カフェ・ロワイヤル

カフェ・ロワイヤルという飲み物を知っているだろうか。コーヒーの上に、ブランデーを染み込ませた角砂糖を乗せたスプーンを置いて、角砂糖に火をつけたものだ。青く燃える角砂糖、コーヒーの黒、そしてカップの白のコントラストが素敵な飲み物である。かの有名なナポレオンが愛したことで有名だ。

私が、浅草に住んでいた頃、よく休日は浅草から上野まで歩いては道中の合羽橋や仏壇通り、上野公園をふらふらしていた。上野は少し地味な待ちに見えるかもしれないが、かなり人は多い。それもそのはずだ。動物園だって、美術館だって、博物館だって、映画館だってある。ちょっとスカイツリーの方に足を伸ばせば、水族館だっていけちゃうのだ。昼から飲み屋で管を巻くことも、文芸や芸術に浸って粋を堪能することも、ぼんやり公園で絵を描いたりすることも全然できてしまう。だから上野は素敵な街なのだ。

上野から上野広小路、秋葉原方面に歩いていくと、老舗の喫茶店がある。珈琲処ボナールさんだ。入り口に綺麗な花と食器が飾ってある素敵なお店で、私が伺う時はいつもさまざまな人たちが他愛もない会話で盛り上がっている。

ボナールさんは、コーヒーがそもそもおいしく、それだけでも行く価値があるのだが、ある時徐ろにカフェ・ロワイヤルを頼んでみることにしたのだった。そういう気分だったのだろう、特に理由はない。珈琲全般が好きなのだから。

運ばれてきたカフェ・ロワイヤルは、青白い光を放ちながら、白と金色の食器に注がれてやってきた。私はその時の衝撃が忘れられない。「すごいな」と素直に感じた。スプーンは、カップにかけるように作られた専用のものが使われており、白と金色のコントラストがたまらない。結局、正しい飲み方はわからなかったが、溶けていく角砂糖を見ながらぼんやりして、その後、コーヒーの中に角砂糖を溶かして飲んだ。ブランデーのほのかな香りと、少し甘くなったコーヒーの少し優美な香りを今も覚えている。

夜の遅い時間、少し濃いめのコーヒーを入れて、角砂糖をブランデーでフランベしつつ、少し暗くなった部屋でぼんやりする。そういう大人な時間の過ごし方を私もいつかしてみたい、と思ったのだった

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山本隼汰 | Hayata Yamamoto
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