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#74「予測と数理最適化:予測だけじゃ動かない予測最適化AIが変えるビジネスの“先の先”」

デデデータ!!〜“あきない”データの話〜第37回「ビジネス問題を最適化問題として捉える - 最適化DX -」の台本・書き起こしをベースに、テキストのみで楽しめるようにnote用に再構成したものです。


ビジネスで予測AIを使う場面にたびたび遭遇して、思うことがある。どれだけ精度が高い予測を出せたとしても、それが行動につながらなければ価値を生まないのではないか、という疑問だ。

たとえば小売業界で在庫を予測できたとして、それをどう棚に並べ、いつ補充し、どのタイミングで値下げするか。そこを誤れば結局、棚は空いていて客の機会損失を招くか、もしくは廃棄ロスを増やすだけ。そんな歯がゆい話を何度も耳にしてきた。

なぜ、予測だけでは不十分なのか。理由はいくつかある。需要の数値やトレンドがわかったとしても、実際に動かすリソースにはさまざまな制約があるからだ。たとえばドライバーの勤務時間には法的な上限があり、トラックの台数や積載量にも限界がある。倉庫のキャパシティも限られていれば、シフトの人員も無限ではない。

そこに気候変動や休日の変則スケジュールといった要因が絡むと、最善策を勘と経験だけで決めるのは非常に難しい。予測をどう意思決定に反映させるか、その部分にこそ「数理最適化」の力があると確信している。


数理最適化とは何なのか

数理最適化と聞くと、小難しい数式を想像する人もいるだろう。だが本質はシンプルだ。限られたリソースと与えられた制約の中で、最大化もしくは最小化すべき目標を決め、数式を解くことで最適解を見つける手法。AIの予測モデルは「明日の需要は何個か」を推定してくれるが、そこから先の「どう動かせばいいか」を教えてくれるわけではない。ここに数理最適化の出番がある。

たとえば在庫に関する最適化問題なら、「仕入れコストを最小化しつつ、欠品リスクを限りなく低く抑える」みたいにゴールを設定する。そのうえで、店舗間の輸送費やリードタイム、保管料金、あるいは賞味期限といったリアルな制約条件をすべて組み込み、最大限矛盾なく実現できる解を導き出す。それを計算するのがソルバーと呼ばれるアルゴリズム。数理最適化は、むしろ「実務で起きている複雑なトレードオフをどう定式化するか」が鍵で、ソルバーは最後の計算を担うだけだと考えてもいい。


予測+最適化の二段構えが生む威力

私がこの二段構えの威力をはじめて体感したのは、ある食品チェーンの話。1600店舗を結ぶ巨大な配送網では、天候と曜日によって需要が日々変動する。月曜の雨の日は来店客数が下がりがち、といった傾向は予測モデルが割と正確に当ててくれる。だが、それを踏まえてどのトラックがどこを回り、いつ積み込み、いつ出発するか――それを決めるのは人間の熟練技だった。最悪の場合は「とりあえず多めに載せておけば安心」という朝令暮改に陥り、無駄が膨らんでいた。

そこに数理最適化を導入するとどうなるか。店舗ごとの需要予測をソルバーに渡し、ドライバーの労働時間や荷台の容積、店舗の受け入れ時間を考慮して「このトラックはAコース、次にBコースを回るのが最適」と計算させる。各店舗のアイテム別発注数も、予測精度が上がったぶんだけブレが少なくなる。結果として想像以上のコスト削減が実現したという。担当者は煩雑なルート設計に時間を取られることなく、例外対応やドライバーの休憩シフトの調整に集中できるようになったそうだ。

「予測があっても動かし方が無秩序だと台無し」。その言葉を地で行くのが物流や配車の世界。数理最適化の導入でベースの計画が固まると、現場の疲弊感がかなり軽減するらしい。これは一例にすぎないが、私はそこに大きな希望を感じた。


■事例1:梱包サイズの削減 — 小技を数式に落とし込む

数理最適化は、もっと身近なところにも応用されている。化粧品メーカーの事例がわかりやすい。小型で割れやすい商品を梱包する際、緩衝材やダンボールのサイズ選びが悩みの種。過剰な大きさの箱を使えば破損リスクは下がるが、配送コストは膨れ上がる。そこで「最適解」を見つけるため、機械学習で商品サイズや破損リスクを推定しつつ、数理最適化で梱包パターンを探索した。

