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フィクションエッセイの行き場
「映像を撮り遺したいのです。」
昔ながらにカランコロン鳴るドアが鳴り止む前に、その男は席に着くなり、はなし始めた。前置きとか?準備とか?アイスブレイクとかないのだろうか?「単刀直入に申しげます」というフレーズさえ、じっくりと前置きしているように思えてきた。
「はあ」と弱いため息のような声だけを返して、私は上着を隣席へ置いた。今日は上着いらなかったかな?などと背中に汗が伝うのを感じられるくらいには、冷静だった。
「そう、映像なんです」と、男は自問に自答するかのように小声でつづけた。続きの言葉を選ぶように左上をみている。
「映像っていうのも色々ありますけど..」
「その..YouTubeみたいな??」
何から質問すればよかったのかわからなかったが、男は独特の間でしゃべる人だったので、とりあえず浮かんだ言葉を投げてみた。
「そっそそ..そうです!」という男。なんだか思考を中断させてしまったかのような、あわてた返事だった。もう少し詳しく聞きたいんだけどな。この男とのはなしは長引きそうな予感がしたので、私はホットコーヒーを注文した。アイスだと、最後の氷が溶けた水とコーヒーが分離したものを飲むことになってしまう。私はあれがとても嫌い。少し汗もかいたし、本当はアイスコーヒーのほうがよかったんだけどな。