インタビュー「清水五郎50年の軌跡——170作目を前に」

小説家清水五郎のデビュー50周年の節目と170作品目を目前にして実現したインタビュー。
本人とともにこれまでの軌跡を振り返りながら170作目に向けての今後に迫る。

——清水先生、本日はお時間いただきありがとうございます。デビュー50周年という節目を迎えられた今のお気持ち、そして次回作で170作目を迎えることについてお話をお伺いできればと思います。

清水五郎:ありがとうございます。半世紀もの歳月が流れたことに、自分自身が一番驚いています。少しキリが悪いですが170作目が目前に迫っていることも、どこか夢のように感じていますね。

——50年に渡り、数々の作品を世に送り出してこられましたが、デビュー作で清水先生の代名詞ともされる童話シリーズ第一作「白雪の戦場」についてお聞きいたします。作品をつくるきっかけは何だったんでしょうか?

清水:そもそも私は童話に登場するお姫様たちが、厳しい状況に直面しながらも、そこでもがき、直向きに頑張る姿が非常に魅力的だと感じていました。それがどこか戦士のように思えたんですね。それならそのまま戦う女性の物語を書こうと思い、白雪姫をモチーフに白雪という女性主人公が、過酷な状況に追い込まれながらも戦い抜く姿を描いたのがきっかけです。そこから自然と筆が進んだのを覚えています。

——その後、童話をモチーフにした作品がシリーズ化されることになったのはどのような経緯だったのでしょうか?

清水:実は、もともとはシリーズにするつもりは全くなかったんです。デビュー作を書き終えた後に、当時の担当さんから「他の童話を題材にした作品も読んでみたい」と言われたんです。なにせ新人ですから読みたいと言われたことが嬉しくて仕方なかったんです。シリーズ化されたのは、まさにその担当さんの一言がきっかけでした。

——なるほど。そうして生まれたシリーズは、多くの読者に愛され今なお続いていますね。今とデビュー当時を比較して違う部分はありますか?

清水:色々ありますが大きく変わった部分は真っ直ぐさでしょうか。今はキャリアも重ねて語彙や表現の幅は増えた分、昔のような愚直とも言える真っ直ぐさが殆ど無いですね。青二才と老獪は共存できないようです(笑)。

——あはは。では、デビュー以前のそもそも小説家を目指されたきっかけは何でしょうか。

清水:きっかけは大学生の頃ですかね。当時、学校にもいかずに無駄に日々を消化するだけの毎日で、貯金もほとんどなく、友人がたまに差し入れてくれる緑の小瓶に入った安酒だけが楽しみで、毒にも薬にもならないどうしようもない生活をしていたんですけど。ある日、友人が酒と一緒にボロい小説を差し入れてくれたんです。時間だけはあるもんですから読み始めたんですけど、その本にとても感動したんですね。舌鼓を打つごちそうの美食譚や拳一つで道を切り拓く冒険譚、本を開くだけでそれら全てを追体験できる。なら自分のやりたいことをそこで叶えようと思いまして、つらつらと並べた妄想や願望を小説と言い張って過ごしていました(笑)。

——そんな時代があったんですね。

清水:完全な黒歴史ですがあのとき読んだ小説とそれを渡してくれた友人には感謝しかないですね。

——清水先生は作品のジャンルが多岐にわたるところも魅力の一つですが。それも”妄想”が根源にあるからなのでしょうか。

清水:間違いないですね。妄想と願望と欲と憧れで錬金されたのが私の小説ですから。あとは単純に飽き性なのでずっと同じジャンルを書くことができないんだと思います。

——つまりあと一つで170個の願い事を叶えたことになるわけですね。

清水:あはは。その通りですね。これからもどんどん叶えていきます。

——それは今後も楽しみですね。ご自身の作品で特に印象に残っているものは何でしょうか。

清水:中身で印象に残っているのは「七つの親子」ですかね。親子をテーマにした7編の短編集1つにまとめたものでそれぞれが独立したお話なのですが、どこかで少し重なっていくんです。そこが気に入っております。少し趣旨とはそれてしまいますが「微かに甘くて」「サテンとシルク」「スイートポテト」の3つは同時期に同ジャンルの作品を書かなくてはいけなかったので、ある意味印象に残っていますね。締切もほぼ同時だったので、もう駄目だ。あきらめようと何度も思いました。

——確かにその時期の刊行スピードは目を見張るものがありましたね。

清水:徹夜続きで四六時中目が充血してました。これだけ頑張ったんだからとご褒美にオーストラリアに旅行に行ったんですが、結局そこでもアイデアが湧いて小説を書いてましたね。

——そのとき生まれたのが「望まぬ桃源郷」ですよね。

清水:はい。主人公の少女が楽園を探す旅をするお話なのですが、私自身が旅をしたときの体験がベースになっているので私小説的な要素もありますね。

——次回作、170作目についてもお伺いしたいのですが、既に構想はあるのでしょうか。

清水:170作目は現在執筆最終段階ですのでしばしお待ちいただければと思います。せっかく半世紀も小説家として生きたわけですから、そんな私にしか書けないものになっております。

——どんな作品になるのか今から楽しみです。先ほど今後について軽く触れましたが今後の展望などはございますでしょうか。

清水:細かな野望はいくつかありますが、大きめのもので言うと大往生を迎える前に200作でしょうか。逆に言うと200作を迎えなければ大往生とは言えないですね。それと付随したもので、かつて日々を惰性で生ていた独活の大木がなんと枯れずにやっておりますが、ゆくゆくは枯れていくでしょう。そのとき、この木の葉が養分となり新たな芽が生まれてくれればと思いますね。

——清水先生らしい表現ですね。先生に憧れている方は少なくないと思いますよ。業界に与えた影響は凄まじいと思います。

清水:そう言っていただけるのは光栄ですね。

——最後に読者の皆様にメッセージを頂けますでしょうか。

清水:ここで話したように私のやっていることは今も昔変わりません。もちろん少し余裕を持って執筆に向き合えるようになったと思いますが。作品に対する情熱や真剣さは何も変わりません。自分が面白いと納得し皆様に面白いと納得していただける作品をこれからも書き続けます。そしてこのインタビューに登場していただいた26人の友人にも感謝いたします。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。

——皆様本日はありがとうございました。


※このインタビューはフィクションです。登場人物、作品の全ては存在いたしませんが、実在の人物とは少し関係しています。

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