ゲーム「G線上の魔王」感想
※この感想は18禁ゲームの感想です。ご注意ください。
面白いと噂を聞いていた本作。プレイしてみたらめちゃくちゃ面白かったよ!の感想です。ただし本作はネタバレしてしまうと魅力が半減してしまうので、これからプレイする予定の方はこのまま画面を閉じることをオススメします。
ジャンル:アドベンチャーゲーム
プレイ時間:約23.5時間
媒体:PC
■ あらすじ
公式から引用したかったのですが、公式サイトには記載が無かったため私が勝手にまとめてしまいます。
■ 人には表と裏がある
前述しましたが主人公の裏の顔としてヤクザの仕事を手伝っています。ヤクザの組長が養父なため、主人公が悪側です。しかもヤクザの仕事でヒロインをひどい目に遭わせることもあるんですよ。「悪っぽい」のではなく、本当に悪なんです。主人公はこんなことになってしまったのも納得できるし、同情できるような生い立ちにはなっています。しかし今やってるヤクザの仕事の言い訳にはならない。この点は主人公も自覚済みなんです。悪いことをしている傍ら、仕事の息抜きとして学園に通っている。これが表の顔なわけです。表の顔を取り繕っているわけですね。
悪人と言われている人にも理由がある。表の顔だってある。でも悪事は何かで相殺されるわけではない。無かったことにならない。だからこそ復讐の連鎖が止まらない。本作には恐らくこの考えが根底にあって、それが面白いな~と思いました。
■ クラシックモチーフ
本作はタイトル「G線上の魔王」でわかるようにクラシック音楽をモチーフにしています。タイトルの由来は「G線上のアリア」と「魔王」の合体させていますね。
他にもキャラ名や呼称にクラシックを散りばめています。たとえばタイトルにもある「魔王」はシューベルトの魔王です。あとはヒロインで椿姫モチーフの「椿姫(つばき)」、パッヘルベルのカノンモチーフの「花音(かのん)」、白鳥の湖モチーフの「白鳥(しらとり)」。メインヒロインの「ハル」はヴィバルディの四季「春」……かな?
もちろん、キャラだけに限らず、サウンドもクラシックモチーフです。
■ サウンドが良い
本作のBGMはほぼクラシック曲をアレンジしたものなんです!
私はそこまで詳しい方ではありませんが、新たな曲を聞くたびに「聞いたことのあるこの旋律が、こんな面白くアレンジされている!」と感動してました。「魔王」を名乗る人物が登場したシーンで「魔王」アレンジのBGMが流れる演出が本当に大好きです。最高~~!
■ ゲームシステム
特に変わり映えのしない普通のADVシステムです。ただしその中でちょっと変わっているのがチャプターシステム。
チャプター
共通章である一章がありますが、二章からはその章の事件被害者とルート分岐が一緒です。そのため、事件の全貌や真相をより深く知るためにはルート分岐をへし折りながら進めていく必要があるわけです。
ヒロインルートへの分岐の仕方はとてもわかりやすく、分岐前には2度も確認の選択肢が入ります。親切~!
なので個人的な攻略オススメは、フラグを立てるだけ立てて進め、分岐していって個別エンドを見た後に先の章を進める方法です。
エクストラメニュー
よくあるCG集やエロシーンのイベント集があります。しかし一番重要なのはBGM!BGMをデフォルトでループ再生できます。う~ん、親切!
~~~~ネタバレするよ~~~~
■ シナリオと各エンディングについて
前述した通り、メインルートの章ごとに事件があり、その事件のヒロインを対象としたルートに分岐するシステムです。そのため、章とエンディングを交えつつ記載していきます。かなり雑にまとめていますし大事なことを書いていたりいなかったりします。
第一章
出会い編。あらすじに書いてあることが第一章の大まかな流れなのですが、もうちょっと深掘りしていきます。
京介は第一章の段階で「忘れっぽく」「よく頭痛を起こし」ているので短期健忘を疑っていました。そして演出上で出てくる”魔王”。ハハ~~ン、さては主人公がラスボスのパターンだな!?多重人格だな!?
第二章:椿姫(つばき)
クラスメイトの椿姫。親切で、家族思いで、純粋で人を疑わず、「騙すより騙される方が良い」と話すような子。京介のことが昔から好き。
・椿姫のモチーフ
純粋な椿姫が事件をきっかけに”魔王”に唆されて人を疑うようになり、俗物になり、大好きだった弟を突き飛ばすまでに至った描写は凄まじい。オペラ・椿姫の原題である「堕落する女(直訳は「道を踏み外した女」とのこと)」を再現してるのかと思うと感動しました。こんなに俗物になっちゃうんだ……!
そしてそこからの描写が良い。俗物に落ちぶれた女が目を覚ますのは弟の信頼する眼差しだったのがとっても良かった!家族愛でここから持ち直せることあるんだ~!
