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無職のパパが異世界転移してお家に帰るまで【第4話】

NFTart『Daddy-like kind』シリーズ
https://opensea.io/collection/daddy-like-kind-001

前のお話
第3話『チートは夢想で瞬殺で』

レベル0の無職

『レベル0の無職』が、仲間になりたそうにこちらを見ている。
 そんなテロップが流れたような自虐的な気分だったが、何か藁にもすがる思いだった。

「仕方ないのう……」
 めんどくさそうな額のシワを隠そうともせず、ワシは手を差しのべてくれた。
 ちんちくりんになってるわ、レベルはゼロだわ、何の能力もないわで打ちのめされていた俺は、文字通り猫の手を借りて立ち上がった。

ガサガサッと林の方で草むらが揺れた。
 背の低い灌木の葉がバラバラと落ちて、茶色っぽいモンスターが現れた。

ん?

「にゃあ」

そのモンスターは鳴いた。

「お。ちょうど戻ったか」
 
 ワシが茶色いモンスターに……、いや、猫だな。
 猫に向かって手を伸ばす。
 すると茶色い猫はぴょんとひとっ跳びでワシの肩に跳び乗った。

「紹介しよう。わしの使い魔じゃ」

「えっ? 娘いたの?」
 
 何かモロ猫じゃん。

「は? お前さん何を聞いておるんじゃ? 娘じゃなくて使い魔じゃ」
 
 ワシの眉間のシワが深まった気がした。

「え? ああ、使い魔か。何故か娘って脳内変換されてた」
 
 よく見ると使い魔もまた焦げ茶色のチョッキのような服を着ていた。

「そういえば、俺真っ裸だった。猫でさえ服着てんのに、何か悲しくなってきた」
「そうじゃのう。服も買えん流れ人かと思っておったが、そこを意識するということは違うということじゃな。何か事情でもあるのか?」

何処をどう通ったかはいまいち覚えていないが、ワシの家に着くまでの道すがら、俺は家を追い出された経緯を簡単に話した。
 嫁に蹴飛ばされて玄関から転がり出たら異世界だったっていうあたりで大爆笑された。
 
 とりあえずでっかい葉っぱを下腹部にペタリと貼り付けて、ワシは何か呪文みたいなの唱えた。
 
「よし。これでくっついた」
「あ、防御力上げるとかのまじない?」
「ん? あぁ、スライムを粘着材に加工するのに魔法で熱を加えた」

なんか色々見当外れだった。
 あの、俺を瞬殺した緑スライムが、接着剤になって守ってるわけか。
 複数……。

「ん? もしかして、この世界には魔法がある?」
「あるぞ。なんじゃそんなに目を輝かせながら詰め寄ってくるな」

「よっしゃー! やる気出てきたぞ!」
 
 握った拳を掲げる俺。
 きっとレベルが上がればあらゆる魔法を使いこなせるに違いない!

「ワシ! ハローワーク案内してくれ!」
「ハローワーク? 何じゃそりゃ」

無職って言ったらハロワでしょ!

「ああ、ごめん。仕事紹介してくれるところに行きたいんだ」
「おお……。嫁に捨てられて、ようやく働く気になったわけか」
 
 ちょっと嬉しそうなワシ。
 
「いや、何か違うな。そういう労働とかじゃなくて、ほら、剣士になったり魔法使いとか僧侶に転職できる神殿とかさー」

「なんじゃそりゃ。剣士になりたきゃ剣を振い続ければ猿でもなれるわい。書物を読み解き真理をつかめば魔法使いにもなれよう」
 
 話に夢中になっていたが、あたりはすっかり暗くなっていた。
 小さな畑の横に簡素な小屋がひっそりと建っていた。
 小さな松明のような棒が立っていて、その先端には火の代わりに黄緑色の小さな石が煌々とあたりを照らしていた。

何かエコ!

ワシは扉を開けて中に入っていく。
 使い魔は肩に乗ったままだ。

「ほれ。入らんのか?」
「はっ、入る」

ふと我に返った俺は、急いで中に入った。
 中に入る瞬間、外の石の光量が落ちたのを感じた。
 無駄に明るくする必要ないってことか。

部屋は意外に広かった。
 拡張の魔法でもかかってるのか、外から見えた印象の数倍の広さといっていいと感じた。
 基本はログハウスな感じ。

丸太を横向きに噛ませた感じの壁面に、天井は梁が見える仕様になっている。
 暖炉があって、ロッキングチェアがあって、丸太のミニテーブルがあって、キャンプ場のコテージを彷彿とさせる感じだ。
 入って右手の壁には上着を掛けるフックもあって、とは言っても掛ける上着がなさそうだけど。

靴という概念もないのか?

「どうした? お前さんがいた世界にはないものばかりか?」
「いや、基本は似てるわ。うちよりリッチな感じ」
 
 特に言葉の壁もないらしく、何を言ってもだいたい通じる。

「無職のお前さんと一緒にしてもらってものう……」
「いや、無職になったのはここ数ヶ月の話だから! っていうか、ワシ仕事って何やってんの?」

ふと、疑問に思った。
 道端で出会った猫っぽい生き物の職業なんて思い付きもしない。

「わしゃこう見えて元宮廷魔導士じゃ」
「マジか! 偉い人!?」

ひっくり返りそうになった。

「今は引退して研究の方に専念しておるがの」
「え、結構お年?」
「んー。100から後は数えておらんのう」

人(?)は見かけによらないとはこういうことか。
 猫っぽい見た目だから全然わからなかった。

次のお話
第5話『まっぱで剣と盾』

目次

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小狼
誰かの心にほんの少しでも風を送れるものが発信出来るよう自己研鑽していきます。 当面はきっと生活費の一部となりますが、いつか芽が出て膨らんで、きっと花を咲かせます。