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ほんならお風呂に入れてみて
おじいさんは片麻痺となり、寝たきりの状態で入居してきた。ほとんどの介助を拒否していて、ベッドで寝てばかりの生活を過ごしていた。
おじいさんは憤っていた。今自分が置かれている状況を、一体誰のせいにしたらいいのか。本当は誰のせいでもないと気づきながらも、折り合いのつけることの出来ない感情に、自分を見失いつつあったのだ。
ここから日常業務を通じて生活を共に作り、僕らとの関係性を育んでいく。
そう言えば聞こえはいいが、じゃあ具体的にどうするのか。よく介護の世界で言われる、その人らしい生活を支援する、今までの生活の継続って、寝たきりを継続することなのか。
そうではなく、おじいさんがいままで年老いて障害を抱えるまでに行っていた生活を、できる限り続けていくということ。それは、座ってトイレで排泄し、美味しいご飯を食べること。
トイレに座るようになり、オムツが外れ、自信を取り戻し、少しずつ元気になってきたおじいさん。そこでもうひとつの課題が残っていた。
おじいさんはお風呂に入っていなかったのだ。
正確に言えば湯船に浸かっていなかった。片麻痺になってから一度もなかったそうだ。身体も大きく、上手く入れずにシャワー浴だけとなっていた。
そこでおじいさんと色々相談して、湯船に入ってみることになった。最初は嫌がっていたが、入る時はこうして、出る時はこうしたら大丈夫!と伝える。トイレの成功から、ある程度おじいさんと信頼関係が築けていたからか、
「ともちゃんほんならお風呂入れてみて…」
振り絞ったおじいさんの勇気に、応えないわけにはいかない。
そしていよいよ入ってみることに。恐る恐るながら、ゆっくりと暖かいお風呂につかる。
「あ~気持ちいい!!」
満面の笑みと共に涙ぐむおじいさん。およそ数年ぶりに湯船の中に身体を沈め、肩までお湯に浸かることとなった。
障害があるからこそ少しでも、培ってきた生活習慣を守っていこう。なにも難しいことはない。簡単なことで、できることからでいい。特別な状態にあるから特別な生活をするのではなく、特別な状態だからこそ、特別な工夫をして普通の暮らしを目指すのだ。それだけで、その人らしい生活は支援できる。おじいさんの笑顔を取り戻すことは可能なのだ。
ちなみに、おじいさんは一分で湯船からあがった。笑
無論、それでいい。おじいさんらしいお風呂の完成だ。