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決シテ嗔ラズイツモシズカニワラッテイル

予約した美容室に入ると離れて暮らしている娘が髪をセットしてもらっていた。
あれ?偶然…!?
お気に入りの美容師さんを娘に紹介したのが10年前。
サプライズ!
「お母さんの予約日を聞いて一緒の時間帯にしてもらったの!」
ケラケラと笑う姿がシュッとした美容室の雰囲気を柔らかくする。
お気に入りの美容師さんに親子で髪を整えてもらえる幸福に、鏡同士でにんまりと笑い合う。
帰り道は、一緒に外食する流れとなり、それぞれの車でお店へと向かった。私の方が遅くなり、駐車場に着くと娘が車内で本を広げて口を動かしている。
「音読見つかっちゃった!」
と笑う。
食事を済ませた後は、ケーキ屋さんへと向かった。
店内は大げさにいうと朝の電車くらいに混み合っていたが、みんなの表情にワクワク感がある。
スイーツにはオキシトシン効果があると思った。
ケーキを食べて、しばらくすると娘が宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を私に音読したい。と言ってくれたので、真剣に聴きたくて、目を閉じて正面に座った。
感動してしびれていたら、娘がもう一度、はじめから読んでくれた。
時代を越えて引き継ぎたい作品だと二人でしみじみ語り合った。
「注文の多い料理店」も続けて音読してくれた。
宮沢賢治の素晴らしさで、ひとしきり盛り上がり、雨ニモマケズだけで読書会できるかな?まで飛躍した。
娘はできる。と言い切った。
行動は自分の責任だけど、理想はとことん語ろう、というのが私達のスタンス。

娘が小学生高学年まで、私は寝る前に絵本の読み聞かせをしていた。
教育にいいとかより、私が読みたくて、さらに働いていたので親子の時間がほしいのもあって勝手に読んでいた節があるため、私の方が先に眠くなることも、多々あった。
月日は流れ、私の手を離れ、大人になった娘が不意に読んでくれた「雨ニモマケズ」が私の心に沁みて沁みて沁み渡る。
なんとも心地よかった。
楽ではなかったあの頃、今日のような出来事が起こるなんて想像していなかった。
またね!と手を振って笑顔で帰っていく娘の幸せを願いながら車を見送った。
次は「セロ弾きのゴーシュ」を……。



























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