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だって聞かれなかったから


寝たきりで終日オムツという申し送りがあって、入居されたおばあさん。
この人は何もできません、という情報(どんな情報や)が事前に耳に入っていた。

入居当日、他施設から来られたその方はしっかり車イスに座っていた。
まず“座ることができる”ではないか…どんな重度な人かと思えば受け応えもハッキリしていた。
座れるなら話は早い。様子見でも良かったが、

「ちょっとの間座ってもらってても大丈夫ですか?」

「いいよ、大丈夫!」

三十分を経過しても特に変わった様子はなかった。もう寝たきり脱却は目の前だ。

おばあさんはオムツをつけていた。でも一つ質問をしてみた。

「おしっこ行ってみましょか、おしっこわかります?」

寝たきりでオムツを着けているので、当然尿意の感覚はわからなくなっているか…と思いきや、

「うん、おしっこいきたいねん」

明確に尿意を訴えるおばあさん。トイレにお連れすると、おしっこは見事な音を立てていた。

おばあさんは長く寝たきりで、オムツを着けられていたから、当然尿意はわからない。というのはこちらの思い込みだったのだ。
では、なぜおばあさんはずっとオムツだったのか…その答えをおばあさんからうかがった。


「だって…誰にも聞かれなかったから」


主体性を大切にするとはどういうことか。よく研修などでも質問したりする。
「その人の生活歴を調べて~」
「好きな食べ物を提供する」
「家族さんと相談して対応する」
それらもとても大切なことだ。だが、主体性を大切にする上で、最も重要かつ誰にでもできることは、

本人に聞く

それだけだ。おばあさんは誰からもトイレに行くかどうか、おしっこがわかるかどうか聞かれなかったのだ。それどころか、生活の様々なことを聞かれずに決めつけられた結果が、寝たきりだったということだ。
それだけで、何もわからない人となっていた。

おばあさんはその日からオムツが外れてトイレに通うようになった。その都度おばあさんに聞き、トイレにお連れするようになったから。

もちろん聞いても答えられない人もいるかもしれない。そこから表情や微妙な変化を読み取ろうとしたり、家族さんに聞いてみたり、みんなで話し合って決めていく、ということになる。ただ、そこにも必ず本人を中心に置くというスタンスが必要不可欠なのだ。

「リーダーおしっこ連れてって」

おばあさんは聞かれる前から、おしっこを訴えるようになった。
おばあさんのことをおばあさんに聞くだけで、おばあさんの主体性は引き出されたのだった。

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