ヴィトラキャンパス@ヴァイル・アム・ライン(ドイツ)
ヨーロッパの真ん中に位置する、現代建築の聖地
ザハ・ハディット、SANAA、フランク・ゲリー、安藤忠雄、ヘルツォーク&ド・ムーロン、ジャン・プルーヴェ、ニコラス・グリムショウ、ジャスパー・モリソン…
建築好きであれば必ず名前を知る著名な建築家たちが設計した建物が並ぶ、広大な敷地。いわば世界現代たてもの園のようなこの場所が、家具メーカー、ヴィトラの工場敷地というから驚きだ。しかも、所在地はフランス、ドイツ、スイスの国境がちょうど交わる点のドイツ領域。まさにヨーロッパの真ん中である。なんとも夢のある現代建築の聖地だ。
この壮大なプロジェクトの発端は、ヴィトラのショーケース兼荷物倉庫が火災で消失してしまったこと。工場を再建するにあたり迅速に築造できるよう、当時のヴィトラ社長は、まずニコラス・グリムショウに全体の設計を依頼した。しかしそのタイミングで彼はフランク・ゲーリーに出逢い魅了され、いくつかの建物の設計を依頼することとした。それから建物の役割や機能に合わせて設計を依頼する建築家を変えたため、現在のような現代建築の聖地が出来上がったのだという。
一日かけて歩き回り、心が満たされた敷地内の建築ツアー。独り占めするのは勿体無いので、全貌を描くには力不足で悔しくも、一部様子をお裾分けしたい。
ショールーム by ヘルツォーク・ド・ムーロン
スイスの家具メーカーが目玉となるショールームの設計を頼んだのは、やはりスイスのスター建築ユニット、ヘルツォーク・ド・ムーロン。
敷地の奥に存在するショールームが視界に入ると、その造形のインパクトに感嘆の声を漏らすのは間違いなし。
こんなに複雑な外観で、中はどう作られているのか?そんな期待は裏切られず、一歩建物に踏み入れば、自分の居場所がわからないまま大きな階段にいざわれるまま縦横無尽に、建物内に美しく配置された家具たちを鑑賞していくこととなる。
圧倒的な身体経験に、デザインミュージアムにでもいるかと錯覚しそうになるが、ここは家具のショールーム。実際に家具の購入も可能なので、椅子の布地の相談中の家族も見かけた。こんな場所で購入する椅子はさぞ座り心地がいいだろう。。。
シャウデポ by ヘルツォーク・ド・ムーロン
デザインミュージアム by フランク・ゲーリー
工場(ロジスティックセンター) by SANAA
運送用のトラクターが効率的に走れるよう計算された、楕円形のシンプルな建物。見学ツアーでは中に入ることができ、走り回るトラクターと従業員の方の姿を見て、ここは家具メーカーの敷地なのだという忘れかけていた事実を思い出す。
まだまだある建築物とモニュメント
ここで紹介できたのは敷地内の建築・モニュメントのうちのほんの一部に過ぎない。ニコラス・グリムショー設計のメイン工場、安藤忠雄が初めて海外で設計を担当した作品であるところのカンファレンスビルディング、訪問時には修復中だったザハ・ハディド設計の消防署、ジャスパー・モリソンのバス停…
篠原一男設計のから傘の家、田根剛設計のガーデンハウスなど、自然との共生というトレンドを背景に、日本人建築家の建物が多くみられるのも誇らしい。
おわりに
胸がいっぱいになり、日が暮れる頃にヴィトラキャンパスをあとにする際確信したのは、用途と意匠を両立させ、建築家個人のスタイルも明確に反映し得る現代建築というのは、ロマンと可能性に満ちた芸術作品であるということだった。
公式サイトにはそれぞれの建物について、詳しい説明が載っている(https://www.vitra.com/ja-jp/campus)。