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掌編【闇の足跡、罪の響き】577文字


暗闇の中、私は走る。
勝手に動く足に、文句を言いながら。

疲れて転びそうになると、幻聴が聞こえてくる。

「走れ」
「休むな」

弱音を吐けば、私の罪が現れる。

未成年だから。指導者だから。権力者だから。
最後には金や暴力に訴え、恐怖で支配し、被害者を泣き寝入りさせたから。

生きているときは、何もかもが楽勝だと思っていた。

だが、私の罪は、全て見られていた。

痛い。苦しい。辛い。
何故、私がこんな目に?

罰を受けるべきは、あいつらの方じゃないか。

「馬鹿は地獄に落ちても治らんな」
「魂が腐っているからな」

幻聴が好き勝手に何かを言っている。

「この罰では罪に釣り合わない」
「許しも来ない愚者には、もっと罰を」

許し?

「ん? 今どきの魂は知らんのか? ほんの少しでも愚者を想う聖者がいたら、それは許しとなり、罰が減るんだ」
「おい、喋り過ぎだ」
「希望を与え、絶望に叩き落としているのさ。この愚者を想う聖者なぞ、何処にもいないのだからな」

いや、いるはずだ。
あれだけ金を渡したんだから。
甘い蜜を吸わせてやったんだから。

罰を受けるべきは私ではなく、私の後ろに隠れていた奴らなのだから。

「はっはっはっ! ほれみろ! 希望を抱いたようだぞ!」
「……好きにしろ。罰になれば、何でも良い」

幻聴は、静かになった。
現れた罪も、見えなくなった。

再び、暗闇に落とされた。

どれくらい走っただろう。

足は、動き続けている。




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