Vtuberはなぜ「こん○○」という挨拶を使いたがるのか?

序文

 普段は深層組所属の数打あたるさんの切り抜きをしているはずれ棒という者です。
 2023/08/11に「こん○○って何?ぶっちゃけダサくね?誰が始めたの?調べてみました!」という動画を投稿した際に調べたことを、VTuberの文化史としてまとめておこうと思います。
 概要をながら見したい方はこちらからどうぞ。ここでは動画では軽く流したところまで書いておこうと思います。


VTuberはなぜ「こん○○」という挨拶を使いたがるのか?

問題整理

 2021年頃には、VTuberのリスナーが挨拶の定型として「こん+名前の一部、もしくはモチーフを表す言葉」を使うことが一般化しています。
参考↓

 また多くのVTuberが初配信時に「こん○○」という挨拶を決め、入りの挨拶として使用するという文化も見られます。

 ここではこれがVTuber、およびそのリスナーの間でどのように定着したのか考察していこうと思います。VTuber以前ではニコ生、声優ラジオ等で使われていたようですが、それらについては今回は扱いません。

初出

 VTuberで一番最初に「こん○○」という挨拶を使ったのは藤崎由愛さんでした。

  2017年12月6日に朝の挨拶として「おはユ~ア!」を初めてツイートし、動画では2018年1月9日に「おはゆあー」と入りの挨拶として使用されています。※

 次にツイートしたのがのらきゃっとさん(2018年1月3日)、ときのそらさん(2018年1月10日)。

 この二人と藤崎由愛さんはそれぞれ交流があるので、オマージュだとわかります。

※それぞれこの時点では「おは○○」の形でしか使用していないが、のらきゃっとさんのリスナーから「こんきゃーっと」が自然に発生しており、「おは○○」「こん○○」は互換可能な概念だと読み取れます。

 しかしそれぞれツイートでは使用しているものの動画内のみ、リスナーのコメントのみと用法が限定的であり、現在の文化の直接的な起源とは言えなさそうです。

受容

 しかしVTuberというジャンルそのものがコンテンツだった黎明において、「VTuberリスナーのコメントと言えばこん○○」という文化だけは配信者の枠を超えて広まったようです。

 分かりやすいのが、月ノ美兎さんの2月9日の配信の終わり際に「おつYUA」というコメントが書き込まれていることです。

 藤崎由愛さんの動画でそれ以前に「おつゆあ」が使われたことは無く、まだ無い語がほぼ無関係の月ノ美兎さんの配信で生まれたことになります。これは当時のVTuberというジャンルそのものの「箱感」を示すいい事例だと考えます。

 こうしたVTuberの間でゆるくリスナーを共有する土壌が「こん○○」を定着させた例として、もちひよこさん、えるさん、ロボ子さんが挙げられます。

 まずもちひよこさん。1月21日の動画で入りの挨拶として使われ、1月22日の初生配信ではコメント欄にも定着しており現在と同じ使われ方です。
 初出は1月20日のツイートで、視聴者の要望によるものだとしています。

 次にえるさん。初出は2月6日のおやすみツイートに「おやすみえる」とリプライしたファンの方です。
 そのリプライに翌朝「おはようえる」とリプライして以降えるさんのツイートにも使われるようになり、2月9日の初配信でもおつえるえるが使われました。

 最後にロボ子さん。初出は初配信終了後の感想リプライです。

 アーカイブに残っていないので、本人が挨拶として使用した(からファンがリプライした)可能性はありますが、Youtube上の最古のアーカイブでは「こんロボ」「おつロボ」と口にしていないので可能性は低いかなと思います。

 このように、この時代のこん○○系挨拶は配信者が積極的に導入したというより、視聴者を介してミーム的に広まったと思われます。
 その証拠に、こん○○系あいさつを読み上げない配信者のコメント欄にもじわじわと定着しています。

 データに偏りがあって申し訳ありませんがいくつか例示します。
 兎鞠まりさん。初出は2018年7月31日、2018年8月24日に定着。
 魔王マグロナさん。初出は2018年8月4日、2018年12月28日に定着。
 神楽めあさん。初出は2018年7月6日、2019年1月31日に定着。
 それぞれの時期のずれ、初出からのタイムラグから、なにか決定的なきっかけがあったわけではないことが推測できます。

ホロライブでのこん○○の扱い

 しかしVtuberファン全体にじっくりとこん○○系挨拶が広がる一方、ホロライブ1期生の夜空メルさんは2018年5月17日の2度目の配信ですでに「こんめる」がコメントに定着。Twitterでの先行、読み上げもないです。
 ときのそらさん、ロボ子さんという先輩二人の配信でこん○○が見られるためか、ホロライブリスナーの間ではすでにこん○○が定着していたと思われます。

 それを受けてか6月1日デビューの1期生は早期にこん○○系挨拶を提唱。

 配信者が入りの挨拶としてこん○○を導入するという文化がホロライブで定着したと言えそうです。

まとめ

 まとめるとVtuberのこん○○系挨拶には、
 1、「ファンに定着、配信者も使うようになる。」
 2、「ファンに定着、配信者は使わない。」
 3、「配信者が使い、ファンも倣う。」
 の3つのパターンがあり、現在は3が主流だが、遡るとホロライブの独自文化だった。とわかりました。

推測

なぜ広まったのか?

