医療系スタートアップを設立して、ゼロ地点に立つまで- 創業から1年半を振り返って-
こんにちは、はよんです。
年末年始は2年ぶりに実家の大阪に帰省し、私のおばあちゃんに2年で成長しまくったひ孫の姿を見せることができてホッとしてます。
前回の記事では、私が起業に至った経緯について記載しました。
読んで頂いた皆さま本当にありがとうございました。
今日は会社を設立してからやっと今のゼロ地点に立てるようになるまでの1年半について、特に印象に残っている出来事を中心に記載したいと思います。
看護師の小さな困りごとを解決したいと思い起業
現場は小さな困り事で溢れている
小さな困りごとが積み重なった結果業務が圧迫されている
これは私の臨床現場での経験で、直感的に強く感じていたことです。
そしてその小さな困り事を解決するためにプログラミングスクールに通った後、会社を設立しました。
少し考えただけでも小さな困り事は本当にたくさんあって、今まで3分かかっていた業務が30秒になったり、5分かかっていたことが1分になったりするアイデアがたくさんメモ帳に溢れました。
現場の日々の小さな困りごとが解決されるとかなり業務が楽になるに違いない
そしてそれらを自分が実際に働いていた病院のベット数や看護師の配置人数、業務回数や所要時間は感覚で、実際の数字に当てはめて考えてみました。
このように実際の数字を当てはめてみると、全くお金にならない、つまりビジネスとして成り立たないことに気が付きました。
現場の小さな困り事が解決されるとかなり業務が楽になるに違いない
でもこの方法では会社として全く成り立たない
これに気付いたは良いものの、どうしたら良いのか分からず、とりあえず小さなサービスでも良いから実際に1つリリースしてみて、あとは模索していこうとなりました。
そんな地味な会社のスタートを切った時に、とある方との出会いがあります。
その方は、偶然にも私がプログラミングを学んだジーズアカデミーの卒業制作発表を観て「ぜひ応援したい!」という想いから、わざわざスタッフを通して卒業後に連絡をくださったのです。
そしてその後、オンラインで何度も私の起業してからの相談に乗ってくださり、「こういう種類のビジネスは資金調達をしてもっと大きくやらないといけない!」と強くアドバイスをしてくれました。
正直その頃の私には「資金調達」や「スタートアップ」という考えは1ミリもなく、そもそも「ビジネスは大きくやらなくてはいけない」という発想もありませんでした。
しかし、大好きな職場を自ら辞めたあの悔しさと無念を晴らし、私のような想いをする看護師をなくすためには、もう「資金調達」だって「スタートアップ」だってやるしかないなと覚悟を決めました。
幸いにもそんな私を夫は全く反対せずむしろ「やったほうが良い」と後押しさえしてくれました。(世界で一番最高の夫だと今も毎日思っています)
こういったご縁で、本当に事業として成立させるためには、小さな困りごとを1つ1つ壊していくのではなく、もう少し大きな課題に取り組むべきだと気付かせて頂き、これがきっかけで思いついたプロダクトの開発に向けてすぐに動き始めました。
少し余談ですが今でも私は、現場は本当に小さな困りごとだらけだと思っています。
決して自分が臨床にいる時に感じていたことは間違っていないと思うし、むしろ臨床現場で経験した全てが事実だと感じています。
そしてその感覚はずっと大切にしなければいけないと思っています。
自信があったプロダクトの失敗
私が絶対あった方が良いと思っていたプロダクトは、看護師のタスク管理に関するものでした。
この課題はほぼどの病棟でもあるという実感がありましたし、ざっくり計算すると、事業としても成り立ちそうでした。
動き回る看護師のタスク管理なので、大前提としてスマホで使用するものを想定し、今の病院はPHS使用が主であるものの、PHSの電波が一部停波になる時代の流れにも合っていると確信していました。
とりあえずまず、頭の中で考えているものを形にしてみよう、そしてそれを使って実際に調達活動や営業活動をしてみよう
ジーズアカデミーの友人に協力をお願いし、私の頭の中の妄想をブラウザで動くプロトタイプという形で作ってみることになりました。
また同時期に、合計2名のエンジェル投資家2名から資金調達も完了しました。
今思い返してみても、ほぼビジネスプランなんかなかった状態の私に出資して頂き、本当に感謝しかありません。
ここから営業活動とシードラウンド資金調達活動が始まりです。
営業をする上で、実際に動く商品は必須だと思い(今思えば決してそうでもないのに)、自分達で作ったプロトタイプをアプリ化しつつ、地道に営業を実施してみました。
営業をしてみると、反応がそこそこあった一方で、営業がなかなか上手く進まない現実にぶち当たります。
