HBPワールドツアー2022 NY&Portland報告(岸本-1/NY・ストリート編)
パンデミック禍のNYはSTREETフル活用
昨年、4月〜5月に訪れたNY。
NYの街中を歩くと、道路上に人々が憩い・会話する様子が溢れていました。
NYは土地の1/4が道路空間を占めており、コロナ禍においてこの道路空間で、Open Restaurant(ストリートをレストランの座席にするの取組)やOpen Street(ストリートを人々の活動の場として活用していくなどの取組)等の取組をスタートさせ、道路空間というオープンスペースを活用することでパンデミックを乗り越えようとしていました。
NYでは、現地で道路空間活用の取組を見た他、DOT(交通局)のEmily Weidenhofさんにヒアリングを行いましたので、その内容を岸本がお伝えします。
コロナ前から盛んな道路空間活用の取組
NYでは、コロナ禍以前から道路空間の取組を複数実施しており、それらをパンデミック仕様にカスタマイズすることで、迅速に取組をスタートさせています。
コロナ禍で始まった取組は、行政主導ではなく、民間の使いたい人が手を挙げて道路空間を活用していく民間提案型取組になります。
この民間提案型の取組は2008年よりスタートした「プラザプラグラム」の考え方が原型となっています。
「プラザ・プログラム」は、ブルームバーグ市長時代に策定された「Plan,NYC(2007,2011)」で掲げられた「誰もが徒歩10分で公共空間にアクセスできる」という目標を実現する為に実施された取組です。
プラザプログラムでは、地域運営組織が「プラザをつくりたい!」と声を上げ、DOTに申請を行います。
DOTによる審査を経て、認められた地域は、市が広場化に必要な技術提供・整備費負担を行い、広場化を行い、地元運営組織が運営を行っていきます。
※審査基準:オープンスペースが不足した地域(30点)/低所得者居住地(10点)/申請者のこれまでのコミュニティでのイニシアチブ発揮(20点)/組織体制と期待される管理運営能力(20点)
整備した後に運営を考えるのではなく、運営者がいない場所では広場化できない仕組みになっていることで、つくって終わりではなく、生き生きと活用された広場になっています。
実際に、NYの街中を歩いていると、プラザ化された場所では可動式の机・椅子が配置され、人々が憩う様子をみることができました。
プラザプログラムは2008年から開始し、現在は73個の広場が誕生しています。
★プラザプログラムの詳細はこちらから
https://www.nyc.gov/html/dot/html/pedestrians/nyc-plaza-program.shtml
パンデミック禍の取組①Open Restaurant
Open Restaurantは道路空間を飲食店の座席として活用する取組です。
NYでは、パンデミック禍の当初は日本と同様に飲食店に補助金等の援助が行政からあったそうですが、長引くパンデミックの中で、補助金を出し続けるのではなく、営業の機会を提供するサポートに転換していきました。
密の空間を避けるために店内の座席スペースは制限されるので、不足する座席スペースを店舗前の道路空間を活用して確保する、という考え方です。
NYの街中では上記の写真のようにこの制度が活用され、多くのエリアで道路上に飲食の座席スペースができていました。
店舗やエリアごとに、座席スペースのデザインに個性があり、街を歩いているだけで楽しい気持ちになります。飲食店だけでは、このようなデザインができないこともあるので、パンデミック禍では建築系のボランティア団体が支援する取組などを行っていたようです。
また、WEB上ではオープンレストランの実施個所がMAPデータで公開されており、このMAPからも実施の多さが分かります。
なぜ、こんなに爆発的に広がったかというと、この取組に参加したいと思う飲食店事業者はWEBサイトから簡単に申請し、取組にエントリーすることができる、という申請の簡単さにあると思います。
日本でも同様な取組として「新型コロナウイルス感染症に対応するための沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用の特例」がありますが、日本の制度では個別の店舗では申請できず、地方公共団体又は関係団体(地元関係者の協議会、地方公共団体が支援する団体など)による一括占用でしか占用できません。
参考:新型コロナウイルス感染症に対応するための沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用の特例