そして章の最後に椿姫を関わるか関わらないかを選んでルート分岐に入ります。
・椿姫グッドエンド
メインルートで京介が借りさせていた金を、このルートに入ったことで椿姫の父親がなんとか工面してしまい、返済してしまったことで土地開発が滞ったため暴力的な手段を取ることになったけれど、京介がギリギリになって踏みとどまって養父を脅し、なんとか椿姫の家を守るエンド。
椿姫は温かい家庭を擬人化したような子で、京介の「家族への憧れ」と「京介のすべてを受け入れる姿勢」が恋に発展したと思われます。
京介母も呼び寄せて過ごすため、京介が昔思い描いていた家族団欒の生活が味わえるだろうし、幼心を慰められる人生になりそうだなと感じました。京介と椿姫にとってはかなり幸せなエンドだと思う。
・椿姫バッドエンド
椿姫のことを堕落させ、京介の仕事を手伝わせ、悪の道に引きずり込むエンド。
養父・権三いわく、真に善人なら悪の素質があるって話だし、もっともっと墜ちていきそう。ああ、本当に「堕落した女」だ……。
第三章:浅井花音(あざいかのん)
京介の義理の妹。アイススケートのトップレベル選手。甘えただがアスリートとしての姿勢がすごい。京介のことが好き。正直、「恋愛対象として好き」と言うよりかは「花音個人を見てくれるから好き」という印象も受ける。
花音ルートに入るためには花音の「大事な話」を聞くか聞かないかで変わります。そしてそれを聞くと「ペアになってほしい」と言われ、花音がいかに脆い女の子であるかを目の当たりにします。その姿に京介は過去の自分を重ね、同情を抱きながら花音に向き合い、そして花音が京介に頼るようになる。その結果、花音は弱みをさらけ出してしまい、精神の不安定さが出て、演技が失敗してしまうルートです。
この失敗は花音のルートに入らないと出てこないのも面白いです。花音が京介に心を許して甘え、京介が妹にちゃんと向き合った結果、瓦解するのが良い。拠り所を作ったせいで、アスリートとしての汚点を作らせることになってますからね。
メインルートだと一人で復活して一人でスケートのみを見るようになるんだもんなぁ。
・花音バッドエンド
花音のわがままを聞きまくってたら選手として自立できなくなってスケート選手を辞めたエンド。ぶっちゃけこれはこれでありだなと思う。堕落した人間らしい描写でした。
面白いのが、ルート分岐前は甘やかさないとフラグが立たず、ルート分岐後は甘やかしたら終わりな点です。しつけか?
・花音グッドエンド
花音の話の要は京介ではありません。母と娘です。このルートの主人公は花音でした。母は娘自身に関心がなく、自己顕示欲が強く、娘と己を同一視しています。花音はそんな母を嫌い、逆らっていましたが、色んな葛藤をし、とうとう「自分だけしかいない母の唯一になり、母を赦す」ことで自身の中の区切りとし、大会で素晴らしい演技をします。
このテーマは、今だとカジュアルに「毒親」と表現をされていますが、花音はこれを単に受け入れたわけではないんです。母への諦めと、同情と、そう思ってしまう自分への赦しだと思うんです。感情の処理をした末に離れるという決断もできたでしょう。でも花音は一緒にいることを選んだ。「母の中の一番」になることを選んだ。これが「良いことっぽい」から素晴らしいのではありません。花音が何を選んでも後悔しそうな中で、自ら選んだことが重要なんです。それが本当にすごくて、とても感動しました。強い女の子だ……。
・花音モチーフ
名前の由来はバッヘルベルのカノンでしょうが、話のモチーフは作中で用いられている「我が母の教えたまいし歌」だと思います。この曲がメインになるような展開でした。良いモチーフだな~。
第四章:白鳥水羽(しらとりみずは)
京介が通う学園の理事長の娘。友達がおらず、常に一人でいる女の子。京介に対して「裏表がある人だから嫌いだ」と言っている。しかし京介のことが好き。
水羽を救おうとして警察に連絡するか否かで分かれるルート。警察に連絡しない場合はメインルートに入り、ユキが”魔王”に唆されて父親に復讐を企てていたことがわかります。
・水羽バッドエンド
警察に連絡したところ事態が早急に解決。一段落ついた後に水羽が姉の協力のもとアプローチをかけてきて、全く好きではないけどとりあえず受け入れて性欲のはけ口にしたら死に(もしくは壊れ)、その姉が復讐しに来たが返り討ちにするエンド。女を使い捨てるヤクザの話って感じだ……。
・水羽グッドエンド
性欲のはけ口にせず、長く付き合っていたら情が移ったエンド。
水羽は最後まで京介に必要な人物じゃなかったな~!京介の話じゃなくて水羽の成長の話だった。でもそれ、京介じゃなくて別の人でも良かったよな……。京介へのメリット(権力的にも精神的にも)が一切ないので、本当に一貫して京介が使いつぶされている印象でした。椿姫は京介に家族の憧憬と慈愛を与え、花音は過去の自分を重ねて向き合うことで過去の自分を慰撫し、能力的に尊敬するところもあった。水羽は……何もない……。長年一緒にいてようやく情が移ったくらい……。お互いがお互いにメリットを渡せないとこんな感じになるんだ……。
・水羽モチーフ
感想を書いてる今気づきましたが、キャラデザから察するに水羽が白鳥の湖の白鳥で姉のユキが黒鳥ですね。黒鳥を遣わせた悪魔ロットバルトが”魔王”なのかな。
第五章:宇佐美ハル
京介と幼い時に会っていて「大人になったら結婚してあげる」と約束していた元ヴァイオリニストの女の子。母親を”魔王”に殺され、以来”魔王”を追っていた。
第五章の緩急が本当にすごいです。実父・鮫島の独白、”魔王”の正体、恭平の独白。様々な怒涛の展開。いやーすごかった!