 ホロライブの独自文化であったはずの「配信者が使い、リスナーが倣う」という文化がなぜ広まったかについては、兎田ぺこらさんのブレイクがきっかけだと推測します。

 Vtuber内では今でも珍しい強烈な語尾キャラは、ファンが真似ることで「自分が誰のファンなのか」を明らかにすることができました。
 2020年4月15日に投稿された潤羽るしあさんの切り抜きでは「~ぺこ」コメントでリスナーからプロレスをかけるなど、生配信というコンテンツでの応用性の高さがわかります。

 また2020年の台湾での流行語に「ぺこ」が選ばれるなど、国境を越えて伝播するミーム性があったことがわかります。

 このようにして「~ぺこ」がより多くの人の目に触れたことで、合わせてホロライブの「こん○○系挨拶文化」が注目を浴びたと推測します。

 そして「こん○○」挨拶は経緯はともあれ多くのVTuber、そのリスナーの間で定着していました。その結果、「Vtuberはみんなやってんだ!」という認識が広まったのではないでしょうか?
 特にこの時期にVTuberについて下調べしデビューしようとした人はそのような思い込みをしてしまいやすいのかなと思います。
 こういった経緯で、「Vtuberが率先してこん○○系挨拶を決める」文化が定着したのだと思います。

アイドル部の影響について

 VTuber文化について大手事務所の影響を考える場合、特に2018年はホロライブよりもアイドル部の勢いが強かったことは無視できません。
 しかし「こん○○」の拡散についてアイドル部の影響はより限定的だと考えています。

 「こん○○」という挨拶を使っているのはメンバー12人のうち4人で、VTuberの普遍的な挨拶という形での影響力は低いと考えます。また北上双葉さんは視聴者の「こんばんふたふた」というコメントに対して「私も何か挨拶欲しい」と発言しており、「こん○○」というテンプレートは成立していないことを補強しています。

 また2019年3月時点での上位VTuberのTwitterフォロワーの相似度を図に示したポストがありました。

 この図を見るとホロライブから線が繋がっている「こん○○」が定着しているVTuberとして織田信姫さん、犬山たまきさん、神楽めあさんがこの時点で追えるのに対し、アイドル部周辺はそのような傾向がみられません。

 以上を踏まえるとアイドル部が昨今の「こん○○」文化に与えた影響はそれほど大きくはないと思います。

「こん○○」の実利

 現在の「枠立て→待機画面→開始の挨拶→本編」という様式が確立する以前のVTuberの配信を見てみると、「聞こえますか?配信できてますか?」から始まっていることが多いです。

 しかしこれは実際に配信に問題が起きていた時、原因の切り分けができないという問題があります。例えば配信が始まっていないのか、コメントしている人がいないのかわかりません。剣持刀也さんの初配信時、配信開始できていないことに気付かず虚空に語り掛けていた事はよく知られていると思いますが、これが初期の「聞こえますか?」で始まる配信の問題を端的に表しています。

 対して冒頭で示した「枠立て→待機画面→開始の挨拶→本編」という様式は、
 配信予約枠での待機コメでコメントする人が居るか確認
 待機画面の「きちゃ」等のコメントで映像の送信を確認&BGMでOBSからの音声出力を確認
 待機画面明けのお決まりの挨拶でマイクミュート等のミスが無いことを確認
 と言った形でスムーズにトラブルシューティングをすることが可能です。

 こういった利点から、意識的にせよ無意識的にせよある種のソリューションのパッケージの一つとして「こん○○」が普及した、ということもあるかもしれません。

総括

1.言葉の起源は藤崎由愛さん。
2.基本的にVTuberオタクが媒介する文化だった。
3.配信者が積極的に導入する文化の起源はホロライブ。

 推測を元にした考察ではありますが、わかりやすく納得しやすい説明がつけられたかなと思います。

 VTuberオタクの文化はそれぞれが肌感覚で共有していたものが多く、言語化されなければいずれ消えてしまうのではないかと感じています。また時間がたてば経つほどアーカイブやツイッターアカウントの消去によって後から調査することが困難になっていきます。そういった危惧もあり、今回拙いながら文章の形で公開することにしました。
 この記事を読んで面白いと感じてくださったどなたかがまた別のテーマをまとめ、ネットの海にアーカイブしてくださることを願っています。

 訂正や補足等あれば是非コメントお願いします。

追記

 なんJとの関連性の指摘をいただきました!
 情報の真偽については検証できないのですが、「誰が文化を媒介したのか?」という疑問に対して非常に腹落ちする情報だったので引用させていただきました。
 VTuberの配信コメント欄は、なんJで情報交換している方、Twitterでの交流を追っている方、ニコニコで欲張りセットを見た方等が一堂に会すことになりますから、それぞれ全く違う文化が交流する闇鍋的な側面があったのかもしれません。


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