リスクマネジメントの観点で考えると地域側にとりまとめる団体がある方が行政としても連携や指導をしやすいですが、既に団体があるエリアしか参加できないため、NYと日本では取組の活用数が異なってきています。
その一方で、訪れた時点でNYは既にパンデミックが収束傾向にあり、Open Restaurantの放置が課題になっていました。
この課題は誰でも簡単にエントリーできるからこそ責任感のない事業者によって生まれている課題だと言えます。
現在では「30日館使用されていない場合は、その財産は放棄されたとみなされ、飲食事業者はそれを撤去する必要がある。市は十分に通知をした上で、放置物件を撤去することができる」というルールが新たに追加されました。
日本とNYで取組の趣旨は同じですが、スピード感・参加のしやすさ・リスクマネジメントなど取組を実装する上で重視するポイントが異なることにより、制度設計やそこから生まれてくる課題も異なってくることを目で見て感じることができました。
現在、DOP主体でOpen Restaurantの取組が常設的な取組になるよう消防局、環境保護局、衛生局、DCPなど幅広い行政分野の人とデザインガイドラインをつくっています。(一部公開済)
常設時には、暫定時と比較してどのような制度設計になるか、とても興味があるので、引き続きチェックしていきたいと思います!
★オープンレストランの詳細はこちらから
https://www.nyc.gov/html/dot/html/pedestrians/openrestaurants.shtml
パンデミック禍の取組②Open Street
Open Streetは道路を人に開かれた公共空間に変えていく取組で、具体的には車道を歩行者天国にし、地域による活用を行っています。
OpenStreetは、①Limited Local Acces(制限付きローカルアクセス)としてOpen Street実施中は車両の通りン向け不可で送迎や駐車場への出入り等一部の車両のみ通行を許可(時速5マイル以下を推奨)される取組、②Full Closure(完全閉鎖)として自動車が完全に通らなくし、食事スペースやコミュニティによる活用を行う取組の大きく2種類あります。
(別途、Full Closure:schoolsとして学校と連携した取り組みもある。)
パンデミック以前からも「Weekend walks」として、歩行者天国のイベントを行っていましたが、年に三日間だけなど期間が短かい取組でしたが、パンデミック以降は、それがほぼ毎週など頻度や期間が長く実施されるようになりました。
また、パンデミック以前は商業エリアや駅周辺エリアでの活用がほとんどでしたが、パンデミック以降は、住宅街など今までに実施されていなかったエリアにもその取組が広がっています。
以前は、活用にの興味がないエリアに対しても行政が働きかけて、取組の推進を行っていたそうですが、地元に意識がないと自然消滅がしていくことが多いため、基本的には地元組織から申出があったところにマネジメントを任すことを見据えて、Open Streetの仕組みをつくっています。
その一方で、このような道路活用に興味がないエリアほど、貧困層が多い、道路が安全じゃない、地元団体がいない、ボランティアする時間がない等課題が多いエリアが多い状況にあります。
そこで、DOTでは、興味がないエリアでアクティビティが得意なグループにと一緒に活動しコミュニティを育ててもらう等といった運営のための教育的な取組をスタートさせています。
★Open Streetの詳細はこちらから
https://www.nyc.gov/html/dot/html/pedestrians/openstreets.shtml
おわりに
NYの視察の中で一番強く感じたことは「課題意識の明確さ」です。日本では、公共空間の活用の話題となると「賑わいづくり」の視点になることが多いですが、NYでは「地域の課題を公共空間から解決していく」「Open Spaceの投資で社会的格差を解消する」という視点で取組を行っており、日本との視座の違いを感じました。
その課題意識の明確さが具体的な取組の地域への波及の高さ・圧倒的なスピード感に繋がっています。
また、STREETの取組では、ハード先行ではなく、運営主体の発意・発掘を取組全体で一貫した柱としているところは、HBPがプロジェクトの中で大切にしている視点に通ずるものがありました。
この研修で得た気づき、日々の業務でも「なぜやるのか」の視点の明確化を忘れずに取り組んでいきたいです!
(岸本しおり)