無職のパパが異世界転移してお家に帰るまで【第13話】
NFTart『Daddy-like kind』シリーズ
https://opensea.io/collection/daddy-like-kind-001
芋の刻
「いやー、今回は真っ裸じゃなくて良かったわー」
《安心した部分はそこかにゃ?》
ヤダーからため息をつかれたのがわかる。
取り憑かれてて良かったとか、何か言いづらいよなー。
周囲を見回してもとにかく真っ白なので、下手に動くのは危ない気がした。
《下手に動くと遭難するにゃ。ワシが転送先の座標計算ミスったにょかにゃ?》
「なぁ、なぁヤダー」
《何にゃ?》
「かまくら作らね?」
《かまくら?》
「そうそう。雪で作る小さな穴ぐらみたいなものだな」
《あー。理解したにゃ。でも、今実体化できないんにゃけど》
「そうだった……」
盾に付いた猫の顔と会話してる感じってことに、今気づいた。
仕方ない。
寒くなってきたし、頑張るかー。
少し腕を回して準備運動してから、手ごろな雪をひとつかみ、ふたつかみ、今の自分の頭と同じくらいの雪玉を作った。
「さぁ、転がすぞ~」
夢中になって転がしていると、ふと気が付くと雪玉がでっかくなってきた。
そろそろ転がせなくなってきたという所で何とか近くの木に寄せる形で固定した。
《タグイが3人くらいは入れる感じにゃ》
「いやー、この大玉にこれから穴開けるから、何とか1人分くらいじゃね? 1人で作るならこんなもんだ」
周りをぺんぺん固めた後、少し手で掘ってみる。
「手袋が欲しい」
大玉作りの途中から感じていたけど、もうそろそろ手がかじかんで限界だ。
「あー、何で思いつかなかったんだろ~」
俺は盾をスコップ代りに穴を掘ることにした。
《あ゛~~~》
ヤダーの目がグルグルなっているのが面白い。
「ヤダーって、盾に憑りついてるわけじゃないんでしょ?」
《確かに”タグイ”に憑りついてるけど、視覚とあと何個かの感覚だけ盾に移してあるにゃ》
「なるほど」
何とか小さなお堂のようなかまくらができあがったから、入ってみる。
結構温かい。
温度が低いのか、体温で溶けて水にならないのが個人的には助かる。
背中のマントが毛布代りになって、盾を敷いて寄りかかると眠気が襲ってきた。
しんしんと綿のような雪が降りてくるのが見える。
目の前は靄かかっていく。
《お、ちょっと風が強くなってきたかも》
ヤダーの声が聴こえた。
あれ? 盾に視覚とか移してるとか言ってたような。
今盾は背中に敷いてる。
そんなことをぼんやり考えたところで、場面が切り替わった。
袋に入ったを何かを食べている小太りのおっさんが、横長のソファのようなものに肩肘ついて横になっている。
観光だかテレビだか、どこかで見た半裸の涅槃像みたいな感じ?
仏陀とか、古代ギリシャ人とかが着ているような、布を巻いたような出で立ちだ。
いや、でも雰囲気全体はそんな高貴なものじゃなくて、テレビ見ながらつまみ食ってる休日のオヤジだ。
無精ひげこそないものの、頭はつるっとして、あぁ、全体的に毛はないのか。
「ほ。迷子か。旅人か。とかく会うのもまた世のことわりよの。面白い。これでも食え」
何か喋ってる。
でも口は食べるので忙しそうで、聞こえた通りに動いているようには感じなかった。
腹が出ている。
色々感想は持ったけど、言葉が上手く出なかった。
自分が寝転がっているのか、座っているのか、立っているのかの感覚も薄い。
あぁ、夢か。
浮いているような感覚に似ている。
視覚に似ていて違うような、受け取り方次第で姿が変わる変なおっさんの映像(?)が頭に直接送られているような、何とも言えない感覚だった。
おっさんは全く動いていない。
けれども、俺は何かを食べた気がした。
干し芋?
再び場面は切り替わる。
一気に先ほどまでの夢の内容が消えていく。
「おい! ”タグイ”! いい加減起きるにゃ!」
物理的に頭を揺らされているのに気が付いた。
「お、おぅ」
目の前に猫っぽいのがいた。
「ふぅ、やっと起きたにゃ」
「あれ? ヤダー? 実体ある?」
しばらく見なかった実体のあるヤダーだった。
焦げ茶のチョッキを着ている見た目茶色っぽい猫だ。
「何か急にはじき出されたにゃ」
身体を起こして背中に置いて寄りかかっていた盾を見てみると、ワシが描いたヤダーの絵が消えていた。
「夢の中で何か食べさせられた気がしてるんだけど、何か思い出せないんだよなぁ」
「どんな夢だったにゃ?」
ヤダーが目の前でお座りして、小首を傾げていた。
尻尾がゆらゆら、2本揺れている。
イヤーは猫又みたいな感じって言ってたけど、もしかして、ヤダーも猫又的な存在?
「だから、起きた瞬間忘れたんだって」
「ま、そんなこともあるにゃ。けど、また憑り付こうとしても、弾かれるんだにゃ~。困ったにゃ」
「何だっけ? ヤダーくっついてた理由忘れたんだけど」
普通に忘れて……いや、思い出した。
「あれだ。この世界での時間の感覚がないからとかだった」
何となく、【豆】が早朝から昼くらい、【種】が昼過ぎから夜、【芋】が夜から明け方っていう感覚が頭に浮かんだ。
そして、今の刻限は、匂いのような肌に感じる感覚からそろそろ芋に差し掛かる……。
この世界には日照がなくて、芋の刻限くらいになると急に暗くなるんだ。
あれ? こんなのいつ覚えたっけ?
「あっ、芋食わされた!」
「は?」
豆【赤豆→黄豆→緑豆→茶豆→黒豆】
種【丸種→長種→尖(とがり)種→大種→小種】
芋【種芋→小芋→丸芋→長芋→粘(ねばり)芋】
帯状のグラフのように、頭の片隅にイメージ映像が浮かんだ。
これまで当たり前に感じていた時間の概念のように、なんとなく、1日のサイクルが刻まれていた。
しかも肌で感じとれる。
「そろそろ暗くなる」
「う、うん。え? もう身についた感じ?」
パッと辺りが暗くなった。
鳴ってないけど、どこかでカーンと鐘でも鳴ったような感覚がした。
「あれー? 何日か憑依しておいて、自然と身に付く予定だったんだけどにゃ」
ヤダーは目をクリクリさせて戸惑い顔だった。
次のお話
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