上手く進まない最大の要因として、「スマホ前提」のプロダクトという時点で営業できる病院の数が圧倒的に少ないということがありました。
現状、日本の病院のほとんどでPHSが使用されていることは私自身認識していましたが、一部PHSの停波や世の中の流れとして病院もこれからどんどんスマホに切り替わっていくと想定していました。
しかし営業を開始した時期はちょうどコロナ感染が始まったばかり、病院は未知のウイルスへの対応で精一杯で、とても院内のPHSをスマホに変える余裕などないという状況は容易に想像できました。
また、並行して行っている資金調達活動の最中、とある投資家からタスク管理アプリに関して、決済者の意見を聞いてみるようアドバイスを頂きました。
実際、このアプリに対するヒアリングを私の友人看護師ベースでは数人に実施していましたが、決済者には一切していない状況でした。
しかし、病院というトップダウンの組織では、私のような普通の看護師がどれだけ良いと思っても、管理職が良いと思わないと絶対導入は出来ません。
すぐに営業活動を一旦止めて、決済者となるのは看護部長ではないかという仮説のもと、ヒアリングを開始することにしました。
元々ヤバかった看護の現場がコロナによってより一層ヤバくなっていることは、現場から離れて2年近く経過している私でも火を見るより明らかでした。
そんな状況で、ましてや知名度ゼロの会社のヒアリングに協力してくれる看護部長はいらっしゃるのか不安しかありませんでした。
しかし、もう不安とか悩むとか言ってられる状況ではありません。
今の資金が尽きるのは数ヶ月後だと見えているのに、本命プロダクトの営業が全然進まない会社に出資するVCなんかいません。
今までの人脈や繋がりをフル活用し、看護部長へヒアリングの協力を依頼しました。
すると、本当にありがたい事に、多くの看護部長にご協力頂くことができました。
コロナについてまだまだわからない事も多く、毎日状況が変わるあの異常事態下でヒアリングにご協力頂いた看護部長の皆様には今も本当に心から感謝しています。
ヒアリングでは本当にたくさんのご意見やアドバイス、リアルな声を頂くことができました。
書ききれないほどたくさんのお声があったのですが、タスク管理アプリに関してかなりざっくりまとめると、
課題はあるが今すぐお金出してまで欲しいかは・・・
スマホを入れる予定はない
従来の紙で管理する方法のままの方が便利なんじゃない?
という声が非常に多かったです。
私が絶対あれば良いと思っていたタスク管理アプリは決済者目線では今すぐ欲しいという状況ではありませんでした。
これは正直すごくショックでした。
私が現場で感じていた課題感は概ね間違ってはいませんでした。
そしてその課題を認識している看護部長さんもたくさんいらっしゃいました。
その一方で、優先順位としては低いと言う状況でした。
また、タスク管理以外にも看護師や看護業務に関連する課題は、あまりにもたくさんありました。
そして何よりもスマホが入っている病院はヒアリングした中で1つもなかったし、入る見込みのある病院も1つもありませんでした。
スマホが病院に入らない以上、このアプリを使うことは出来ない。
しかもお金を払ってまで欲しいと思ってもらえない。
そんな厳しい現実を目の当たりにしたのです。
暗中模索の故に辿り着いた1つの答え
タスク管理アプリを思いついて半年近くが経過し、エンジェル投資家からの大切な資金のほとんどをこのアプリに注ぎ込んでいました。
今まですごく自信があってお金と時間を労力を割いてアプリのプロトタイプまで作ったタスク管理アプリが駄目かもしれない、というかもう駄目やん
今までの過程を思うと、私個人の心情的にはより一層諦めきれなかった部分もありました。
一方で目の前には厳しい現実もある。
資金が切れるまでの残りの期間を考えるとずっと落ち込み悩んでいる暇もなく、
少なくとも今はこれではいけない
と資金が尽きる5ヶ月前にピボットを決意。
このような状況で資金調達は出来ないと判断し、投資家との面談も一旦ストップしました。
今まで頂いた看護部長の声を整理しては新しいプロダクトを考え、ヒアリングをする日々を繰り返しました。
新しく考えたプロダクトは複数個ありましたが、それらのプロダクトについてヒアリングをしてみたものの、どれも看護部長から良い反応がありませんでした。
正直、看護の現場に課題は山のようにありました。
というかあり過ぎて困るくらいあります。
でもどの課題に対してどういう解決方法が良いのか全く見えてきませんでした。
そしてこれらの課題が相互に影響し合っていたり、複雑に絡み合ってはいるものの、「これがボトルネックだ」「これを解決すれば全て解決できる」という明らかな大きな課題も見つかりません。
①課題を明確化→②解決方法考える→③プロダクト考える→④資料作る→⑤ヒアリングする→⑥ヒアリング結果の分析
を何回もひたすら繰り返しました。