ここで面白いのは、現場の熟練担当者が普段やっている “袋の空気を抜く” とか “容器を斜めに詰める” といった職人的な小技をモデル化している点だ。普通のパッキングアルゴリズムにはなかなか入っていないが、それが一手間で運賃をだいぶ節約しているとわかった。こうして全体の箱サイズを平均15%ほど縮めたという。結果的には運送トラックの積載効率が上がり、CO2排出量まで削減できる。誰かの勘と工夫に頼っていた部分を、数理モデルに吸収してしまうところが醍醐味だと思う。


事例2:ダイナミックプライシング — 値段を変える勇気

「値段を少し変えただけで売上が何%も動く」。
経験則で言われてきたが、その調整は難しい。需要の変動を読み違えれば、売上が落ちるだけでなく、顧客の反感を買うリスクもある。しかし予測モデルが需要をある程度正確に掴み、さらに数理最適化で最適価格帯を探れば「リスクを織り込みながら収益最大化を狙う」ということが可能になる。

ホテルや旅館の宿泊料金が季節や予約状況で変動するのはすでに一般的。ECサイトでも、消費者の購買意欲が高まる時間帯に値段を上げたり、在庫がだぶついているときには割引を仕掛けたりするダイナミックプライシングが普及している。そこに数理最適化を組み合わせると、単なる「需要が多いから高くする」だけでなく、「この価格帯なら競合他社と比べてシェアをどれほど確保できるか」といった多角的な制約も盛り込める。株式投資のポートフォリオ最適化に近い考え方だ。価格というのは企業の収益構造の根幹。そこを予測+最適化で攻めるのは、結果が大きく変わるからおもしろい。


事例3:棚割り・在庫最適化 — 常に動くレイアウト

スーパーやコンビニでは、棚の限られたスペースに何をどう配置するかが売上に直結する。商品のフェイス数や陳列順、カテゴリの位置関係など、経験則がものをいう部分が多かった。季節やキャンペーン、地域特性によって“正解”が変わりやすいのも悩ましい。そこで、需要予測を加味しながら棚割りを定式化し、数理最適化で「今季はこのカテゴリを優先する」「この商品は思い切ってフェイス数を増やす」といった決定を自動化している事例が出てきた。

さらに在庫管理にも最適化が効いてくる。消費期限のある生鮮品や惣菜は、売れ残れば廃棄ロスになり、早々に欠品すれば機会損失だ。リアルタイムの売上データを見ながら「この品目は在庫が減ってきたから発注を増やそう」「天気が悪くなるから販売ペースが下がるだろう」など、刻々と動く需要を追随して在庫をコントロールする。ここでさらに価格変更の要素(値引きのタイミングなど)を組み込めば、一層無駄をなくせるというわけだ。


事例4:TVCM出稿枠の最適化 — 複数素材をどう見せるか

広告の世界でも数理最適化は活きる。テレビCMの時間枠をどう配分するかというテーマで、複数のCM素材をミックスするほうが購買行動を促しやすいという調査結果があった。つまり、視聴者が同じCMを何度も見続けるよりも、いろいろな訴求ポイントやクリエイティブを掛け合わせたほうが印象に残りやすいと考えられる。

しかし、番組枠には限度があるし、ターゲットの視聴時間帯や予算配分、スポンサーとの調整など制約は多岐にわたる。その上で「複数の素材をバランスよく何度見せるか」を算出するのは、まさに数理最適化向きの課題だ。視聴率やターゲットの行動は機械学習で予測し、それを変数としてソルバーにかける。結果として「素材Aをこの時間帯で何回、素材Bを深夜枠で何回出すのが最大効果か」などが計算される。人間では到底追いきれない複雑な組み合わせを一瞬で評価できるのは、見事としか言いようがない。


数理最適化導入の壁 — 暗黙知をどうモデル化するか

事例を紹介するたびに「いいな、それ使いたい」と言ってもらえることが増えた。ただ、導入の壁は決して低くない。もっとも大きいのが 「制約条件」を正しく設計すること だ。現場では当たり前のように行われている小技や慣習が、実際には人々の暗黙知に埋もれているケースが多い。先の化粧品メーカーで「袋の空気を抜く」工夫をモデルに取り込んだように、現場を丁寧にヒアリングして整理しなければならない。

