無職のパパが異世界転移してお家に帰るまで【第9話】
NFTart『Daddy-like kind』シリーズ
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前のお話
第8話『ホブリンの村』
ホブリンの道端で酔っぱとダンス?
何だっけなぁ。
この村の感じ。
家が並んでいるというより、板張りで簡単な作りの露店とか、カフェっぽいのが並んでる。
多くのホブリンが、野菜っぽいのをかじったり、酒っぽい飲み物を飲んだりと、賑やかに食事をしているようだ。
あぁ、あれだ。
パッと見、ずっと昔に見た西部劇の町って感じか。
門をくぐると村の通りがしっかり見えるようになって、夜の村を犬の顔をした2等身の生き物が行き交っている。
コロコロと、不思議な草のようなものが玉になって転がっている。
「なるほど。乾燥してるのか」
《そうにゃ。この辺は水辺と雨が少ないからあんなのが転がってるにゃ》
俺の身体は勝手に動いて転がっていく草の玉を追いかけてしまう。
《けしからんにゃ! これを見ると無性に追いかけたくなるにゃ》
「あんまり遠くに行くでないぞ」
ワシが声をかけてくる。
「いやいや、待て待て。ここには何しに来たんだ?」
盾に引っ張られるようにして草の玉に追いつき、盾にくっついたヤダーの顔の両端からは半透明な前脚まで出ている。
俺に憑りついてるんじゃなかったっけ?
もうどうでもよくなってきた。
周囲もよく見ず突っ走ったもんだから、その辺を歩いていたホブリンにぶつかってしまった。
「あっ、ごめ……」
「なんだぁ? この俺さまにぶつかるとはいーどきょーだ!」
若干ろれつが回っていない。
赤い顔の犬面だ。
怒ってる風なんだが何か愛嬌のある顔でもある。
凄んでるつもりなのかなぁ?
「ぶふっ」
思わずちょっと吹き出してしまった。
「あ~? 俺の顔見て笑うたぁ舐め腐ってるぜぇ~、ひっく」
胸ぐらを掴もうとしてきたから思わず横に動いたら、そのまま酔っ払いは空を掴んでバランス崩してひっくり返った。
「あっ、大丈夫?」
「おめー! よくもやってくれたなー!?」
《何もやってないにゃ》
確かに何もやってない。
転がりながら起き上がった酔っ払いが、今度は大ぶりのパンチを繰り出してきた。
動きが大きくて、全然怖くもなんともないし、何となく身をひねるとやっぱり空振りして、またしても酔っ払いはひっくり返った。
「ふむ、身のこなしだけは天性のものがあるようじゃの」
「ん? 何か言った?」
ワシが少し後ろで何か呟いた気がした。
「いんや、なんでもないわい」
《ただ酔っ払いがバカなだけじゃないかにゃ?》
「いってぇ! もう赦さねぇ!」
また起き上がった酔っ払いは、懐から刃渡り20センチくらいのナイフのような刃物を構えた。
やべぇ。
「これ、そろそろいい加減にせんかい」
そう言ったワシが、いつの間にやら手に持った杖で宙に円を描いた。
年季の入った、ねじれた黒っぽい木製の短い杖で、先端には深緑っぽい色の玉のようなものが浮かんでいる。
「ぐえっ」
酔っ払いは急に地面から発生した蔦のようなもので見事に縛りあげられた。
「何か魔法使いっぽい」
「魔法使いじゃからの」
ぱちぱちぱちぱち!
ざわめきと共に、周囲から拍手が巻き起こった。
見回すと犬顔の面々の人だかりが出来ていて、驚いたような表情でこちらを見ていた。
「やべぇ……。何か注目されてる。逃げないと」
何かそんな衝動に駆られた。
次のお話
第10話『闘技場で腕試し』
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