとってもある意味で誤算だったと思う。米大統領選がどちらに転んでもこの流れは続くだろう。このため中国政府は「国内大循環」で中国ですべての部品を内作する動きへ傾きつつある。
・中国本土にとって香港はその金融機能以上に、様々な西側諸国情報を得られる大切な窓口。中国大陸内に香港と同じような機能を持たすことは民主化分子を大陸の中に根付かすこととなり簡単な話では無い。昨年から中国共産党が進めている「大湾区構想(グレイトベイエリア構想)」は中国共産党が正に香港の保有している機能を保持しつつ華南経済圏を拡大させようというものである。
・香港経済も今や半分は中国本土の資本家が回しているとも言われ、民主化運動が希望するような香港独立が進めば香港経済は成り立たない。香港人の拝金主義は世界でもTOPクラスとも言われ、極論すれば中国の様に言論の自由が奪われても、Richな生活ができればその方がベターであると考える香港人も多い。
・日本のメーカーはすそ野の広い中国華南のサプライチェーン拠点が続く限りは他へ移転するベネフィットは無い。多くの日本のメーカーは中国本土にも生産拠点があり、以前からももっと民主化レベルの低い場所でビジネスをしているわけで、香港の民主化レベルが相対的に悪化したところで、中国本土よりも悪化するわけでも無く、同じようにビジネスを続けていくだけだろう。

お話を訊いた駐在員の意見では、香港の将来が危ういので、金融センターをシンガポールや日本に移管して、香港人も大量に香港を脱出することを検討しているとするのは過大報道では無いか、とのことだった。

あくまでも立場上現状継続を望むビジネスサイドからの一意見ではあるが、マスコミや西側政府が望む民主化が経済と切り離されて進むわけでもなく、新型コロナの影響が少なくなればなるほど経済は回復し、市民の不満も薄まっていくというシナリオを日本企業は望んでいるのは確かなようだ。

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