そしてもう一つ重要なのが、データの整備。予測モデルと連携するには過去の売上データや在庫データ、商品情報、顧客属性など、関連情報をしっかり蓄積・クリーニングしておく必要がある。最適化を適用したい領域を定義し、そこに必要なデータが整っているかを確認してからでないと、ソルバーを動かしても空想上のプランしか出てこない。どんなにパワフルなアルゴリズムがあっても、制約の設定を誤り、データが欠落していればまったく意味がない。


PDCAを回すと見えてくる世界 — 暗黙知の掘り起こし

数理最適化のプロジェクトでは、多くの場合「試験運用→結果検証→制約追加→再解決」というPDCAが必須になる。最初の解が机上の空論に近いのはよくある話だ。「あれ、このプランじゃトラックが渋滞ピーク時に必ず巻き込まれるじゃないか」とか、「この発注タイミングだと仕入れ先が夜中に受け取りできない」という声が上がるかもしれない。そういう気づきこそが“制約の追加”であり、すなわち現場のノウハウの取り込みだ。

こうした修正を重ねるほど、最適解が現実に即した強固なものになっていく。最初は面倒に思えるかもしれないが、最終的には「人間の頭にあった職人技や勘のポイントが数式化される」形になる。これが数理最適化の醍醐味。暗黙知が徐々に掘り起こされ、組織の共有財産になる。そして意思決定が洗練され、担当者の負荷も下がるというわけだ。


予測が前提、最適化がゴール

自分としては「予測」がいかに高度化しても、そこに「最適化」がなければ現場は動かないと考えている。商品需要の精度をさらに0.1%高めるより、その予測を使ってシフトや発注を最適化するほうが得られるリターンはずっと大きい。特に最近は、クラウド上で高速なソルバーが手軽に利用できる状況が整っている。以前は整数計画法や線形計画法を動かすだけでもそれなりのハードルがあったが、いまはエンジニアなら誰でも取り組める時代になった。

ビジネスの現場を見ると「予測はやったけれど、最終判断は部長の勘」「AIで出た数値はなんとなく見てるだけ」というケースが少なくない。本当にもったいないと思う。せっかく予測があるなら、それを最適化につなげて意思決定自動化の領域を広げるほうがはるかに生産的だ。もちろん最終的な責任は人間にあるが、計算機が導いたベースプランをもとに例外対応するほうがミスを減らせる。


今後の未来 — 予測と最適化が当たり前の世界

数理最適化と予測がセットになった世界は、これからさらに広がるとみている。物流や配車、棚割り、価格戦略、広告枠の割り当てなどは既に活用例が多いが、金融や製造業でも可能性は大きい。工場の生産スケジュールを最適化して、在庫回転率を高める。サプライチェーン全体を見渡して、ボトルネックを自動的に回避する。どれも複雑な制約の塊だが、AIが需要を予測し、それをソルバーで解きほぐせば、目に見える成果が得られるはずだ。

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が盛んに使われているが、その本質は「現場の意思決定をデータドリブンに変えていくこと」だと思う。予測分析だけがデータドリブンではない。その先にある実行と最適化こそがDXの最大の肝。企業の変革は一朝一夕には進まないかもしれないが、PDCAを回す中でデータの価値が共有され、結果的に文化として根付いていく。最適化まで踏み込むことで、担当者の意識も「予測結果をどう活かすか」にフォーカスされ、さらに学習が深まっていく。このサイクルがまわり続ければ、企業は確実に強くなるはずだ。


結論 — 予測に満足しない。最適解こそビジネス革新の要

「需要を予測できたら万事解決」――そんな期待を抱く企業は多いが、実際にはそこがスタートラインにすぎない。どのように動かすかという意思決定を最適化し、制約やリソースを踏まえながらベストプランを出す。この“二段構え”こそが、ビジネス革新を引き起こすリアルな手段だと感じている。

人間の勘や経験が不要になるわけではない。それらは制約や評価指標としてモデルに組み込む要素になる。ただ、すべてを人間が計算していては膨大なパターンを検討しきれない。そこで数理最適化のアルゴリズムが計算を肩代わりし、人間は最終ジャッジやイレギュラー対応を担う。そうした人間と機械の役割分担がしっくりくる業務領域は思いのほか多い。だからこそ、予測の先にある行動計画への橋渡しを支える数理最適化の導入が、今後さらに注目されるだろう。



