キラキラカレシ マキオ14|青空タッグマッチ
嵐の前のしずけさ
わたしからはもう連絡しなかった。
季節はすこしずつ春へ向かい、窓の外の青空がほんとうにきれいだった。
ところが。
あれから3日間くらい音信不通になった後、またマキオがふらりと現れた。
「なんかオレのネェちゃん、話あるって。今から行ける?」
(・・・なんて?)
うっかり削除ボタンを押して前回までの展開を全消ししちゃった?
そんな唐突さでマキオは言う。
彼と話している時によく流れる脳内BGMがある。X‐ファイルのテーマだ。
そしてこの時ばかりはそれに加えて映像まで見えたのだった。
X-ファイルが響くなか霧の向こうに浮かぶマキオとマキオ姉のシルエット(脳内)
彼らは人間?それとも?
最後のドライブ
さておきマキオの姉と話すような用事などまっっったく思い当たらない。
(うーん。外へ連れ出す口実かな?)
だとすれば
これが最後のドライブということかもしれない。
毒を食らわば皿までというじゃないか。
彼の言葉を待とう。
もう察したくもない。
何も考えずに身をまかせよう。
姉登場
マキオの姉は中卒で筋金入りの元ヤンだった。
10代から働く飲食店でダンナ氏と出会い、デキ婚で主婦になったと聞いていた。現在は宅配寿司の配達パートをしながら子育てをしている。
そういうわけで。
マキオが口を開く前に、最後になるはずのドライブは終わった。
なんと本当に姉の家へ到着してしまった。
そしてようやく気づく。
のん気にドライブなどと思っていたマヌケなわたしは、まんまと彼らの「ホーム」へ連れて来られたのだ。
(この・・・展開は・・・!)
さっきまでフル音量だったX‐ファイルのボリュームは下がり、それにかわって今度は金曜サスペンスのジングルが止まらない(脳内)
躊躇する手の動きに気づかれないよう、すすめられるままお茶に手をのばす。けれどもこのシチュエーション、これは一滴たりとも飲みこんではいけないやつだ。この流れからのサスペンス展開は避けたい。きっちり口を結んだまま、何が盛られているかわからないお茶に口をつけるフリをした。
湯のみを置き、コホンとひとつ咳ばらい。
「いつもお世話になっております。あの、今日は…」わたしが言い終わるよりも先に。
なんと姉は場外からの派手なダイブで乱入してきた。
「よく来てくれたね。あのさ、マキオが相談があるって電話よこしてさ。ハナシはだいたい聞いたよ。わたしもね、それ、わかるのよ!」
面食らいながらまたさらに気づく。
(これはサスペンス展開ではない・・・これは・・・タッグマッチだ!)
マキオチームの助っ人
対するはリングネーム・アネキ。
乱入するやいなやアネキはリングの中央ですぐに何かまくし立てはじめた。わたしは呆気に取られながら早々にタップアウトのタイミングを見計らう。マキオはリングの端っこで黙り込む。
(・・・これは何マッチ?泣)
わたしは何かが終わるのを待った。
すると突然リングの端っこ、いや、もはや場外の観客席にいたマキオが突然立ちあがって何かを発したのが耳に入る。
彼はこちらを見ずアネキに向かって小さな声で「オレ結婚する」とつぶやいた。
アネキが「よっ!!言った!!」とはしゃいで手を叩く。
・・・はい!?
彼ら何を言ってる?
キミたちのホームで、誰も誰とも向き合っていないリングの上(と観客席)で、行き当たりばったりでキミら何の話をしている?
意思なき決断
この世のすべてがアネキの発言によって進んでいくかのように見えた。
アネキが「よく言った!イエーィ!」とはやし立てながら、マキオの母に電話しはじめる。近所のスーパーで働くマキオ母が駆けつける。後日マキオ父に報告に行く予定が決まる。「あっ、今日ここに集まって話し合ったことは父にはふせといてね。バレたら面倒だから。口裏あわせてね!」などと示し合わせている。
彼女らのはしゃぐ様子につられたのか、はたまた安心したのか、男は急にこちらを向いて言う。
「基本的に、楽しくね。よろしく。」
・・・はいいいぃぃぃ!?
わたしと、マキオと、アネキ。
みんなちがって、みんなおかしい。
X-ファイルBGMと金曜サスペンスのジングル、それから新日本プロレスの「アネキ!ボンバー・イェー!<ファイッ‼」が同時に大音量で鳴り響く(脳内)
違和感を訴えるスキもないほどの
圧倒的な
文脈完全無視の破壊力
スピード感
行き当たりばったり力。
(こんなことある??こんなふうに??これでいいんだっけ??)
すべてが許容値を超え、振り切れすぎていた。
磁場によってわたしまで思考力ゼロだった。
(そうか、こ、このひとにもなにをどうしたいとか、いうけんり、ある、よね?うん、わかったよ。じゃもうかえっていい?)
わたしは必死に笑った。
*モラハラ・ポイント*
基本的に親族もカオス
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