・ハルエンド
”魔王”である恭平への復讐に囚われていたハルが恭平の誘いに乗って撃ち殺そうとしていたところ、ハルの将来を考えて京介が先んじて罪を犯し、京介が実刑を受け、釈放された際にとある母娘が迎えに来るエンド。
京介があれだけ避けたかった犯罪者の子供を生み出してしまって、否定したいのに否定しきれなくて最終的に(恐らく)受け入れるのが、やっぱ人って感情の生き物なんだよな……と思わせられました。
・ハルモチーフ
ハルのモチーフは”魔王”の反対の勇者ってことだとは思うのですが、クラシックモチーフは恐らくヴィバルディの四季「春」で、本作は冬の出来事から始まり、釈放時は恐らく春なので、四季の巡りを表してるんじゃないかな~と勝手に思っています。全然違うかもしれないけど。
■ いろいろ
ミスリードがすごい
本作はミスリードが本当にうまいです。演出もうまい。完全に誘導されていた話を信じ込んでいました。話の緩急もめちゃくちゃうまいので、まさかの展開なのにすべてが一瞬で繋がったのが気持ちよく、とっても面白いんですよ!
ヒロインは最初から主人公のことが好き
全員最初から主人公のことが好きです。選択肢で選ぶのは「主人公の心情が優しくなるかどうか」くらい。主人公の心情への介入がすごいので、だからこそプレイヤー=多重人格者の観測者だと勘違いしてしまいました。これもミスリードの一環なんだろうな。くううう、ライターの掌の上だ!
作中の指摘がすごい
作中では"魔王"がハルを揶揄する「全体の違和感に気付いていても目の前の餌に飛びつく」ってセリフがあります。この文章を読んでいる時はなんとも思わなかったんですが、色々ネタ晴らしをされた今、プレイヤーに向けていることもわかります。だってライターのミスリードに見事ハマっているんだから!はい、目の前の餌に食いつきました……。でも文章がうまいからのめり込んでその餌に食いつくのは仕方ない。その餌、うまかったし!面白かったし!
魔王の赦し
”魔王”が「ハルか京介を殺人犯に仕立て上げようとしていた」ってことは、どっちかは赦すつもりだったんですよね。どっちも許せないけど、赦しの選択肢は与えていた。「京介に選ばせることが罰であり赦し」だったのかなと思いました。
でもハルが”魔王”を倒したら「勇者が魔王に成る」らしいので、それはそれで見てみたかったな~!
ルートに入ると魔王がいなくなるのが不満
ルートに入ると浅井京介という隠れ蓑が無くなるので、その後に”魔王”として動いたのかが不明です。いや動いてなさそうなんだよなぁ……。ルート分岐後の未来で父について一切語られてないし。ミスリードを信じていた時は何の不満も抱かなかったのですが、真実を知った今は不満。あれだけ父の解放を目指していたのに、なぜ?
京介のことを想って身を引いたわけでもないだろうし、もしどうでも良さそうなことで失敗していたら嫌だなぁ。
声優の印象が強い
CV福山潤の声で「堕落した日本人に訴えかける」とか政治云々の話をされると、ゼ、ゼロだ……ってなっちゃうんですよ。しかも結構演技が似てるんですよ!本作をプレイした人全員そう思うでしょ!
■ まとめ(ネタバレなし)
プレイ時間は約23.5時間。人の表と裏の描写の仕方も楽しかったし、伏線の撒き方も面白かったし、なにより作中で語られていた「人は違和感があっても目の前の餌に飛びつく」というのをプレイヤーにも体験させてくれたのがとっても面白かったです!オススメ!
備忘録用メモ。SNSでの実況スレッドです。
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