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野糞、それは伝説の根源(宮本常一『民俗学の旅』)
宮本常一『民俗学の旅』,講談社,1993,p82,(講談社学術文庫)
肺浸潤の療養のため郷里へ帰った常一は、伝説の根源を垣間見たという。
「病気がよくなると野や山をあそびまわった。草の中に寝ころんで空を流れる白雲を見たり、沖の島の上で夕日を長いあいだ見ていたり、浜へ出て海を石を投げていたりするのを見た見た村人たちは私が気がくるったのではないかと思ったらしい。
(中略)そして私が気が変になったという噂が村中にひろまり、小学校の子供たち私を見ると逃げ、石などを投げるようになった。
(中略)ある日同じように野の道を歩いていて、大便がしたくなったので、今本という丘の松林の中に入って用を達した。松の木の下に小さい瓦の祠があった。それから間もなく村の中に私が病気の回復を祈るために今本の稲荷様に参っているという噂が流れはじめた。
昭和7年3月、健康も一通り回復したので師範学校時代の先生に進められて上阪し、大阪府泉北郡北池田小学校へ代用教育として勤めることになった。
ところが郷里の方では稲荷様に祈願して病気がよくなったという噂がひろまり、その稲荷様はにわかに大流行することになった。
私は伝説などの根源をそこに見るような思いがした。」