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私にとって「歌う」ということ
私の本名には、「音楽の才能に恵まれるように」という両親の願いが込められている。
そんな環境だったから、私は5歳になるとすぐ音楽を始めた。
選んだ楽器は「ピアノ」。
いろんなことが楽しくて、幼心にも、私は「音楽にあふれた人生」を送るのだと思っていた。
でも、悲しいかなそんな夢は早々に打ち砕かれることになる。
父の借金癖。
それによって、我が家は何度も何度も混乱させられることになった。
親は隠していたけれど、私は、自分のおかれた環境が経済的にとても厳しい状況だと感づいていた。
「このまま音楽を続けていても、私は音楽大学には行けないだろう。」
そう悟ったのは小学校5年生の時。
いくら将来の夢があっても、叶わないならつらいだけ。諦めるなら早い方がいい。
そう考えて、私はきっぱりピアノをやめた。
それからは、音楽を忘れるために必死だった。
スポーツを始め、本気で一流選手を目指してみた。
勉強をひたすら頑張って、上位に入ることだけを狙ってみた。
でも何か違う。
やっぱり私には音楽しかないんだろうな。
そう思い知らされたけれど、私が音楽をやっていくにはどうしたらいいんだ?
日本で音楽を思い切りやれるのは(学生の時にという意味で)、家が太い人だけだ。
私は普通の大学にも行くことができなかった。
夜間の短期大学に仕事をしながら通って卒業。
こんな身分で「音楽をやりたい」なんて口にすらできない。
でも、それは宇宙の仕業なのか、神さまの仕業なのか。
こんな状況の私にも、振り返るといつも音楽の存在があったことに気付く。
ピアノを諦めた私に、「独学でギターを学ぶ」というヒントがもたらされていた。
これはその後、バンド活動をするときに役立つことになる。
高校生の時、何気なく見た「NHKニューイヤーオペラコンサート」で初めて「歌の世界」を知る。
歌、歌ってみようか?そう思って、社会人になってからアマチュアの合唱団で歌うことになる。
社会人になって、職場の先輩たちとバンド活動を始める・・・
10年ほどアマチュアの合唱団で歌っていた私は、ふとしたことがきっかけで、ソロで歌うことを思いつく。
コツコツ働いて、音楽教室でレッスンを受けて、それが30代半ばの時。
人間って欲張りなもので、どんどん上を目指したくなるもの。私も当然のごとく、「今から音大に行きたい」と思うようになっていった。
でも、あらためて思った。音楽って本当にお金がかかる!!!!
社会人を受け入れている私立音楽大学だって学費は高額。これから親の介護も考えなければならない私が、1000万近くの金額を自分に使うなんて、とても無理。
でも、自分の欲は抑えられず、いろんなことにチャレンジしてみた。
夜間で働きながら音楽を学べる大学はないか?
通信制は?
大学が無理なら大学院は?
週に何日か、音楽を専門に学べる教育機関はないか?
資料を取り寄せたり、学校に話を聞きに行ったり。
そうしているうちに、不思議なご縁を引き寄せる。
私などとてもお話を伺うことができないはずの、高名な声楽家の方のアドバイスを受けることができたのだ。
今の私が学べる教育機関を教えてくださって、私はその学校の入試に合格。2年間音楽を専門に勉強することができた。
これは、私が38歳の時。
それからも地道に歌い続けて、50代半ばになった。
決して順風満帆な道のりではなかったけれど、私は歌うことを諦めなかった。
今も時々、「どうせ私は音楽大学出てないし」とふてくされることがある。
そんな時、「歌は本当に学歴ないとできないこと?」と自分に聞いてみる。
社会人経験の後、オペラ歌手として活躍している人。
音楽大学を出ていなくても、オペラの舞台に立っている人。
コンクールで成果を出している人。
忙しくても、練習時間をひねり出している人。
目標に向かって、着実に進んでいる人は確かにいる。
私は自分を憐れんでいるだけだ。
私は、第九のソプラノソロも歌いたいし、オペラの舞台にも立ちたい。
しっかり音楽の学びを重ねてきた人から見たら、私の言っていることなどちゃんちゃらおかしいことかもしれない。
でも、私はどうしても自分の夢を叶えたいんだ。
なぜなら私は音楽が大好きだから。
私の夢は、宇宙から私に与えられたもの。
だから私には、夢を叶える権利がある。
私は今、もっと自分の人生を歌でいっぱいにしようと決める。