リファレンスノート

1. 背景と概念の整理

1-1. DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質

デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術を活用し、ビジネスモデルや企業文化、組織体制などを根本から変革する取り組みである。単なるITシステム導入ではなく、データを活用して業務プロセスや意思決定を刷新し、競争優位を確立する ことが大きな目的となる。

1-2. 予測と数理最適化の役割

  • 予測
    機械学習や統計モデルを用いて、需要・売上・故障確率など、将来の値を推定する。多くの企業が売上予測や在庫予測に着手しているが、予測結果をどう行動につなげるか が次なるハードルになりやすい。

  • 数理最適化
    多数の制約条件の下で、利益や効率の最大化、コストやリスクの最小化を数式モデルで追求する。組合せの爆発や複雑な制約をアルゴリズム(ソルバー)で高速に解き、最適な計画や方針を見つけ出すのが狙い。
    予測結果を入力として、最適な意思決定 を自動的に導くことができる。


2. 予測×数理最適化の狙いとメリット

  1. 意思決定の高度化
    需要予測が高精度でも、それを現場がうまく反映できなければ効果は限定的。そこに数理最適化をつなげることで、「制約を考慮した最善策」 を導き出し、意思決定を客観化・高速化する。

  2. 属人的判断の削減
    人間の勘や経験だけに頼っていた複雑なリソース配分(シフト編成、在庫発注、配車ルート計画など)を、モデルベースで検討できるため、担当者の負荷が下がり、再現性が高い意思決定が可能になる。

  3. DXの推進
    現場のデータ活用レベルが上がり、「予測 → 最適アクション → 実行 → 検証」というデータドリブンな循環が生まれる。組織全体の変革速度を上げ、競合優位につながる。


3. 主な活用領域と事例

3-1. サプライチェーン領域

  • 需要予測+在庫最適化
    需要の変動を予測し、欠品と在庫コストを両立させる仕組みを数理最適化で構築。PDCAを回しながら発注タイミングや在庫水準を更新していく。

  • 生産スケジューリング
    工場の生産ラインで、どの商品をどの順番で作るかを最適化。設備切り替え時間や作業員のシフトなど、多数の制約に基づく効率アップが期待される。

3-2. ロジスティクス・配送計画

  • 配車計画(Vehicle Routing Problem)
    配送車・トラックが複数拠点を回る際、最短経路だけでなく運送量やドライバー勤務時間などを総合的に考慮。機械学習で需要を予測し、最適ルートをソルバーで導く。

  • 梱包・パッキング最適化
    商品サイズや破損リスクを予測し、箱詰めのパターンを数理最適化。燃料コストやCO2排出削減にもつながる。

3-3. マーケティング・販売促進

  • ダイナミックプライシング
    需要予測や競合動向を踏まえ、在庫状況や予約率などを考慮して価格を動的に最適化。ホテルやEC、イベントチケット販売などで活用されている。

  • 広告枠・棚割りの割り当て
    複数の広告素材を組み合わせたり、店舗の棚スペースをどう配分するかを数理最適化で決定。視聴率の予測や商品需要のトレンドをモデルに組み込み、効果を最大化する。


4. 全体フロー:予測+最適化を組み込んだDXのステップ

  1. 課題定義と目標設定
    例:コスト削減か、売上最大化か、配達時間短縮か。KPIを明確にし、どこを最適化したいかを限定する。

  2. データ収集と準備
    予測モデル構築には、過去の売上・在庫・交通情報などが必要。最適化モデルにはリソース制約や業務ルールなど、定量化可能な制約条件 を整理する。暗黙知の引き出しが不可欠。

  3. 機械学習による需要・リスクなどの予測
    短期・中期・長期予測の使い分け。モデルの精度を検証し、誤差許容度を把握する。

  4. 数理最適化モデルの設計
    目標関数(何を最大化/最小化したいのか)と制約条件を定式化。整数計画法や制約プログラミングなど、問題に適した手法を選択する。

  5. ソルバーの選定・運用
    商用ソルバー(Gurobi、IBM CPLEXなど)か、オープンソース(PuLP、Pyomoなど)かを選ぶ。サイズや解の速度、サポート体制を考慮する。

  6. PDCAサイクルの定着
    試験運用で問題点(現場ルールの抜け漏れ、モデルと実態のずれ)を洗い出し、制約を修正。精度向上と納得感を得ながら循環させる。

  7. 組織への展開・定着
    人間が最終判断する点を明確化しつつ、オペレーションの属人化を減らす。データ駆動型の文化を育むことで、他領域への拡張も容易になる。


