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掌編小説【妖精と初恋】926文字


空が真っ青に澄んでいたあの夏の日。
俺は妖精に出会ったんだ。

腰まである黒色の長い髪の毛が、さらさらと湿った風に靡いててさ。
夏の太陽の光を吸い込んだかのように、きらきらと輝いていた。

睫毛も瞬きしたときに音が鳴りそうなくらい長くて、肌も陶器のようにつやつやで、瞳が新緑を詰め込んだビー玉みたいだった。

その子が話すと、いつの間にか眠くなって、気付いたときには消えてるんだ。

両親は近所の子だ、ハーフだなんてって言っていたけど。
俺はその言葉を信じられなかった。

でも妖精にも事情があるんだって自分に言い聞かせて、俺はその子に何も言わなかった。

一年のうちに会えるのは夏の間だけ。

ただただ眩しい太陽の下で、妖精の話を聞いていた。

それは何年か続いていたんだけど、ある日ぱったりと妖精は姿を見せなくなった。

その年は秋の涼しさが心の中にずっと残って、冬には寒さで死んじまうって、恐くなって母親に泣きついた。

今思えば、初恋だったんだ。

「と、まあ。そんなわけで、ごめんね。その子のことが忘れられないんだ」

「……そんな嘘までついて私と付き合いたくないの?」

「嘘じゃないさ。俺の心はあの夏の日。あの妖精に奪われちゃったんだよ」

「嘘! だってあなた大学一の遊び人って有名だよ!? ちょっとくらい付き合ってくれても「ごめんね?」

俺は目の前にいる可愛らしいと呼ばれるであろう部類の女性に、にっこりと笑顔を貼り付けて対応する。

すると突然、左頬に痛みが走った。

「嘘つき!!」

名前も知らない女性は踵が割れるんじゃないかってくらいの歩き方で、そのまま何処かへ行ってしまった。

「……嘘じゃないんだけどな……というか付き合えない理由聞いてきたのあっちなのに嘘つきとか酷すぎる」

遊び人は真っ赤な嘘だけど。
たぶん色々な人から呼び出されては、さっきみたいなことを繰り返ししているからか、話に尾ひれが付いたんだろう。

俺にとっては不名誉な二つ名だ。

何処にいるかも分からないあの妖精ともう一度出会うには、まずこの二つ名を無くさないといけないかな。

「会いたいなぁ……」

体にある息を全て吐き出し、新鮮な空気をたっぷりと吸い込む。

「心が無いのは、辛いんだ」

あの夏の日と変わらずにきらきらと輝く太陽が、ただただ眩しかった。





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