ピンクと紫と黒のシーザーカラー / 03
下田は長い間、同じ音楽ばかり聴いていた。
寺山修司演劇の音楽者、J・A・シーザーの音楽だった。
彼のスマホには無圧縮形式のFLACファイルが
シーザーばかり何十ギガも入っていた。
彼はシーザーの音楽に狂っていたといえる。
彼は時折、ふとシーザー以外の音楽も聴くことがあった。
だがいつのまにかそれらの再生回数は減り
(子供遊戯七夜の祝)
シーザーのライブ音源に聴き入るのだった。
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彼はときどき、周りの人と音楽の話をすることがある。
話はほとんど合わず、話題を変えたり
黙って微笑み合うような沈黙をやり過ごしたりする
いつもと変わらぬ、やりにくい時間となることが多い。
いつも同じ音楽ばかりで
たまには新しい音楽が聴きたい、と
下田も切実に思うことがある。
シーザー以外を聴いてはいけない、なんて
きまりはないのだ。
SWANSのMicheal Gira氏の音楽は
暗く、重く痛切で、聴いていると気分が落ち着いた。
Godspeed you black emperorのefrim関連音楽も
深く重く、美しいと思った。
しかし、誰かに音楽を勧められて
それを気に入ったことが、下田にはほとんどなかった。
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All Music Guide という音楽サイトで
好みに合いそうな音楽をひたすら探したこともあった。
しかし、定額で好きなだけ音楽を聴ける
さぶすくりぷしょんのサービスで
CD音源と同質(もしくはそれ以上)
無圧縮のロスレスサウンドとなると
下田はほぼ、起床中はずっとスマホ(やPC)の
イヤホンジャックにケーブルを差し込んでいた。
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問題は「あなたへのおすすめ」である。