思い返すとこの時期は本当にしんどかったです。
目の前が見えない真っ暗な道を方向もわからずひたすら歩いている状況でした。
こんなに課題だらけなのに、解決方法が全くわからないという時間が数ヶ月ありました。
時間が経てば経つ程なくなるお金
銀行残高を見てどんどん大きくなる不安と焦り
そんな気持ちとは裏腹に全く定まらない方向
まじでやばいなと思いました。
余談ですが、年度末だったこともあり、長女の幼稚園卒園と小学校への入学、末っ子の保育園転園と、イベントや手続き関係も多く、子ども達が新しい環境に適応できるか気がかりも多い日々で、仕事もプライベートもずっと大変でした・・・
数ヶ月の間ひたすらこれを繰り返した結果辿り着いた1つの課題が「患者さんの入院に伴う業務の課題」でした。
そして、それを解決するためのプロダクトがscreeです。
この患者さんの入院に伴う業務に関する課題とその解決方法に関して、明言されていた看護部長がいらっしゃったのではなく、今まで頂いたたくさんの声を分析し積み上げた結果たどり着いた1つの仮説でした。
screeは看護部長にヒアリングをした時点での反応が、今まで考えたたくさんのプロダクトはもちろん、一番最初に考えていたタスク管理アプリとも明確に違いました。
中には「これうちで使いたい」「もう売っているの?」という声も頂きました。
何名の看護部長からこのような声を頂いたことで、私自身の中で「これはいけるかも」と思えるようになってきました。
しかし、もう同じ失敗したくないという不安も正直ありました。
ヒアリングの数が多いに越したことはありません。
しかしそんなゆっくり時間かけて出来る程の時間も実際は残っていませんでした。
不確定要素はできる限りデスクリサーチで補いつつ、自分の中で「大丈夫」と強く言い聞かせながら資金調達活動を再開、同時にヒアリングも継続しました。
そしてピボットの経緯も正直に投資家に話をし、残キャッシュ2ヶ月程度というギリギリの時期で資金調達が決まりました。
看護師の課題を理解しようと何回も私の話を聞いてくれた担当アソシエイトの方と、ピボットしたばかりでビジネスモデルはほぼなく、ただただ「この業界やばいからなんとかしたい」という熱意だけでピッチをした私に出資を決めたVCには本当に心から感謝しかありません。
この資金がないとゼロ地点から前に進むチャレンジすら出来なかったのです。
(投資が決まるVCへの最終ピッチは、人生で初めて助産師として赤ちゃんを取り上げさせて頂いた時と同じくらいエキサイティングな経験でした!!)
これまでの過程を振り返って改めて思うこと
メディカルギークはようやくゼロ地点に立てたスタートアップです。
私の勉強不足と独断と偏見故の失敗をたくさんしました。
事業を前に進める上である程度のスピード感が必要なのは言うまでもありませんが、何も考えないスピードアップは、後悔する結果を導くことも多々あると学びました。
そしてこのnoteを書きながら、改めて本当に多くの方に支えられたからこそ今があると改めて気付きました。
困り果てていた私の話を何度も聞いてアドバイスをくれた方
私の想いを何度も聞き出資を決定してくださったエンジェル投資家とVC
やばい時でも毎日一緒にひたすら考えて議論する日々を繰り返したチームメンバー
コロナ渦でヒアリングにご協力頂いた全国の看護部長
やれる事をきょうだいで協力しながらかなり急ピッチで自立している子ども達
仕事と家事育児を共に担い、いつも私の近くで静かに見守ってくれている夫
ここに書ききれないくれい本当に多くの方に応援し支えられたからこそ、今があります。
少しずつ事業を前に進め、看護師にとっても患者様やご家族にとってもより豊かな社会を作ることで、恩返しをしていきたいと思っています。
現在、メディカルギークではリリース版の開発からサービスのグロースを担う創業期メンバーを募集しています。
「医療DX」という言葉が少しずつ認知されるようになってき昨今ですが、その中でも「看護DX」はまだまだ未知の領域です。
前例がほぼないので、何が成功で何が失敗かすらわからなことが多いです。
だから多分これからもまだまだ失敗すると思います。(代表の私がそれを言ったらダメなのか・・・笑)
もちろん失敗しないに越したことはない一方で、失敗することを怖がって何もしないのではなく、失敗した時はなるべく冷静に失敗の要因を分析し、今後のアクションに活かすことで、限られた資金と時間を有効活用し事業を最大限前に進めていくことが大切だと思います。
失敗を恐れず、チームと共にドロくさく前を向いて、社会のインフラである看護を支え、アップデートすることで、新しい医療を一緒に作るメンバーを絶賛募集しています。
少しでも会社や事業について興味を持たれた方はお気軽にご連絡ください。
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