5. 成功要因と課題

  1. データガバナンス
    多部門にまたがるデータを一元化し、クレンジングや名寄せを行う必要がある。セキュリティやプライバシーにも配慮。

  2. 暗黙知の顕在化
    「現場の小ワザ」や「当たり前にやっている制約」を模型化してこそ、最適化は機能する。ヒアリングやワークショップでじっくり反映させる。

  3. 抵抗感の克服
    アルゴリズムのブラックボックス化に対する不安、判断プロセスの透明性の確保が課題。可視化と丁寧な説明が不可欠。

  4. 継続的なアップデート
    事業環境や顧客ニーズは刻々と変化する。予測モデルと最適化モデルも定期的にメンテナンスし、過去の解が陳腐化しないようにする。


6. 期待効果と展望

  • 業務効率の大幅向上
    複雑な計画を人手で考える時間が削減され、担当者は価値の高い業務(例外処理や戦略立案)に集中できる。

  • コスト削減と売上向上の両立
    需要とリソースをマッチングさせるため、余剰在庫や廃棄、無駄な輸送が減る。適切な価格設定により売上の取りこぼしも防ぎやすい。

  • DX加速と競争優位
    組織全体がデータを活用して決定を下すカルチャーへ移行し、新規事業・新サービスの可能性を探りやすくなる。

  • イノベーション創発
    予測と最適化を組み合わせた新しいソリューション(例:スマートシティの交通管制、リアルタイム動的価格保険など)につなげやすい。社会全体の生産性向上に寄与する。


7. まとめ

予測モデルだけでは「未来を読む」ことはできても、その情報を活かした最善の動き方は見えてこない。そこに数理最適化を組み合わせることで、複雑な制約やリソースを踏まえたうえでの具体的なアクションプランを導き出せるようになる。
これこそがデジタルトランスフォーメーションの本質といえる。「データから意思決定へ」のプロセスを短縮し、組織の構造やマインドを変革するインパクトは大きい。企業の戦略やビジネスモデルを加速的に変えるうえで、予測×数理最適化の連携は、これからのDXにおける標準的アプローチ となるだろう。

以上が、予測と数理最適化を組み合わせたDXの体系化である。


専門用語補足

  • 数理最適化(Mathematical Optimization)
    リソースや制約条件の下で、最大化もしくは最小化を図る解を求める手法全般。線形計画法 (Linear Programming) や整数計画法 (Integer Programming) といった手法が代表的。

  • ソルバー(Solver)
    数理最適化モデルを入力として、最適解(もしくは近似解)を高速に探索するアルゴリズムやソフトウェアの総称。IBM CPLEX、Gurobi、SCIPなどが有名。

  • ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)
    需要・在庫・競合状況などに応じて、リアルタイムや短期スパンで価格を柔軟に変動させる手法。ホテルや航空券の料金変動などが身近な例。

  • 棚割り(Shelf Space Allocation / Planogram)
    小売店舗において、限られた棚スペースに商品をどのように並べ、どのくらいのフェイス数を割り当てるかを最適化する考え方。需要予測やカテゴリ分類、顧客動線などを考慮する。

  • 暗黙知(Tacit Knowledge)
    ドキュメント化されていない知見やノウハウ、職人技など。数理最適化では、これらを制約条件や数式としてモデル化する段階が重要。

  • PDCAサイクル
    Plan(計画)→Do(実行)→Check(検証)→Act(改善)を繰り返す方法論。数理最適化の導入では、試験運用して結果を検証し、制約を追加して再度最適化するといったPDCAが必須。

  • DX(Digital Transformation)
    デジタル技術を活用して組織やビジネスモデルを変革すること。ここでは「データに基づく意思決定プロセス」の導入と定着が焦点になっている。

  • 在庫最適化(Inventory Optimization)
    在庫コストと欠品リスクのバランスを取りながら、どのタイミングでどれだけ仕入れ・補充するかを決める最適化手法。需要予測が正確であるほど効果が高まる。

  • 配車計画(Vehicle Routing / Dispatch Planning)
    トラックや配送車を複数の拠点・顧客に効率よく回すためのルーティングの最適化。VRP(Vehicle Routing Problem)として古くから研究が盛ん。


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