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キラキラ夫 マキオ2|信頼関係とは?

入院

最初の子の時。
つわりがひどいと思っていたら切迫流産しかかっていた。
急遽入院し、数週間を病院のベッドの上で過ごすことになった。

当時の友人たちはまだまだ新社会人気分真っただ中。
気心の知れた友人たちは誰一人、わたしの夫がどんな人かを知らない。
そもそも説明が面倒なので話す気もおきないのだけど。

退院したら産休に入るまでは普通に働こうと考えてはいたもの、この先、さらに何があるかはわからないのだから、わたしが気を強く持たなければいけない。

ベッドの上で白い天井を見つめながら、ぼんやりいろいろ考えていた。


新生活

ほどなく退院し、わたしが住んでいたアパートにマキオが転がり込み、新婚生活はスタートした。

わたしは生まれてくる赤ちゃんのことで頭がいっぱいだったが、一方マキオは問題を生み出す名人だ。
それにかける彼のエネルギー、こだわり、素っ頓狂な視点にはいつも目からウロコ、驚かされることが多かった。

彼は言った。

「キミはホントくだらない荷物が多すぎる!オレの荷物見ろよ!シンプルだと思わない?すこし見習えば?」

・・・わたしが普通だろう。
生活に必要な必需品は一通りあるけど、買い置きはしない主義。
洋服だって真剣勝負で選び抜いたオシャレ古着と推しブランド服の数着のみ。本当に気に入ったいいものだけを持つ党の党員である。しかもわりといつでも最適化されていた。

一方マキオは。
彼はわたしの転勤に伴い、スポーツバッグ一つだけを実家から持ち出して別の街へ転居してきた。転居と言っても彼に家は無く、大学時代の友人の住む1DKアパートの部屋の隅っこに居候していたのだ。スポーツバッグ1つに入る分の荷物しか持っておらず、友人の家の隅にいるか車中泊のどちらかだった。

友人の家に居候している間は友人の生活用品を使用させてもらい、冷蔵庫に入っているものを食べさせてもらているようだった。けれど、彼はそのことをあまりよくわかっていなかった。
とにかく「バッグ1つで生きていけるオレの方がすごい」の一点張りである。

「適度に文化的な普通の生活を営む」といった実績がないにもかかわらず、彼はわたしの生活スタイルを片っ端から否定しつづけた。

ならばとわたしはムキになり、さらに洋服などの断捨離をしたこともある。

すると、もうそれ以上1ミリも否定する材料がなくなったとしても、彼は次に「時間の使い方がおかしい」とか「その程度の事しか考えられないの?」と新しい言いがかりを思いつくだけなのである。

もはやなぜ文句を言っているのか本人もわからなくなっているのだけど、「否定したい」という強固な意思だけはいつでもはっきり伝わってきた。

そんな時、たいていの場合わたしはほとんど相手にしなかったのだけど、そうするとマキオはさらに「キーッ」となり、執拗さを増していったのだった。


信頼関係とは

そんな時だった。
わたしの飼い猫が突然消えたのだ。

わたしはかなり落ち込んだ。
マキオは急に機嫌がよくなり、機嫌よく仕事へと出かけて行った。

そんなふうに出かけて行き、そして夕食の時間をすぎてもなかなか帰って来なかった。いつもより遅いな?と思っていたら。

深夜、マキオから着信。

「今日さ、ワタベと飲んでて。ごめん終電逃したから帰れないわ」

という。

ワタベ氏はマキオの友人。

ワタベ氏はなぜかマキオに心酔している。そんな風には見えないのに、マキオそっくりのことを言ってみせたがる、かなり変わった人だった。

「今つきあってる彼女、もう別れてもいいんだけどさ、なーんか可哀想でさぁ」

なんて言いだしたりする。(ちなみにその彼女は可憐な美女で、彼の方はうっかり床に落とした水餃子のような話し方と顔立ちだった)

話しを戻して。

さっきマキオからの電話があった5分後くらいに、今度はワタベ氏から着信。

「自分が引き留めたから、マキオが遅れて終電逃しちゃって。マキオは、嫁さんとは信頼関係で結ばれてるから大丈夫って話してるけど、でもマキオが疑われたら自分のせいだし悪いしと思って電話した。それで今、自分からも謝りたくて電話したんだ。ほんとオレのせいだから。」

そして。
そのまた5分後くらいにマキオから着信。

「そういうことだから!じゃ」

・・・・・。

ロクでもない嘘をつく人が苦手だ。
下手でロクでもない嘘につきあわされ、察したうえで調子を合わせなければならない。こちらの身にもなってほしい。

信頼関係とは?

これは「ビックリ」か?「マウント」か?それとも世に言う「試し行動」ってやつ?

いずれにせよ、新婚の嫁にやることではない。


しずかな夜

猫がいなくなった悲しみと、
赤ちゃんの名前を考えるのにわたしは夢中なのだ。

自分にそう言い聞かせ、マキオを追求はしなかった。

わたしは安静にして子どもを守らなければいけなかったし。
書店へ出産雑誌を買い込みに行っていたので、読む本もたくさんあった。

この結婚はいつまでもつだろう?
1年?2年?それとも?

しずかな夜だった。


*モラハラ・ポイント
現実感が薄いモラハラ人間は、経験と言葉とが適切に結びついていない。したがって抽象的な言葉の使い方、意味の取り方、解釈がおかしい。

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